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第三章・水没した町 (8-3)

 周りにいる人たちは、緊張の面持ちから徐々に安堵の表情へと変わってゆく。そして、どこかから歓声があがり、それは徐々に拡がっていった。称賛の嵐の中、まどかは得意そうな顔で、銃身を肩に乗せ担いだ。そんな中、愛稀とトモエは、未だ不安そうな面持ちを隠しきれずにいた。


「ダメだ……。油断しないで、まだ終わりじゃない!」


 叫んだのはトモエだった。


 その刹那、邪獣の口がピクリと動いたような気がした。


「え……?」


 まどかは邪獣の方を見た。倒れていた邪獣は、まるで何事もなかったかのように、ゆっくりとその身体を起こしていた。


「なっ!?」


 まどかは絶句した。理解ができなかった。たった今倒したはずなのに、どうして起き上がってくるのか……。


「やっぱり……。浄化なしであれを倒せるわけがない」


 トモエが呟く。昔、彼女も同じような経験をしていた。邪獣と戦った際、首まで落としたのに、邪獣は死ぬどころか、首だけで彼女に襲いかかってきたのだ。その時、彼女は知った。邪獣を含む悪意の化身を倒すためには、物理攻撃でダメージを与えるのに加えて、浄化という作業が必要不可欠になるのだということを――。


 邪獣はすでに傷も回復し、もはや何事もなかったように見える。


 突然、邪獣が動いた。気を抜いていたまどかは、咄嗟に応戦することは不可能だった。もろに邪獣の体当たりを受けて吹き飛ばされ、空中で放物線を描いた後、地面に叩きつけられた。その時、銃も手放してしまう。


「ぐふっ……」


 まどかは起き上がろうとしたが、激痛が走り動けない。そんな彼女になおも邪獣は攻撃を仕掛けようとした。しかし、そんな邪獣に立ちはだかる人物がいた。愛稀だ。


「やあっ!!!!」


 愛稀は叫んで、腕を前方へと押し出した。掌から爆風が飛び、邪獣は後方に押し戻される。


「あんたは……」


 呆気にとられるまどか。愛稀はまどかを横目で見た。


「安心して、まどかちゃん。あなたは私が守る」


 愛稀は早口で云ってから、再び腕を伸ばし掌から赤い螺旋状の光を放った。それは渦をまきながら邪獣に近づき、邪獣の胴体に絡みつく。


「ぐっ!」

 と愛稀は力をこめ、邪獣をしめあげようとした。しかし、彼女では力不足だった。邪獣が勢いよくその身体を揺らすと、螺旋の光はばらばらに崩れた。そのまま目にもとまらぬ速さで邪獣は愛稀とまどかに襲いかかってくる。


 愛稀はなす術がなく、もうダメかと固く目をつぶった。


 だが、いくら待っても衝撃は来ない。彼女がおそるおそる目を開けると、邪獣は彼女の前方にはいなかった。どこに行ったかと見回せば、邪獣は思いもよらぬところにいた。それはトモエのすぐそばで、二本足で立つような格好でいた。トモエは魔法少女の姿に変身しており、その手は剣を握り、その刃は天に向いている。そしてその切っ先は、邪獣の喉元をしっかりととらえていた。邪獣はトモエの握る剣によって突き上げられていたのだ。


 彼女は邪獣が愛稀に襲いかかった瞬間、邪獣のいる付近の空間を歪め、邪獣を自分のもとへと呼び寄せたのだった。


「グゥゥ……」


 邪獣は苦しそうに呻いた。そんな邪獣にトモエは云った。


「これ以上、お姉ちゃんに手出しはさせないから」


 トモエは邪獣の喉元から剣を抜いた。ブシャッという生々しい音がして、邪獣の喉から血が吹き出る。再び四つん這い状態になった邪獣の喉からしばらく血が地面にこぼれ落ちていたが、やがてそれも止まった。恐ろしいくらいの回復能力だと改めて思わせる。


 トモエは剣をかまえた。


「来な――。積もった恨みの分だけ、暴れさせてあげる」


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