第一章・邪を祓う少女 (6-2)
川村 崇は自室のベッドに寝そべって、ポータブル用ゲーム機で遊んでいた。彼は買ったばかりのソフトを夢中になってプレイしていた。もちろん、一樹が自殺したことも、彼の魂が悪意に見染められ自分に復讐を企てていることも、まだ知る由もない。
ただゲームに熱中していると、急にゲーム機の画面が乱れ始めた。
「何だ?」
彼は疑問に思ったが、すぐに乱れは直ったのでゲームを再開した。しかし、またすぐに画面が乱れた。ジ……ジ……という音を立て、画面のさまざまなところに線が立て続けに入る。さっきよりも乱れ方が激しい。崇は舌打ちした。
「ったく、何だってんだよ」
苛立ちありありとした荒げた声を出し、ゲーム機の端を軽く2, 3発叩いた。すると、プツッと画面が消え、真っ暗になった。
「おい、どうしたんだよ!」
崇は電源スイッチのON/OFFを何度も繰り返してみた。けれども、うんともすんとも云わない。と思うとふいに、ディスプレイに画像が映し出された。その瞬間、崇はドキリとなった。なぜなら、そこにあったのは見慣れたゲームの光景ではなかったからだ。
それは夜の学校の校舎を背景に、青ざめた顔でせせら笑っている一樹の姿だった――。
『へっへっへっへ……。お前らよくも俺を酷い目に遭わせてくれたな』
一樹はディスプレイの向こうから、崇をじっと見つめながらそう云った。
「…………!」
崇は信じられない出来事に驚きと恐怖が入り混じり、声が出ない。
『お前にも味わわせてやるよ。俺の味わってきた痛み、苦しみ、恐怖を。ほら――』
そう云って一樹は手を伸ばした。それは画面いっぱいに広がったと思ったら、ディスプレイを突き抜けて、ぬっとこちら側まで姿を見せた。そして、崇の首をぐっと掴んだのだ。
「ぎゃあああああああ……!!」
崇はここにきてようやく声をあげた。断末魔を思わせるような、すさまじい悲鳴だった。
母親が驚いて、1階のリビングから彼の部屋のある2階へと上がってきた。
「どうしたの、崇?」
母親が部屋の扉を開く。すると、大切なゲーム機を床に放りだし、ベッドの上で青ざめた顔をして震えている崇の姿があった。首にはくっきりとした痕が残っている。
「崇、答えなさい。何があったの!?」
事態の異常さを察知した母親は崇を問い詰めようとしたが、脅えきった彼の耳に言葉は届かなかった。
――
邪魂は次々とターゲットを狙っていった。
その度に、ターゲットの恐怖、苦痛、後悔などの感情を吸収してその力を増していき、1週間後には邪魂は邪霊へと成長を遂げていた。
そして、邪霊は最後にいじめのリーダー格であった少年の復讐に向かった。




