第四章・かつてない危機 (1-1)
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タタン、タタン……と、電車が一定のリズムを刻みながら走っている。
トモエは読んでいたマンガ本を閉じた。電車が揺れる度、身体にも振動が走り、目を落としていたマンガの見開きが細かく揺れるのだ。少しの時間なら問題ないが、長時間その状態でいるとさすがに疲れてくる。また後で読もう、とトモエは思った。目的地まではまだまだ時間がかかるし、なおかつ帰りは行きと同じ時間電車やバスに揺られなくてはならない。
マンガは愛稀が貸してくれたものだった。彼女から「とても面白いよ」というお墨付きをもらっていた作品だったが、成人を過ぎた人間が読むにしてはいささか子供じみているような気もする。しかし、確かに中学生であるトモエにはちょうどよいくらいの内容であり、そういう意味では長旅の暇つぶしには最適であった。
本をカバンにしまって隣を見ると、高島アイラは依然として窓の外に目を向けていた。
「飽きないね」
トモエが声をかけると、アイラは視線を変えることなく、
「ウン。日本の景色、面白イ」
と応えてみせる。
トモエにとっては何でもない、むしろ面白くもない景色なのだが、長年海外で暮らしていたアイラにとっては、新鮮に感じるものなのかも知れない。
「……それより、今日はごめんね。付き合わせちゃって」
トモエがさらに云うと、アイラはトモエの方に顔を向けた。
「気にしなくてイイよ。これが私タチの使命なんだシ」
「そう?」
「ウン。トモエ、いちいち気ニシスギ」
アイラはそう云って笑い、再び田畑や民家の続く車窓の風景へと目をやった。




