第三章・水没した町 (3-1)
3
「で、私に一緒に来てほしいってワケ?」
駅近くのファーストフード店のテーブルに頬杖をつきながら、トモエは云った。その顔は半ば呆れたように、愛稀を横目で見ている。
「つまりこういうことね? 自分のお父さんを探すのに、ひとりじゃ心細いからついて来てほしいと――」
「ち、違うよ」
さぞ心外そうに愛稀は云った。
「邪獣が出たんだ。それを退治するために、トモちゃんにも一緒に来てほしいんだよ」
邪獣――。
悪意に見染められたけもの。邪霊と同じく、魔法少女が倒すべき対象だ。
「でも、さっきの話を聞く限りでは、お姉ちゃんは自分の父親を捜したいっていうのが、その場所に行きたい一番の理由なんでしょ」
「……そうでした、ごめんなさい!」
あっさりと認める愛稀に、トモエはわざとらしいため息を漏らした。
「……いいよ。今度の土曜日ならヒマだし。邪獣が本当に出たら大ごとだし」
それに――、とトモエは言葉を続けた。
「――お姉ちゃんの夢の内容は馬鹿にできないもんね」
夢で見た情景や空気から、真実やこれから起ころうとしていることを推察するというのが、愛稀の得意とする能力であった。ユメのセカイではたらく彼女の勘は、かなり信用度が高く、“犬の嗅覚”にたとえられるほどである。そんな彼女が夢で邪獣を見たというのだから、これはうかつに放ってはおけないのかも知れない。
「本当? ありがとう!」
おもむろに愛稀の顔がぱあっと明るくなった。
(――ったく、いい歳して中学生に頼みごとなんかするなよ)
トモエは心の中で呟いた。愛稀の純真でまっすぐな性格を尊敬もする反面、子供じみた言動に辟易することもある。通常、孤児というとひとりで生きてゆくべく自立心や行動力が幼いころから身につきそうなものであるけれど、彼女の場合、逆に誰かに甘えることを覚えたようだ。今では下宿をし、ある程度の生活はひとりで営めるようになっているけれど、幼少期に身についた性分はなかなか変えられないに違いない。




