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第一章・邪を祓う少女 (2)

 2



 愛稀と別れ、トモエは自宅へと急いだ。


 家に着くと、彼女は玄関には行かず、庭の方へと向かった。庭から見上げると、ちょうど真上にトモエの部屋があった。窓は開けられ、風でカーテンが揺れている。


 トモエはその場で靴を脱ぎ、物陰に隠した。それから辺りを見回して、誰も通行人がいないことを確認すると、今いる場所と部屋の中がつながっているようにイメージした。すると、徐々に空間が水をかき回したように揺らぎ始め、次の瞬間にはトモエは部屋の中に移動していた。


 これはトモエの能力のひとつであった。空間を一時的に歪めることで、離れたふたつの場所をつなぎ、ワープする。あまりに離れた場所ではさすがに難しいが、このくらいの距離ならば造作もなくできてしまうのだ。


 もちろん、彼女がワープによって部屋に入ったのは、家族に何も云わずに家を出てしまったからである。夜遅くにどこに行くのかと訊かれ、悪意の化身と戦いにといっても、信じてもらえるはずがない。よって、自分の部屋からこっそりと、という形を取らざるを得なくなる。そんな折にすぐ履いて行けるよう、スニーカーを庭の物陰に隠しているのだった。


 勉強机が教科書やノートなどで散らかっていた。彼女は、学校から帰るとまず宿題をすまおうと、着替えることもなく勉強机に向かっていたことを思い出した。そんな時に邪悪な気を感じ、兎にも角にも家を出る羽目になったのだ。


 トモエはまず着替えることにした。学生服を脱ぎ、普段着に身を包む。夜も遅いのだから、もっとラフな部屋着でもいいのではないかと思われるが、意外にも彼女はこれから外出すると思わせるようなしっかりとした服装をしていた。それには理由があった。彼女は後でボーイフレンドに会いに行くつもりなのだ。


「その前に、さっさと宿題を済ませちゃおうかな」


 そう呟いて、彼女は勉強机についた。やるべきことを残したままボーイフレンドに会いに行っても楽しくないだろうと彼女は思ったのだ。問題が2問ほど残っていた。彼女は手早くシャーペンを動かして、それらの問題をさっさと解き終えてしまった。


 勉強を終えた彼女は、参考書とノートを閉じ、本棚にしまった。シャーペンと消しゴムを筆箱に入れ、大きくのびをする。


「よし」


 トモエは壁に向かって立ち、そこに手を当てた。すると壁の向こうに、ぐるぐると七色のマーブル模様を描く空間ができた。彼女がそこをくぐると、今度はオーロラに包まれるようなめまぐるしい色彩の中に包まれた。


 いつからか色彩は消え、トモエの目の前に水でできたような透明のカーテンが広がっていた。彼女はカーテンに手をかけ、勢いよくそれを引いた。カーテンの形は一瞬で崩れ、おびただしい量の水しぶきがザーッという音をあげて地面に落ちてゆく。それなのに身体はまったく濡れないのが不思議だ。


 カーテンを取り去ると、目の前に広がった景色があった。その中央に大きな木製のテーブルがあり、高校生くらいの身なりの少年が椅子に腰かけ、本を読んでいる。


「星夜!」

 と少年の名を呼び、トモエはその方へと歩いていった。少年もトモエを見て、「やあ」と笑顔で応じ、本を閉じてテーブルに置いた。


「今日は随分遅いんだね」


「ちょっと分からないところがあって勉強してたの。そしたら、突然邪霊(やれい)が現れて――」


 “邪霊”とはトモエがさっき戦っていた怪物の呼び名である。


「戦ってきたんだね。御苦労さま」


 少年は優しく微笑んだ。


「戦いを終えたお姫さま。どうぞお座りください」


 少年はトモエの前にある椅子を手で指した。


「ありがとう」


 トモエも気取った様子でそう応え、少年の向かいの席についた。


 少年の名は平沢 星夜。16才でトモエにとっては年上のボーイフレンドだ。


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