第三章・水没した町 (4-2)
停留所でバスを降り、走り去るバスを見送った。
上り坂はまだ続いていた。ダムが十分に見渡せる地点までは、まだ坂を上っていかなくてはならないらしい。
坂道の途中で、トモエは立ち止まり後ろを振り返った。愛稀の気配が近くにないことに気づいたのだ。すると案の定、愛稀はトモエのはるか後方でヒイヒイ云いながら、足元をふらつかせのろのろと歩いている。
「大丈夫? お姉ちゃん」
トモエは呆れながらも愛稀に声をかけた。すると、愛稀は息も絶え絶えに、
「大丈夫…、先に行ってて……。すぐに…、追いつくから……」
と応えた。
(もうこの人とは遠出しない)
トモエは心に強く誓ったものだった。
愛稀は涙目になりながらふらふらと歩いていたが、徐々に坂を上がるにつれ、顔つきもしっかりとし、顔色も戻ってきた。それに伴って、足取りもしっかりとなる。バスに酔っていたことも忘れ、がむしゃらに歩き始めた。
トモエははるか後方にいたはずの愛稀が、自分より遥かに速いスピードで自分を追い抜いていったものだから、驚いてしまった。
「お姉ちゃん、どうしたの急に。気分が悪かったんじゃなかったの?」
トモエが訊くと愛稀は振り返り、先ほどからは想像できないような凛とした顔で云った。
「もう治っちゃった。――それよりトモちゃん、この場所、やっぱり夢で見た場所と同じだよ!」
「ええっ!?」
トモエはあたりを見回した。もちろん、愛稀の夢で見た景色と同じかどうかなど、分かるはずもないが、それでも内心ほっとした。どうやら今回の旅は、まったくの無駄足だということはなかったようだ。




