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私───上原一葉が放課後呼び出されたのは、公安局の詰所だった。

外装はやはり他の講堂と変わらない。しかし内装は、講堂ではなく裁判所と呼ぶべきでは?と思うような造りだった。(実際、ここで裁判が行われることを今の一葉は知らない)

「こっちよ。待ってたわ」

段々になった劇場型の傍聴席に所在無げに突っ立っていた私に声をかけたのは、私を呼び出した張本人───長尾美沙都だった。

「長尾さん」

「局長が待ってる。早く来て」

挨拶をしようとした私を遮って、踵を返した長尾さんは足音高く歩き出してしまった。

「まっ、待って!」

慌てて追いかけて、彼女のすぐ後ろにつく。こちらをチラリとも振り返らずただ歩を進める彼女は、何だか怖い。長い廊下にぽつぽつとある扉を三枚ほど見送った後、正面に他とはセキュリティ度合いが明らかに違う扉が現れた。

「───ここよ」

そう言って長尾さんは立ち止まった。もしかしてここが、局長室?私の疑問符はすぐにかき消えた。長尾さんが壁の脇に埋め込まれたパネルに触れると、パッと点灯して『局長室』と表示させたからだ。

「先生。連れてきました」

パネルに向かって話しかけている。インターホンみたいなものかな?

そんな風に首を傾げていると、プシュッと音がして扉が左右に開いた。

わぁ……まるで宇宙戦艦ヤマトみたい(←何で知ってるんだ)。長尾さんの先導されて扉をくぐる。

「わぁ……」

すごい。その言葉さえ出なかった。息を呑んだ。まるで高級企業の社長室の様に広々とした一間。応接用のガラステーブルとソファーが、 社長室という印象をより強めている。正面に設えられている執務机(職員用のタッチパネル式コンピューター内蔵)から顔を上げた女性は、私達に微笑みかけるとスクッと立ち上がった。

「いらっしゃい」

客人に対する上品な立ち居振舞い。

「こっ、こんにちは」

「………………」

私はその綺麗な姿に、彼女が誰であるのか。近づかれるまでわからなかった。

「あれ…………えっ!?」執務机を離れて近づいてきた女性は、私のよく知る───いや、最近よく見る人と、瓜二つの容姿をしていた。

「先……生?」

声が漏れる。

「そうね。私は貴女の先生ね」

その女性は紛れも無く、私達一年C組の担任───美猴女史だった。

「驚いてるとこ悪いのだけど、早く話を始めてちょうだい」

脇から口を挟んだのは、勿論長尾さんだ。

「まぁ、優秀な部下もそう言ってることだし、早速話を進めるわね」

美猴先生のその言葉に、私は弛んでいた背筋を伸ばした。

「貴女を呼んだのは他でもない。鬼頭夕雨の監視任務についてです」

───夕雨君の、監視。

事前に聞いてはいたけど、心の何処かに「そんな馬鹿な」なんて気持ちがあった。しかし、こうして面と向かって監視と告げられると、まるで証拠を突きつけられた罪人の様な気分になってしまった。

美猴先生は蒼くなった私に気づいたのかはわからないが、聞こえるように息を吐いた。つられて私も深呼吸をする。少し落ち着いた。美猴先生が再び私に目を合わる。

「そのためにはまず、我が公安局の一員になってもらわなければなりません」

それはつまり───

「私が、公安局員になる……ってことですよね」

「はい」

公安局とは、この特区に於ける警察庁の様なものだと聞いた。一ヶ月前に住んでいた日本には、警察と公安は別々の組織として存在しているが、特区には公安局しか無い。残念ながら、具体的にどう違うのかは、新入生の私にはわからない。

「ちなみに拒否権は無いわよ」

「マジですか!?」

長尾さんの言葉の内容に、思わず芸人みたいな反応を返してしまった。あっ、先生笑わないで……。

「ふふっ……残念ながら本当なのよ。公安局の決定に逆らいきれる者は、この世界に存在しない。いるとしたら───それこそ、世界を滅ぼせるだけの力を持ってるでしょうね」

公安局とはそこまで強大な組織なのかと、私は胸がキュッと縮む思いがした。

「さて、入局手続きについてだけど」

わぁーっ、既に決定事項~っ。

呆れて脳内でお手上げアイコンを発動。そんな私から目を逸らし、美猴先生は長尾さんを見つめた。

「長尾さん。突然だけど、色合わせは彼女とやりなさい」

「えっ」

……色合わせって、何?

「いいわね?」

「えぇ、別に構わないわ。覚悟はしてたし」

私の理解の外で話が進んでいる……っ!

「そう。じゃあ早速お願いね」

「わかったわ」

長尾さんが私と向かい合う。えっ、何するの?あ、色合わせか。

「上原さん。IDを出して」

「あっ、はい」

私は素直に従い、懐からIDを取り出した。

青いカードに、白い文字で名前が刻まれている。これはセキュリティシステムの適用された建物への通行証であり、寮の鍵であり、私の個人情報の全てが記録されたパーソナルファイルへのアクセス権でもある。

「局章は持ってきてないの?」

「……局長に預けてありますが」

長尾さんがジト目で抗議するも、

「そういえばそうだったね」

あっけらかんと返す先生。さっきまでの上司然とした態度とは違う、生の対応だった。

先生が机やゴミ箱や観葉植物や天井裏や下着の中をまさぐって局章(どういうものかは不明だし、この時点ではどういう漢字で書くかもわからなかった)を探し始めたのを尻目に、長尾さんはスカートの中から薄い機械を取り出した。ちなみに、スカートの中といってもポケットの中ではない。そのまんまスカートの内側から、蛇のようにするすると出てきた黒い鎖が、絡めつかせたその機械を恭しげに差し出してきたのだ。

「それって……」

私は鎖を指差した。

「ん?これは公安局員用のカードリーダーよ。これにIDを同時に入れるだけで、色合わせは完了よ」

「いやそっちじゃなくて」

私が訊きたいのは鎖の方です。

「あぁ、これのことね」

鎖は既にスカートの中に引っ込んだが、察してくれたようだ。再び黒鎖を出して見せてくれる。今度は左の袖口から。

「これは私の神威よ。名前は黒い鎖と書いて『黒鎖』。そのまんまね」

確かに、そのまんまだ。

「それより、早くして」

そう言って、長尾さんはカードリーダーの挿入口を向けてくる。

「あ。あった」

私がいざ挿入というときに丁度声を上げた先生が、私に何かを投げつけてきた。

「いぁっ」

ビタッと顔面に張りつくそれ。剥がして見てみると、それは盾を模した五角形に公安局と描かれたワッペンだった。意外にも刺繍で、紫色の糸で達筆に描かれていた。

「これって……」

「それが局章。今日から強制装着だから」

さも当然と言い放つ我が担任かつ上司に辟易しながら、私はカードリーダーに無言でIDを突っ込んだ。

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