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第五章・真実の心 (9-1)


 9



 愛稀たちはチャネルの入り口を背にする形で、邪霊に向き直った。


 ふいに、穴の中から何かが飛び出し、邪霊に突き刺さった。それは、向こうの世界からこちらに向けてアイラが放った、浄化の矢であった。


 一拍置いて、ウオォォォ! と邪霊は唸った。怒りに震えるような、あたりを揺るがすほどの強烈な咆哮の後、邪霊は穴に向かって突進した。愛稀たちは咄嗟に脇に逸れ、邪霊に進路を譲った。そのまま、邪霊はトモエを引き連れたままで、穴の中へと入り、そして消えていった。


「やった……」


 気が抜けたらしく、まどかがぺたんとその場にへたりこんだ。


「これでひと段落ですね。あとは、凜さんたちに任せましょう」


 “宇宙の意志の権化”も安堵の声を漏らす。


 そんな中、愛稀だけが神妙な面持ちでいた。


(凜くんは頭のいい人。彼の立てた作戦、きっとうまくいくと信じたい。なのに私は、どうして不安を拭いきれないの……?)


 凜の論理が間違っているとは思えない。けれど、ここにきて愛稀はこの作戦に対しての信用が揺らぎ始めていた。重要な何かが見落とされているような気がしてならない。しかし、それが何なのか、彼女自身にもよく分からなかった。



――



 “宇宙の意志の権化”からの通信があり、アイラは矢を穴に向けて放った。これで邪霊をチャネルにおびき寄せる手はずは整ったはずである。


「アイラ、浄化の念を穴に向かって放つんだ」


 凜が云った。アイラは頷いて、穴に向かって手をかざした。すると、穴の先にガラス板のようなものが浮かび上がり、穴に向かって緑色の光をシャワーのように放った。これは浄化の念をチャネル内に送り込むことで、邪霊の進行を少しでも遅らせようという試みだった。トモエと邪霊が飛び出すタイムラグがあればあるほど、この作戦は成功しやすくなる。


 やがて、穴の奥から光が生まれ、それが明滅を繰り返しながら徐々に強くなっていった。凜とアイラはその身を構えた。トモエが出てくれば、ただちに彼女を助け出し邪霊が出現する前に魔力で穴を封鎖しなくてはならない。


しかし、光の中から出てきたのはトモエではなく、邪霊の方であった――。


 突風が吹き荒れ、凜とアイラは吹き飛ばされて地面を転がった。


(なぜこんなに早く邪霊が出現した……?)


 全身に強い痛みを感じながらも凜は考えた。そして、頭の中に浮かんだ言葉にはっとした。


(突然変異!?)


 突然変異、ミューテーション。


 生物の遺伝情報が書き変わり、その性質が変わってしまう現象。生命の存続を脅かしもするが、数千年単位で見れば進化ももたらすという、そんな生命のもつ根本的な性質である。


 あの邪霊は、別の次元世界で長い年月をかけ他の生命を駆逐し、世界を支配した。それからも長い年月が経っていることだろう。どれだけの年月が経っているか知る由もないが、合わせて数百年か、数千年か、もしくは1万年近い時間が流れているかも知れない。それだけ長い時間が経っていることは、“宇宙の意志の権化”が本来の姿を失い、あのような姿に変貌してしまったことからも、容易に推察ができる。


(長い期間かけて遺伝情報が変化し、肉体を有した状態でスピリチュアル・ワールドに存在できるようになったと考えても、おかしくはない。そして、そのために、物質転換の時間が省略されたとしたら……)


 凜は大きな誤算に気づいた。彼は従来通りのセオリーからこの作戦を考えた。しかし、相手は世界を滅ぼしたほど強大な力をもつ邪霊である。イレギュラーな事態が起こっても不思議はなかったのだ。


 しかし、そのことに気づいても、時すでに遅し。どうしようもなかった。


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