第二章・謎の転校生 (7)
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彼女たちが移ったところは、普段施設の中で食事や休憩に使われると思われるスペースだった。横長のテーブルと丸椅子が何台も設置されていて、壁側には給水機や自動販売機が置いてある。
ここにいるのはふたりだけであった。というよりも、他の人間がまず、ここにやって来ることはしばらくあり得ないだろうと思えた。なぜなら、ここに移動する最中、歩きながら施設のさまざまな部屋を見るともなしに覗いてみたところ、施設の子供たちや職員たちは、例外なくその場に倒れ、意識を失っていたからだ。
「心の中の悪意が浄化され、気を失っているダケ。しばらくしたラ、目を覚ますヨ」
彼らについて、アイラはそう云った。
――
「この孤児院の名前、思い出してゴラン」
アイラはまず云った。
「……えっと、たしか、“ハイランド児童養護施設”、だっけ?」
トモエが答えると、アイラはコクリと頷いた。
「“ハイランド”って部分、ニホンゴに訳してみたらドウナル? Highハ“高い”、LandハIslandと考えると“島”デショ」
“高い島――”。と考えて、トモエははっとなった。
「つまり、“高島”!? この施設は、あなたの家族が経営しているってこと?」
「家族ってワケじゃないケドネ。この孤児院ハ、私の親戚が院長をやっているノ。私は3才まで日本で暮らしていたケド、その時はよくココにも訪れていた。そして私はいつも、奇妙な感覚に襲われテ、居心地の悪さを感じていたモノだった」
「その原因は、施設に引きつけられた悪意の化身たちだったわけね」
トモエの言葉に、アイラは「ソウ」と頷いた。
「この孤児院ニハ、親に捨てられたり、虐待を受けたりしてイタ子供が大勢イルノ。その子タチのネガティブな感情が、さらに悪意の塊を呼び寄せテ、悪循環を繰り返していタ。私は日本に帰ってきたラ、この施設の子供たちを助けてあげタイ、そんなふうにずっと思っていたノ。ダッテ、生まれて間もなく不幸な目に遭っテ、さらに不幸になってゆくナンテ、可哀想デショ。デモ、私ひとりでこの施設のすべての邪霊を倒すノハ、少し自信がなかっタ。だから――」
アイラはにやりと笑って、トモエを指さした。
「トモエに目星をつけタってワケ」
「つまり、こういうこと? あなたは私をここに誘導するために、わざと学校で私に近づいて、勘ぐられるように仕向けたってワケ?」
「そういうコト。ゴメンネー」
トモエようやく、今回のことがアイラの作戦であったということを知った。
「でも分からないなぁ。どうして私が魔法少女だって分かったの?」
トモエが云うと、アイラはあっさりとした口調で答えた。
「ソレハ、勘ダヨ」
「勘!?」
トモエは素っ頓狂な声をあげた。
アイラはさぞ自慢げに「フフン」と唸ってみせる。
「最初、教室であなたを見たトキ、他の子たちとは違うなッテ思っタ。もしかしてと思っテ、カマかけてみたら、もうテキメン。すぐに私の勘が当たってタって分かったヨ。トモエって、とっても素直なんダネー」
トモエは褒められているのかけなされているのか分からず、複雑な心境になった。
(そんなことで、自分が魔法少女ということを、他の人たちに隠し通せるんだろうか)
そんなふうにも思えてきてしまう。
そんなトモエの心境を察しているのかいないのか、アイラはトモエに手を差し伸べてこう云った。
「トニカク、魔法少女仲間とシテ、これからもヨロシク!」
「よ、よろしく、高島さん――」
半ばつられるような形で、トモエもアイラの手を握ろうとした。しかし、アイラは不満そうな面持ちでトモエを睨み、首を横に振った。
「他人行儀なのはイヤよ。私のコトは“アイラ”って呼んデ」
「…………」
トモエは気恥しさに少し間を置いたものの、すぐに笑顔になって、
「分かった。よろしくね、アイラ」
と応えた。
そしてふたりはがっちりと手を握り合ったのだ。
予期せぬところで仲間ができ、これから自分の戦いはどのようになっていくのだろうかと、トモエは思った。
【第二章・END】




