第四章・かつてない危機 (1-3)
浄化の結界が張られた湖を横目にしばらく歩くと、白い外壁の建物が見えた。中に入ると、地下の食堂に続く階段と水没した村、白角村の歴史を紹介した展示室に部屋が分かれている。
展示室では村のさまざまな郷土品とともに、村人たちの暮らしや村が失われるまでの歴史が写真つきでパネルで紹介されていた。そのパネルによると、白角ダム建設の話が持ち上がったのは今から25年ほど前のことであり、その頃より村人たちには退去勧告がなされていた。人々は故郷が失われることに対し抗議したが、最終的に数年のちに村の全世帯の転居が完了したそうだ。展示写真の中には、抗議運動を行う人々の様子も写し出されていた。これほどまでに必死で活動していたのに、故郷を失ってしまった時の失望はいかほどのものだったかと、トモエは改めて思った。
現在村の人々は別の地区に散り散りになり、各々の生活を送っているらしい。けれど、定期的に集会を開き、村で過ごした日々を懐かしむのだそうだ。
「浄化、シッカリやってあげなきゃネ」
パネルを眺めながらアイラがぽつりと云った。
「え?」
「これダケ愛されてイタ村なんだモノ。それが今、災厄を招く地になってイタんじゃ可哀想ダヨ。――イイ思い出ハ、イイ思い出のままにシテあげたいジャナイ」
「そうだね」
恨みや悲しみを除き、綺麗な思い出だけを残す。それは魔法少女として課せられた使命であった。トモエもアイラもそのことをしっかりと胸に刻んでいるのだった。
展示室を除いた後、ふたりは下の階の食堂へと赴いた。
ここで休憩がてら、遅めの昼食をとることにしたのだ。
トモエはカウンターでカレーライスを、アイラはかけそばを注文し、席についた。
そして昼食を終え一息ついたころ、
「アイラ、そういえばさ」
とトモエはアイラに話を振った。
「ん、ナニ?」
「前から訊きたかったことがあるんだけど――」




