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第三章・水没した町 (6-2)

 ふいにガラッと扉を開ける音がした。愛稀とトモエが後ろを振り返ると、そこには買い物袋をさげた少女が立っていた。年齢はおそらく、トモエよりも少し下くらいだろう。


 少女は警戒心むき出しの視線で、愛稀とトモエを睨んでくる。


「……あの子は?」


 そんな少女を見ながら、愛稀は尋ねた。


「ああ。実はお前を捨てた後、やはりどうしても子供というものが愛おしくなってな。再び子を作ってしまった。名前はまどかという。……つまりは、お前の妹だ」


「私に……妹!?」


 愛稀は呆気にとられた。まさか、自分に妹がいるなんて、思ってもみなかった。



――



 居間で三都まどかを含めた4人が座っていた。


 当然、4人の雰囲気は和やかとはいかず、むしろ気まずい空気さえ漂っていた。特にまどかはふてくされたように、顔を背けたままである。


 父親の信治の話によれば、まどかは本来ならば中学校に進学したばかりのはずなのだが、信治とともにこの地に逃げてきたため、小学校を卒業する少し前から学校には一切行っていないそうだ。この小屋に住み、父を手伝いながら過ごす日々を送っているのだという。


「まぁ、でも、妹がいたって分かって嬉しいよ」


 愛稀は優しい笑顔でまどかの方を見た。まどかは相変わらずふてくされたような表情をしたままである。


「これから、よろしくね? まどかちゃん」


 まどかはしばらく何も答えなかったが、しばらくの間の後、

「……認めない」

 と押し殺した声で云った。


「……え?」


「あんたがお姉ちゃんだなんて、絶対認めないから!」


 堰を切ったように、まどかは大きな声で云った。


「何よ、いまさらのこのこ出てきて、『自分はこの家の娘です』なんて、何様のつもり!? 私やお父さんがこれまでどれだけつらい生活をしてきたか、全然知らないくせに。そんな人に、私たちの家族だなんて云ってほしくない!」


「ちょっと、あんたねえ――」


 我慢しきれず、トモエはまどかに喰ってかかった。


「自分のことばっかり云ってるけど、この人だってどれだけつらい思いをしてきたか、分かってんの!? 赤ちゃんの頃に捨てられて、実の両親の愛情も知らないまま過ごしてきたんだよ。それがどれだけ悲しいことか、想像したことあんの――」


 すっ、と愛稀はトモエの前に手を出した。トモエは言葉を止め、愛稀を見た。愛稀はトモエの方を見て、首を軽く横に振った。「もういいよ」という意思表示だった。


「まどかちゃんの気持ちも分かる。たしかに、いきなりやって来て、『私があなたのお姉ちゃんです』なんて云われても、受け入れられるワケないよね。ごめんね」


 あんなことを云われても謝るなんて――、とトモエは思った。



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