第三章・水没した町 (10-1)
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後日――。
トモエは自宅で勉強中であった。一応は受験生という身分であるため、受験の準備くらいはしておかなくてはならない。今は来週に控えた実力テストに備えるべく、これまで習ってきた教科の復習をしているところである。
そこへ、一本の電話がかかってきた。ふいに着信音が途切れ、「はい」と一階から継母の声が聞こえてきた。
しばらくして、階段の下から「トモエ、電話」と継母の呼ぶ声がした。トモエは部屋から出て、階段の上から、「誰から?」と訊き返す。
「知らないわよ。あんたの知り合いのことなんか」
継母はつっけんどんにそう云って、電話の子機を階段に置き、去っていった。継母はトモエを鬱陶しがっているきらいがあった。トモエの父親をはじめ、別の人間がいる時には互いが仲がいいように振舞っているが、ふたりきりになると実のところが露骨に態度に現れる。
「あっそ」
トモエは吐き捨てるように呟いてから階段を降り、子機を拾った。そしてそれを耳に当てる。
「もしもし?」
「あ、トモちゃん? 久しぶりー」
一言でトモエは電話口の相手が誰か分かった。愛稀だ。
「お姉ちゃん、家に電話かけてこないでよ」
「えー、だってトモちゃんケータイ持ってないじゃん」
トモエは相手に聞こえるように、大きくため息をついた。
「で、何か用?」
「あ、そうそう。実はね、私の家に今来てるんだよ」
「…………?」
唐突すぎて、トモエは一瞬彼女が何を云っているのか理解できなかった。しかし、じきに誰かが家に来ているという意味だと悟り、
「……誰が?」
と訊いた。
「……うん。でね、私の家に住むことになったんだよ」
「だから誰が!?」
トモエは苛立った。愛稀は多少興奮状態にあるらしく、意気込んで喋ってくるのだが、その分要領を得ないのだ。こちらの気持ちなどお構いなしに、一方的に話しているようにも聞こえる。そうなると、会話は成り立たない。
「あっごめん。誰か云ってなかったや。……じゃあ質問。誰だと思う?」
「分かるワケないでしょ!」
トモエは強く云い放った。このままだと、愛稀の掴みどころのない話がエンドレスに繰り広げられそうだ。
「じゃあ、正解ね。三都まどかちゃんでーす」
「はぁ!?」
トモエは驚いた声をあげた。




