第二章・謎の転校生 (5-3)
2体の邪霊を相手に、トモエは苦戦を強いられた。物理的攻撃はさほどでもないものの、この2体は精神的攻撃を得意とするタイプの邪霊だった。1体だけからの攻撃なら何とか跳ね返せても、すぐさまもう一方の邪霊からの攻撃がくる。防御の螺旋を繰り出し何度も抵抗は試みたが、結局は2体ともに心をわしづかみにされてしまった。
「ぐっ……」
トモエは呻いて、その場に膝をついた。立っていられないほどの苦痛が今、彼女を襲っていた。彼女の心の中には、以前にクラスメイトたちや継母にいじめられていた経験が呼び起こされていた。普段、自分の胸の内に抑え込み、なるべく思い出さないようにしていた。それが今、否が応でも胸の内から湧き上がってくる。ただただ苦しくて、身体が内側から引き裂かれそうだ。
(こらえろ。心を全部奴らにもっていかれるな……!)
トモエはそれでも自分に云い聞かせ、何とか我を保とうとした。けれどこのままではやられてしまうのは時間の問題だ。しかも、ここには邪霊だけでなく、多数の邪魂も存在している。それらが一体化して新たな邪霊となれば、もはや事態は最悪だ。
トモエはまさに絶体絶命だった。
その刹那、辺りが緑色に包まれた。トモエは途端に苦しみから解放され、何が起こったのかと辺りを見回した。空間を飛び交っていた無数の邪魂が苦しむように小刻みに震え、次々とその姿を消していった。
「これは、浄化の結界……?」
ふいに部屋の扉がギィィィィと音を立てて開いた。その方を見ると、ひとつのシルエットがカンカンと空間に足音を響かせながら、こちらに歩いてくるのが見えた。
そのシルエットは徐々にトモエに近づくにつれ、少しずつその姿をあらわにしていった。そしてトモエはその全身を確認した。黒を下地にした派手な着物に身を包み、手には弓を提げている。そしてその顔は、日本人というよりは欧米人のそれで、整った目鼻となびかせるブロンドの髪が印象的な少女の顔であった。
トモエはその顔を確認して、驚きを隠せなかった。そして相手はそんなトモエを見て、さぞ可笑しそうにほくそ笑んでみせるのだ。
「云ったデショ? ひとりで守りきれるのかッテ……」
姿を現したのは、かの転校生、高島アイラだった。




