第五章・真実の心 (10)
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目が覚めると、そこはどこかで見た風景だった。
「…………」
どうやら病室にいるらしい。ゆっくりとあたりを見回すと、傍らに父親の姿があった。
「目が覚めたか」
優しい口調で、父親はトモエに語りかけた。
「お父さん。……私、どうしたの?」
「急に倒れたそうだ。お前の友人たちが、病院まで運んでくれた」
トモエはあれからのことをぼんやりと思い出した。邪霊の魂を救済した後、彼女は急に力が抜けてゆくのを感じ、そのまま意識が遠のいていった。思った以上に体力の消耗が激しかったらしい。劇的に自分の内的エネルギーを使用したのだから、考えてみればそれも当然であった。
「友人たちもまだ残ってくれている。お前のことを、とても心配していたよ」
「そう……。お母さんは?」
トモエが訊くと、父親は少し意外そうな顔をした。
「ああ――。ここには来ていない。何か話でもあるのか?」
「うん。今すぐじゃなくてもいいんだけど」
昨日の戦いを通じて、トモエ自身も気づいたことがたくさんあった。今の母親に対して、歩み寄りが足りなかったというのはそのひとつである。母親が自分を嫌うのは、自分の方が母親を拒絶していたためかも知れないと、彼女は思った。今後、関係が修復できるかは分からない。しかし、少なくとも試みないことには、変わるものも変わらないだろう。一緒に住んでいるなら、なおさらだ。
「お母さんは今大変なんだ。家が壊れてしまったろう。建て直すまで、別の家で住まなければならない。幸いすぐに住むあては見つかったんだが、引っ越しの作業に追われているんだ」
「そうなんだ」
「だが、心配はいらないよ。お前は今はゆっくり休め。お父さんが後で手伝いに――」
「トモエ!」
突然、甲高い声が室内に響き渡った。見れば、アイラが病室の入り口から、こちらに駆け寄ってくる。彼女は父親を押しのけるようにトモエのそばまで来た。
「良かったァ! 心配したンだヨ!」
病室に他のメンバーも入ってきた。トモエが起きていることを確認すると、みな表情を変えた。まどかが「鶴洲先輩!」と叫び、アイラに続いてトモエに駆け寄ってくる。
父親は黙って席を立ち、一歩下がったところに立つ凜と愛稀に目で挨拶をし合い、病室を出ていった。
「デモ、凄かったヨネ! 巫女モード」
アイラが目を輝かせて云った。
「……巫女モード?」
「巫女サンみたいな格好してたジャナイ」
(だから巫女モードって……)
安直すぎるだろ――、とトモエは思った。だが、別にいいかという気もした。魔法少女や邪霊といったように、名称というのは相手に対象を認識させるための記号なのだ。ならば、シンプルな方が分かりやすくていいかも知れない。
「トモちゃん」
声のした方をトモエは見上げた。
「お姉ちゃん……ごめんなさい」
と、彼女は頭を下げた。
「ううん。私の方こそごめん。トモちゃんの気持ち、ちゃんと分かってなかったよ」
「でもお姉ちゃん、私負けないから!」
愛稀は一瞬、キョトンとした顔をした。けれどじきに笑顔になり、「うん」と大きく頷いた。
「さあ、そろそろ行くか」
凜が云った。
「え、もう?」
まどかがやや不満そうに返す。
「これ以上騒いだら、他の人たちに迷惑だろう」
凜はそう云って、病室の出口へと歩きだした。
「お兄ちゃん、ありがとう」
トモエが声をかける。
「僕の力じゃない。君の力だ」
凜はそう言葉を残し、病室を後にした。
「じゃあ、私たちも行こう」
愛稀はあとのふたりを促し、
「じゃあ、またね」
とトモエに微笑んだ。
トモエは手を振って返した。




