第二章・謎の転校生 (5-2)
(どうしよう、中に入っちゃったよ……)
廊下を歩く男について行きながらも、トモエは不安を感じていた。いったん中に入ってしまえば、もう逃げ場はないのだ。何か起こっても、出たとこ勝負で迎えるしかない。
しかし、そんな不安はいつしか、覚悟に変わっていった。というのも、一歩一歩足を踏み入れるごとに、よからぬ情念がそこかしこに感じられるようになってきたからだ。この建物には邪魂、もしくは邪霊がいる。トモエはそれを確信した。そして、逃げ場がなくなった今、戦うしかないと彼女は思うようになっていた。
やがて男はドアの前に立った。
「こちらです」
男は扉を開いて、中に入るように促した。トモエが中に入ると、そこは薄暗くがらんとした空間だった。
「高島さんは……?」
トモエはそう云って男の方を振り返った。瞬間、男の手がトモエの首を絞めた。
「貴様、何者だ!?」
男は鬼のような形相になり、うつろだった目も妖しい光を放っていた。
トモエは苦しみながらも、男に向けて手をかざした。掌からぼうっと緑色の光が放たれた。それは浄化の念がこめられた光だった。男は、人とは思えない奇声をあげて苦しみだした。そして次の瞬間、男の身体から邪霊が飛び出した。男は気を失って、その場に倒れた。
「やっぱり邪霊がとり憑いていたのか」
トモエは魔法少女に変身し、邪霊に向かっていった。
そんなトモエに対し、邪霊は両腕を伸ばした。
「ぐっ……!?」
突然、トモエにすさまじい苦しさが襲ってきた。まるで、ピアノ線を身体中に巻きつけられギリギリと締めつけられているような痛みが走る。しかし、よくよく分析すれば、この痛みは身体的なものではなかった。トモエの心にその痛みは走っていたのだ。
(そうか……。あいつは憑依型の邪霊。相手の心や精神に直接攻撃をしてくるんだ)
トモエは防御の螺旋を繰り出し、鞭のように振りまわして、彼女の心を攻撃する見えない糸を断ち切った。それから、攻撃の螺旋で相手を挟みこみ、動けなくする。そして邪霊にとどめを刺そうとした。その瞬間――。
ガキッ――。
後方から、首元を強烈に殴打されるのを感じた。
「ガハッ……!!」
トモエは呻き声をあげてその場に倒れた。一瞬意識が遠のいたが、すぐに気を取り戻し、何があったのかと、顔を動かした。
そしてトモエは驚くべき光景を目の当たりにした。
そこかしこに、無数の邪魂が飛び交っていた。そして後方には、彼女を殴ったと思われる邪霊がいた。もちろん、最初の邪霊とは別物だ。2体の邪霊が、トモエの前後を立ち塞いでいたのだ。
(うかつだった。邪霊は1体とは限らなかったんだ)
トモエは思った。施設に入った時、彼女は邪魂や邪霊と思しき強大な情念を感じた。それは1体から発せられたものではなく、複数の邪魂や邪霊から発せられたものだったのだ。




