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第1話段ボール箱の遺品


献辞


管理者のウメさんに


恋人を失った全ての女性に

いつかその顔を上げて

明日に向かって立ち上がる

その日が来る事を信じて



第1話 段ボール箱の遺品


一年前のその日。史也(ふみや)は岐阜に戻るはずだった。名神高速の玉突き事故の映像の中に、愛は白のワゴンを見つけられなかった。葬儀はまるで記憶もなく、史也の車はあの中にないじゃないと言い続けた自分を、父親が殴りつけた事だけが鈍い痛みと共に残っていた。

史也の車の中に残っていた遺品が段ボール箱に入ったまま、部屋の片隅に置かれていた事に気づいたのは、命日が一週間後に近づいた時だった。貼られていたガムテープをそっと剥がした。開けた中を覗くと、白い紙バックが見えた。

「何?」

まず、綺麗にたたまれた黒いキャミ。デニムの下側が、黒地に赤い花柄が抜かれてフリルになっているスカート。七分丈の長袖のニット。ピンクのブラとペアのパンティ。黒のスリムウォーク。

史也のお母さんが…あなたの服がありました…と言ったのを思いだした。

でも、この服に愛は見覚えがなかった。プレゼントにしては着てある形跡があった。

「…私の他に、誰かいたんだ…。」

史也は時々日曜になると大阪に一人で遊びに行っていた。

「きっと、この人も同じ気持ちだろうな…。」

愛は、この服の持ち主に会ってみたくなった。大阪の史也の事を知りたいと思った。どんな店に行って、どんな所で遊んでいたんだろう…。不思議に嫉妬する気持ちは湧いてこなかった。むしろ、自分の行き場のないやり切れなさ、寂しさを共有できるのは、この服の持ち主しかいないと愛は思った。


史也は時々、行きつけの岐阜のバーに愛を連れて行ってくれた。大抵は親友の杉本 明が一緒だった。明が大阪の彼女の事を知っているかもしれない。そう思った愛は、明に電話をかけた。命日の土曜、明にそのバーに来てくれるように頼んだ。

「…愛ちゃん。条件がある。史也の墓に花を供えてやって欲しい。愛ちゃんがそんなんじゃ、あいつ死にきれないよ…。」

携帯の向こうで、明は非難するように思えた。

「それで明君の気持ちが収まるなら…。」

「俺のため?。」

「私、史也にまだ、さよならを言えないの。言いたいけど、言えない。明君、史也にさよならを言う為に力を貸してくれない?。」

「…わかった。そういう事なら。」

明は愛の何らかの決意を感じた。それが、どこにどう繋がってゆくかを愛は知るよしもなかった。 ー つづく


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