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第五章・真実の心 (6-3)


 凜は道の向こうにぽつんと立っている、ドリンクの自動販売機のところまで歩いてゆき、硬貨を入れてボタンを押した。出てきた缶コーヒーを手に取って、プルタブを開け、喉へと流し込む。


 そこへ、アイラが歩いてきた。不満そうなアヒル口で凜を見上げている。


「云いタイことガふたつあるんだケド」


「何だ?」


「まず、愛稀サンたちにカフェインを摂るナとか云っておいテ、自分はそんなモノ飲ンデルノ、というノがひとつ」


「それは向こうは眠らなければいけない組で、こちらは起きて待機していなければいけない組だからだ。互いに課せられた役目が違えば、必要なもの・不必要なものも変わってくるだろう」


 凜は即答した。そのくらい、何が悪いものかという思いがあった。


「ナルホド――。ジャア、あともうひとつ」


「何だ?」


「ソノ待機してなければイケナイ組に、私も入ってるんだケド。いたいけな女ノ子放っておいテ、自分ダケ勝手にそんなモノ飲んデルっていうのは、青少年ノ手本となるベキ年配者としてドウナノ?」


「ああ、そういうことか……」


 凜は納得したように頷いて、自動販売機に再び硬貨を入れた。


「悪かった。好きなもの買っていいよ」


「アリガトー」


 アイラは先ほどとはうって変わって、嬉しそうに缶入りのアップルジュースを買った。


(少し根を詰め過ぎてたのかも知れないな)


 無邪気に缶の飲み口に口をつけるアイラを見ながら、凜は思う。彼はどうも昔から、つい他人のことを考慮に入れずに行動してしまうふしがあり、自分勝手だと思われてしまうこともしばしばだった。そしてそれは、何かに没頭している時にはとりわけ顕著になるようだった。今回のことだって、購買力の乏しい中学生の目の前でこんなことをすれば、不満を持たれることくらい考えれば分かることだった。そんなことに気もつかなくなるくらい思いつめていたのだと、彼はようやく気づいた。


 急いては事をし損じるというが、あまり気を詰め過ぎてもよくないだろう。


(大切なことに気づかせてくれたこの子に感謝だな)


 凜は思いながら、コーヒーの最後のひと口を喉に流し込んだ。そして空き缶を自動販売機の横の缶捨てに入れる。


「飲んだら戻ろうか」


「ウン。でも、もうチョット待って」


 アイラはまだジュースを飲みきっていないようだ。


「ああ。ゆっくりでいい。まだ、時間もあるしな」


 凜は云った。その言葉は、自分にも向けられていた。



――



 いつしか、日もどっぷり暮れ、あたりは真っ暗になっていた。



 ――凜さん――



 凜の頭の中に声が響いた。スピリチュアル・ワールドで待機していた“宇宙の意志の権化”からの通信だった。



 ――愛稀さんと三都まどかが、今こちらに来ました――



「OK。ふたりとも、ようやく眠りに落ちたか」


 凜は応えた。


「いよいよダネ?」


 背後からアイラが声をかけた。凜は睨むような目で、目の前の穴を見つめながら云った。


「ああ、作戦開始だ」


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