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第8話 事故の疑惑


第8話 事故の疑惑



愛は事務所の中で史也の服に着替えた。その方が話しやすいだろうと言うのが翔子さんの提案だった。

タイフーンアイに戻ってくると、ドアが開かれていて、外の廊下にも人が溢れていた。

全員が愛を見て固まった。愛の後ろから翔子さんが説明した。

「この人は、史也君の彼女で高宮 愛さん。史也君の最後までの様子を知りたくて、わざわざタイフーンアイに来られました。みんなが女装者だと言う事は知ってみえます。大阪での史也君の事…愛ちゃんの事を話してあげてください。」

固まっていた一団はゆっくりと解けて愛の周りに集まり、愛の手を握りしめた。愛ちゃんだ。愛ちゃんが戻ってきたよと言う声につられるように、全員が泣き出した。そして、ひとりひとりが、史也の想い出を語っていった。それは、愛の知らない尊敬に値する人間の話しだった。翔子さんの言った通り、事実上ミナミの彼女達を精神的に支えていたのは、翔子さんと史也に他ならなかったと愛は感じた。自分は史也の素晴らしさのほとんどを知らないでいた事も…。失った物は、あまりに大きいものだった。そして、史也の死を悼む人が増えるたびに、自分の悲しみなど、小さなもののように思えてきた。そして、大きな重荷が軽くなってゆくようだった。彼女達が愛の重荷を一緒に持ってくれている。

「ここに来る意味は、そこにあったんだね」

と、愛はつぶやいた。



全員が話し終えたあと、カットソーにジーンズの人が口を開いた。

「実は。あの事故の事で気になる事があるんです」

「気になる事?。」

愛は軽く受け流そうとした。しかし、それは軽い話しではなかった。

「ひとつ目は。あの玉突き事故の原因になった先頭のトラックの運転手なんですけど。神明(じんみょう) 良介(りょうすけ)。彼はキタの方の女装者で、史也さんとは知り合いなんです。」

「キタ?。」

「心斎橋やなんば辺りがミナミで、梅田を中心にした辺りがキタと言います。私達は普段、なんばのミナミを中心にしてるんです…。それでふたつ目は、キタの人の話しだと…どうも神明と史也さんが揉めていたって言うんです。あの事故の日。」

「……。」

「みっつ目は、神明のトラックに積荷が載っていなかった…それは、積荷を下ろした帰りでもなく、積荷を載せに行く所でもなかった。つまり、どこに行くつもりだったのか、はっきりしてないんです。」

「……。」

「よっつ目は。史也さんの後ろに追突した運転手は助かってるんですが…神明が血を流しながら、押し潰された史也さんの車に近づいてきて、中を覗き込んで、外に出そうとしているように見えたそうです。もちろん、どうしようもない状態なんですが…手にバールのような物を持っていたのが奇妙だったと…。」

「…つまり。殺された。故意にスリップして。」

「神明は12台を巻き込んだ玉突き事故を発生させ、5人を死亡させ、業務上過失致死で逮捕されました。そこまでさせる恨みとは、何なのかわかりません。しかも相手は愛さんです。そこまで恨みをかうような人じゃ有りません。やっぱり事故だったのかと思いました。偶発的に殺してしまう結果になったと…。」

彼は、彼女は、そこで沈黙して遠くを見つめる目をした。

「栄子ちゃん…この子なんですけど。」

隣りのショートヘアの子に向かって言った。

「神明の弁護を担当してる弁護士さんなんです。」

栄子ちゃんが話し始めた。

「…こんにちは愛さん。実は、豊橋の交通刑務所に神明は収監されてるんですが。この一年間で12回、面会に来てる人物が居るんです。」

栄子ちゃんは、そこでいったん沈黙した。

「…それが、どう繋がるんですか?。」

栄子ちゃんは、意を決したように言った。

「あなたに繋がるんです。」

「私に?。」

「高宮 幹彦さん。わかりますか?。」

「えっ?。…父は幹彦ですが。」

「ええ。神明の12回すべての面会に来たのは、あなたのお父さんです。」

ーつづく


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