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第三章・水没した町 (7-2)


 しばらく経って、ガラッとふすまが開いて、部屋に女将が入ってきた。愛稀もトモエも驚いて、ガバッとその身を起こした。今になって、自分たちが眠っていたことに気づいた。


「あら、すみません。お休みでしたか」


「あ、いえ。大丈夫です」


「相当お疲れのようですね」


 女将は笑って云う。ふすまの奥にはひとり従業員が控えていて、傍らに膳がふたつ置いてある。その上には、ご飯に味噌汁、そして数々のおかずがさまざまな食器に分けられる形で乗っていた。このふたりが手分けして運んできたらしい。


 女将は膳を部屋の中に運びながら云った。


「ごめんなさいね。余り物で急きょ作らせたから、この程度のものしかできなかったけれど」


「あ、いえ、十分すぎるくらいです」


 愛稀がそう云ったのは、単にお世辞というわけではなかった。本当に余りものでこしらえたとは思えないくらい立派な料理が、膳の上には並んでいたのだ。


「こちらへは観光で?」


「ええ、まあそんなとこです」


 女将の質問に愛稀は答えた。


「そう。このあたりは昔は何もない、ただの田舎の村だったんだけどね。ダムができてから観光地みたいになってしまったわね」


 女将は遠い目をして云った。


 愛稀とトモエは膳の前につき、料理に箸をつけ始める。


「村の人々はどうしているんですか」


 料理をひとくち口に入れてから、愛稀は訊いた。


「各地へ散り散りになって、各々がその地で暮らしているわ。移り住んだ当初はうまく馴染めない人も多かったようだけど、もう今では普通に生活をしているんじゃないかしら。でも、あの人たちも可哀想よね。あんなもののために、故郷を失うことになったんだから」


「……というと?」


 愛稀はさらに訊いた。女将の言葉に、何やら含みのようなものを感じたからだ。


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