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第一章・邪を祓う少女 (6-1)


 6



 話は1週間ほど前にさかのぼる。


 トモエの住むD町のとなり町のある中学校で、ひとりの少年が飛び降り自殺を図った。


 少年の名は、村尾 一樹といった。彼は中学校に進学して間もなく、クラスの男子たちから目をつけられ、色々と嫌がらせを受けていた。集団で暴行をされたことも1度や2度ではない。それなのに、家族も先生も助けてくれなかった。そうして1年後に、彼は死を決意したのだ。


 屋上から飛び降りてしまえば、地面に激突するまであっという間だった。恐怖や苦痛は一瞬で、意識は朦朧とし、心身ともに暗闇の中に溶けてゆくような心地がする。


 ふいに霞んでいた視界が開けた。一樹は本来自分が倒れているはずの、学校の中庭とは違う場所に立っていた。どう表現していいのか分からない、不思議な心地のする場所だった。ふと、目の前を粒状の物体が通り過ぎていった。


(何だろう……?)


 ふと粒状の物体が来た方に目を向けると、無数のそれが集まって、もやのようになったものがこちらに迫ってきていた。叫ぶ間もなく、彼の身体はそのもやに包まれた。


 彼はもちろん知る由もないが、それは人々の醜い感情が集まり固まった、邪塊(やかい)と呼ばれる悪意の塊だった。それらに包まれた瞬間に、彼の胸にさまざまな感情が一度に湧きあがってきた。悔しい、悲しい、つらい、憎い――、そういったネガティブな感情が交錯する。それらは一樹自身がいじめを通じて感じていた気持ちにも似ていた。


 そして、その果てに彼は声を聞いた。どこから聞こえてくるのかは分からない。ただ、脳裏にはっきりとクリアな音声が響いてくるのが分かった。


『このままでいいのか?』


『自分だけ不幸なまま死んで、連中はのうのうと生きさせていいのか?』


『奴らにも、その苦しみ、味わわせてやるべきじゃないのか?』


 声を聞いているうち、一樹の中に憤りが生まれてきた。


(そうだ。俺だって悔しい。何とかして、あいつらに思い知らせてやりたい)


 一樹が心でそう強く思うと、声は一層声高に響いた。


『ならば、お前に力をやる!』


 一樹は身体中から力が漲るのを感じた。恨みや憎しみといった感情が、胸の中から爆発し、身体の外にまで広がってゆく。これまで自分ができなかった大きなことが、今ならできるような気がした。


気づけば、一樹は学校の中庭にうつぶせに倒れていた。


「そうだ、あいつらに復讐してやるんだ……」


 命が尽きる寸前に、一樹はそう呟いた。そしてがっくりと力つき、動かなくなった。


 その後、肉体という抜け殻から飛び出した彼の魂は、悪意を源にしたパワーを得、恨みをもつ人々への復讐へと向かった。


 このように、邪塊に侵された人の魂は、邪霊として生まれ変わり、邪悪な力を手にする。そして、自らの私怨をエネルギー源に、活動を始めるのだ。



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