第三章・水没した町 (4-1)
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バスは延々と続く山道を走っていた。
トモエは窓の淵に頬杖をつきながら、外を眺めた。目線の先にはコンクリート製の塀が続いており、見上げても緑の葉の群れが延々とその形を変えながら流れてゆくだけだ。反対側の窓はまだ少しは見晴らしがいいのだろうが、それも開拓されたばかりの人工的で無味乾燥とした部分と、まだ人の手が加わっていない自然とが共存するというちぐはぐな光景である。雄大といえば雄大なのだろうが、トモエにはさほど興味は惹くものでもなかった。
(暇だなぁ。本でも持ってくりゃよかった……)
そんなことを思いながらふと隣の愛稀を見やると、彼女は青ざめた顔をしかめながら口元に手をやっている。何かを我慢しているようにも見える。
「……どうしたの、お姉ちゃん」
「うん、ちょっとね、ちょっとだけね、吐きそうなんだ……」
かすれた声で愛稀は答えた。
「ええっ!?」
「我慢できなくなったら、戻しちゃっていいかな……。ビニール袋、持ってない?」
(はあーあ。めんどくさ……)
トモエはそう思いながらも仕方なくかばんの中から、バスに乗る前にコンビニで買ってきたおにぎりとジュースの入った袋を取り出した。そして中身をかばんに戻し、ビニール袋をさっと愛稀に差し出した。
「ごめんねぇ……」
愛稀は喋るのさえつらいといった様子で、ビニールを手に取るのさえ億劫そうだ。
退屈な車内にまったくたよりがいのない先輩。トモエの気分はまさに最悪だった。




