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第五章・真実の心 (3-2)


「いいんじゃないか。それが彼女の本当に望むことなんだったら」


 凜はすぐに答えた。


「…………」


 凜の潔い返答に、今度は“宇宙の意志の権化”が黙り込んでしまう番だった。


「ただ、僕はそんなもの偽りの幸せとしか思えないし、彼女がそれをよしとしてしまうとも、到底思えないがな。平沢 星夜と僕らでは住む世界が違うんだ。住む世界が違う者同士が、惹かれ合うのは決して悪いことではないとは思う。けれど、そこには必ず多大な困難が待ち構えているはずだ。困難もなく居心地がいいだけなんて、ただ飼いならされているにすぎない。彼が本当にそんなことをするのだとしたら、そこにあるのは愛じゃない、ただの傲慢だ。ただの身勝手な欲望に、彼女を付き合わそうとしているだけだ。――僕の知ってる彼女なら、そんな誘惑に決して踊らされない」


「……なるほど。あなたはあなたなりに、愛稀さんのことをちゃんと理解しているってことですか」


 “宇宙の意志の権化”は納得したように、何度か小さく頷いてみせた。


「意地悪なことを云ってすいません。ただ、僕は確かめたかったんです。あなたが本当に、愛稀さんのことを想いやっているのかどうか。でも、あなたは本当はとても思いやりのある人だと分かって、安心しましたよ」


「そんなことはないさ。案外、さっき君が指摘した通りかもしれないぜ。僕は心と心で通じ合うことが、どうやら他の人よりも苦手らしいんだ。だから僕は頭で考えるしかない。行動で示すしかない」


「けれど、あなたが愛稀さんのことをちゃんと理解しているのは、あなたなりに彼女のことを真剣に考えているからでしょう。あの人をちゃんと思いやっているからこそ、甘美な誘惑にむやみに惹きこまれてしまうような人ではないと分かるんだ」


「……或いは、トモエもそうであったらいいんだが」


 凜はひとり言のように呟いた。彼の中での話題は、すでに愛稀からトモエへと移行していた。マイペースな性分は相も変わらずのようだ。


「どういうことです?」


「トモエが愛稀のように、強い意志をその心に持っているのかどうか、という話だ。云わずもがな、今回のケースはトモエの精神力がモノを云う。仮に、無事あの子を肉体が消滅する前に救い出したとしても、あの子がその前に邪霊に心を奪われていたなら、少なくとも邪霊を倒す戦力にはならなくなる。むしろ、再び邪霊に取り込まれる危険さえあるわけだ」


「危険因子になり果てる可能性もあると?」


「あの子を信用していないわけじゃない。ただ、可能性の面では否定できないだろう」


 凜は考え込むようなポーズをとった。そして、遠くにいるトモエに語りかけるように、心の中で呟いた。


(トモエ、君は何を望む……?)



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