【中篇】
さて、僕と君の同居生活はすこぶる順調だった。
僕は百合を探す名目で家を空けることが多かったが、君と過ごす時間はなかなか興味深いものだった。
少ない時間の中でも、友達の話、部活の話、文化祭の準備についての話、君の悩みや喜びの報告を聞くのは、楽しかった。
君からよく聞く友達の名は、シホちゃん、ナナミちゃん、ツトムくん、サカガキくん。
サカガキくんは、どうやら君に気があるようだ。
話に登場するサカガキくんは若干ツンデレ気味ではあるが、公立共学校になれない君を気遣ってさりげなく助けてあげている。
いじりがいのありそうな……いや、なかなか好ましい少年だと、僕は思った。
それに、君も少なからず彼に好意を持ってる様子だった。
だから、僕はほくそ笑んだ。
青春に恋愛はつきものだ! いや、恋愛こそが青春の醍醐味だ!
ああ、甘酸っぱい初恋の気配!! なんて、おもしろそうなんだ。
折をみて、それとなく君の恋愛(仮)を応援するのに僕は情熱を傾けた。
いままで散々世話を焼いてきた百合が手元を離れて暇だったからでは断じてない。
僕はもともとこういう話が大好物だ!
サカガキくんを生で見る機会の文化祭には、これ幸いにと万由ちゃんをダシにして参上した。
千佳ちゃんを泣かせたらただではおかない、とサカガキくんに釘を刺しつつ、二人の関係の進展を期待する旨を伝えた。
もうそろそろ夏休みという日だった。
エアコン嫌いの君は扇風機に髪をされるがままに、床に寝そべり読書をしていた。
『アイスコーヒーいる人ー? 』
僕の問いかけに無言で君は手を挙げた。
『百合は紅茶党だからね。千佳ちゃんは一緒にコーヒー飲んでくれてうれしいな』
僕が差し出したグラスを受け取る君の挙動が何かおかしい。なんだか、顔も赤いようだ。
『千佳ちゃん、なんだか顔が赤いけどのぼせたかな? それとも、夏風邪? 』
熱は、と額に手を伸ばす僕の手を振り払い、君は乱暴に首を振る。
『な、なんでも、ないっ! 』
声をひっくりかえして、首を振り続けるため、左手の中のアイスコーヒーは今にもこぼれそうだ。
『そう? 気をつけてね、小さい頃はよくお腹出して寝てたでしょ』
『なっ、そんなことないっ!! 』
たわいもないやり取りだった。
春からはじまった僕と君の日常だった。
だが、気づいてしまった、気づいてしまった……気づいてしまった。
自分のグラスを傾け、それを一気に胃に流し込む。
君は、僕に恋をしているらしい。