第五章・真実の心 (7-2)
「お姉ちゃんの声が聞こえる……」
寝そべったままでトモエは呟いた。自分の意識の及ばない遥か遠くの世界で、愛稀が自分を呼んだのが小さく聞こえた。けれど、その声を聞いても何の感情も生まれてこなかった。自分とは違う世界で起こった出来事のように、実感がないのだ。
「お姉ちゃん。私もう疲れちゃったんだ。……このまま眠らせて」
トモエはゆっくりと目を閉じた。眠ってしまえば何も考える必要もなくなる。彼女は甘美な世界に誘われたかった。
――何をいじけておる――
どこかから声が聞こえた。先ほどの愛稀の声とは違い、鮮明に頭の中を響き渡る。トモエは目を見開いた。
「だ、誰!?」
トモエは叫んだ。
――わらわの声を忘れたか?――
そう尋ねる声に、トモエはたしかに聞き覚えがあった。しかし、にわかには信じられない。もう聞くことはできないと思っていた声だった。
「ま、まさか……」
次の瞬間、空間が急に反転した。明るかった世界は真っ暗なものにとって代わり、地上に寝そべっていた彼女は天から地面へと落ちた。
「痛たた……」
よろよろと起き上がるトモエの目の前に、ふたりの少女が立っていた。どちらも、暗黒の周囲とはうって変わって、不思議なくらいに鮮明にその姿を現している。ひとりは、トモエとだいたい同じくらいの年齢、そして傍らに立っているのは少し年下の、だいたい12、3才くらいの少女であった。どちらも、清潔そうな純白の着物を着て、下には朱色の袴をはいている。
「久しぶりじゃな、トモエよ」
同じくらいの背格好の少女が、トモエに云った。
「うそ……」
呆気にとられた顔で、トモエは呟いた。目の前にいるのは、二度と逢えないと思っていた相手だった。忘れ去られた歴史の狭間で出逢い、トモエに浄化の力を授けた祈祷師、そして彼女の後を継ぐこととなった付き人――、マオとイチコの姿がそこにはあった。




