第11話 ラストショット
第11話 ラストショット
その日。梅田は泣きだしそうな空だった。
史也の服を着て、愛は阪急東の横断歩道を走って渡った。
ツタヤを過ぎ揚子江ラーメンを過ぎた所でポツポツ降り始めた。それでも空に三日月が輝いて見えた。
路地を入り、タイフーンアイに上がった。
ドアの横の看板は動いていなかった。ドアも鍵が掛かっていた。
「休みか…。」
廊下の奥に窓があり、そこから三日月が見えた。
エレベーターがゴトンと開いて理彩が出てきた。
「…あれ?。愛さん。どうしたの?。」
「今日は休みなんですか?。」
理彩ははにかんだように笑った。
「ウゥン。私が寝過ぎたの。ごめんね。」
「あの、理彩さん。写真撮って欲しいんです。」
理彩は愛の服を見た。
「同じように?。」
「はい。同じようにだけど、史也の所は開けて撮ります。」
「ツーショットって訳?。幸せね、史也君は。」
愛はカメラを渡して、看板との間を開けて立った。
「私がしゃべり終わったら、シャッターを押してください。」
「どうぞ〜。怖い事起こさないでよ〜、史也君。」
愛は息を整えて言った。
「史也。史也が男であろうと女であろうと、私の気持ちは変わらないよ。史也を尊敬し史也を愛しています。あなたは別の世界に行って、この世界にもうあなたは居ません。でも、あなたの意志は私の中に生きています。その意志と共に未来を生きてゆきます。あなたが居なくても必死に生きてゆきます。さよなら。史也。私は大丈夫。さよなら。あなたの居る世界で、あなたも魂を生き抜いてください。」
理彩は涙を溜めながらシャッターを切った。
……看板が突然まわり始めた。回転がどんどん上がり始め、電球が明滅してしばらくすると、まばゆいばかりに光って、煙りが出て、ボンと音がして止まった。
「壊しちゃってどうすんのよ。史也君。さよなら言うなら、こっちの蛍光灯にしといてよ。」
理彩はカメラを構えたままの姿で、呆れたように見ていた。その視線が廊下の窓の方に移って、目が見開かれた。
「愛さん見て。見逃したら後悔するよ。」
愛は振り返って見た。
看板から出た煙りが人の形になりつつあった。
そして、顔や形がくっきりとなった。
史也は苦痛に歪むでもなく、驚いたようでもなく、愛を見て穏やかに微笑っていた。神明が潰れた車の中で見た顔に間違いなかった。
最期の姿。
愛は
ーたどり着いた。最期のあなたにー
とつぶやいた。
そして聞こえた。
ーありがとう。よくここまで来てくれた。さようなら愛。僕もこの新しい世界で頑張るよ。僕の意志をよろしくお願いします。僕も愛を尊敬し愛を愛していますー
理彩は、史也を形づくった煙りが、スッと開けられていた窓に吸い込まれてゆくのを見送った。
その向こうに三日月がくっきり輝いていた。
ー次話 エピローグにつづく