第一章・邪を祓う少女 (7-2)
どれだけ走っただろうか。彼が逃げ込んだのは、大きな倉庫だった。草むらから中に侵入し、積み重なった資材の隙間に、彼は身をかがめた。
「…………」
震えを抑えながら、固唾を飲んで辺りの状況をうかがう。すると突然、バァン! バァン! というけたたましい音が聞こえてきた。倉庫の中の資材類が蹴り倒されてゆくような音だ。その音が次第にこちらに近づいてくる。最後にした音から一拍置いて、哲也を囲む資材類が急に上に吹き飛ばされた。はっと見上げると、そこには血まみれの一樹がニヤッと笑ってこちらを見下ろしていた。哲也は背筋がゾッとするのを覚えた。
「みぃーつけた――」
一樹は乾いた声で云った。その瞬間、一樹の形が崩れ、この世のものとは思えないおぞましい姿に変化した。
「…………!!」
哲也の目の前にいる怪物から、二重螺旋の形をしたつる状の物体が伸びてきた。妖しげな光を放つそれは、哲也の首に絡みついてくる。哲也は猛烈な恐怖感が込み上げてくるとともに、生命力が怪物に吸い取られていくのを感じた。
(もうダメだ。俺、殺されちまう……)
哲也は感じた。
その瞬間――、
ザッという音とともに、螺旋が切れた。
見れば、夜の闇に染まった少女らしきシルエットがあった。右腕をまっすぐに伸ばし、掌をこちらに向けている。その手から放った力で螺旋を切ったのだろうか。
「やっと見つけた」
少女は云って、こちらにコツコツと足音を立てて歩いてきた。
「つらかったね。クズみたいな連中にいじめられて、苦しんで、そんな姿になっちゃうまで……。いじめてきた連中に復讐したくなるのも分かる。でも、憎しみの先には憎しみしかないの。このまま放っておけば、あなたはこれからも、憎しみのままに誰かを不幸にし続けるでしょう――」
少女は一旦言葉を止めた。そして、さらに強い口調になった。
「だから、私がここであなたを葬ってあげる」
少女の身体がまばゆい光を放った。光の中から登場したのは、魔法少女となった鶴洲トモエの姿だった。




