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第五章・真実の心 (4-2)


「でも、魔法少女になったことで、そんな過去の悲しみなんか、払拭できると思ったんだ。これまでみたいな弱い自分じゃない、幼いころ憧れていたヒーローのように、大切な人を守れる、強く、揺るぎない存在になれると思っていた」



 ――でも、現実は違ったんじゃない? あなたは戦う度に、傷つき、深い悲しみを胸に宿すことになった。そうでしょう?



「その通りだった。大切な人を守れたという喜びよりも、守り切れずに失ってしまった悲しみの方が強く心に残った。大勢の人が目の前で死んでいった。大切な友だちや、大好きな人さえ、その命が果てる瞬間を私は見てきた。その度に、胸にえぐるような痛みが走った。でも、それでも私は、戦うことをやめなかった。それが私の生きる意味だとさえ感じていた」



 ――それはどうして?



「それはきっと、私がその人たちに誓ってきた思いだから。それこそが、その人たちとの絆だと信じているから。そして何より、まだ守りたい人がいるから。大好きで、幸せな日々を共有したい、そんな人も私の近くにはいる」



 ――そのために戦って、幸せになれた?



「……分からない」



 ――むしろ、つらい思いをどんどん抱え込むことになったんじゃない? 守りたい人をいつか失うかも知れないという恐怖、逃げ出したいのに逃げ出せないというプレッシャー、絆と感じているものでさえ、それはあなたを呪縛する要因となってるのよ。



「…………」



 ――それに、好きな人を守り抜いたところで、その人が自分をいつまでも見ていてくれれるとは限らないわ。人のつながりそれほど脆くて、人の心はうつろいやすいものなのよ。いつか、傷つき死に物狂いで戦ってきたあなたのことさえ、忘れ去ってしまうかも知れない。



「そうかも知れない……。それに、戦えば戦うほどに、私の中に迷いも出てきた。守ってあげたいほど好きな人が私じゃない誰かを見つめている時、私は強い孤独感と、胸に憤りのような感情がくすぶるのを感じていた。それが嫉妬であると、最近になって気づいた。そしてとうとう、その相手に殺意を抱くようにさえなってしまった。身勝手で、傲慢で、あさましい、そんな私に戦う資格なんてない。そんなふうにさえ思えてしまった」



 ――どうしてだと思う? それは、あなたが弱いからよ。



「……え?」



 ――あなたが弱いから、傷ついたり、迷ったり、落ち込んだりしてしまうということ。絶対的な強さの前には、そんなもの恐るるに足りないわ」



「絶対的な、強さ……」



 ――あなたは強くあるべきよ。身も、心も、力も、絶対的な強さを手にしてしまえば、もはやそんなものどうでもよくなる。戦う意味さえも、ね。



「戦う意味さえ……。どういうこと?」



 ――戦う意味を考えるから、迷いが生まれてしまう。いえ、逆ね。迷っているから、戦う意味を考えてしまう。弱い心が、理由を求めるの。理屈なんて不安を補うためのごまかしにすぎないわ。強い者なら、理屈なんて考える間に行動に起こす。決意や信念や絆や、そして心さえも、いらない。



「それが、絶対的な強さ……?」



 ――そうよ。これまで通り、不確かでいつかは壊れてしまうものの中、迷いながら生きるのか、それとも確かで揺らぐことのない絶対的な強さに身も心も委ねるのか……。



 ――さあ、あなたはどちらを選ぶの?


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