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第4話

今回はやってしまった感が否めませんがどうぞ。

「ここが話に聞いた湖か……結構でかいな」



名も知らぬ湖のほとり、そこで流零は釣竿と荷物袋を持って立っていた。


何故こんなことになったのか。それは二時間ほど前に遡る。





−−

−−−−

−−−−−−


諏訪子達のところから旅立ち、一週間ほど経過していた。


流零は立ち寄った町の食堂で腹ごしらえをしながら店主と話をしている。



「湖にカニの怪物?」


「はい。半年ほど前から現れるようになって、湖で漁をしていた者や湖に近付いた者が既に何人も犠牲になっています」



口の周りに食べかすを付けながら話を聞く流零に、店主は元気無さげに話す。



「普通の兵士では歯が立たず、妖怪退治屋にも依頼したのですが結果は返り討ちでした」


「退治屋でも駄目だったのか」



流零の言葉に小さく頷いて返すと店主は続けて話す。



「この町はあの湖の恵みで発展して来ました。しかし怪物に独占されてしまっては、この町は近い未来に廃れてしまうでしょう。」



どこか諦めた様子の店主。流零は残り少ない料理を口にかきこんで呑み込むと、店主にこう告げた。



「ならその怪物……俺が退治してやるよ」


「なっ!?やめた方が良いですよ旅の御方!無謀です!」



止めようとする店主に流零は不敵な笑みを浮かべて言い放つ。



「大丈夫だ、腕っぷしには自信あるからよ。お代はここに置いとくぜ」


代金を置くと流零は店主が止めるのも聞かず、さっさと食堂を出ていくのだった。


−−−−−−

−−−−

−−




そして話は冒頭に戻る。



「釣りでもしながら気長に待つとするか」



流零はそう言いながら釣り竿の先を湖に投げ入れる。


(湖の中に大きめの妖気を感じるが動く気配はない……我慢比べになるか?)



怪物の存在を感じ取っていると、ちょうど自分の反対側の位置にある岸に何かが見えた。



「あれは人間?……いや随分弱っているが妖力を感じる、妖怪か?なんでこんなとこ……っ!?湖の中から妖気が上がって来やがった!?」







流零が釣り竿を湖に入れる少し前にこの湖にたどり着いた人物がいた。それはなんとあの狐耳の女性であった。


肩に刺さっていた矢はなくなっているが、とても辛そうな表情で身に付けている着物は所々が破れている。フラフラとした足取りで岸に来るとそのままヘタリと座り込んでしまった。



「傷は大したことないが、体が焼けるように痛い。やはりあの矢には毒があったのか?」



弱々しい声を出す女性。



「くっ、こんなところで死ぬわけには……なんだ!?この妖気は!?」



突如大きな妖気が近付いて来るのを感じる女性。次の瞬間、湖の水面から大きなカニのハサミらしき物が飛び出てきた。



「がっ!?」



弱っていたためか上手く反応出来ずに吹っ飛ばされる女性。今度は水面が大きく盛り上がり、ハサミの持ち主がその姿を現した。


その姿はまさにカニであった。だが、その体は民家より大きく毒々しい紫や黒に染まっている。頑丈そうな甲殻には鋭い棘が足からハサミまでびっしりと付いていた。


巨大な化けガニはガチガチとハサミを鳴らしながら女性に近付いていく。



(体が動かない……ここまでか……)



化けガニはハサミを女性へと振り下ろし、女性は自分の死を悟って目を瞑る。


しかし衝撃が来ないので、女性は目を開く。すると自分の前に見知らぬ男が立っており、化けガニのハサミを素手で受け止めていたのだ。


ハサミを止めている男……流零は女性に背を向けたまましゃべり出す。



「思ったよりお早い登場だったな。暇潰しに持って来た釣竿が無駄になったぜ」


軽口を叩く流零に化けガニはもう一本のハサミで横薙ぎに攻撃してきた。


それに対して流零はハサミを裏拳で迎撃し、粉砕してしまった。



「ギギィィィィ!?」


「なんだ?見た目の割に結構脆いな」



叫び声を上げ、痛みで少し後退る化けガニ。流零は率直な感想を漏らす。



「ギィィィィ!!」



ハサミを破壊され怒ったのか化けガニは流零に前歩きで猛突進し、残ったハサミで攻撃してきた。



「カニが前歩きしてんじゃねえ!」



流零はそのハサミも殴って破壊すると、化けガニの頭に跳び移る。



「こいつでしまいだ!!」



流零はとどめとばかりに化けガニの脳天へ拳を叩き込む。甲殻が破壊され、体液が流れ出す。すると化けガニは力無く崩れ落ちたのだった。


化けガニが死んだのを確認すると流零は女性の所に向かう。



「おい、大丈……なんつう格好してんだお前!」


「?」



急に顔を赤くして目を隠す流零。女性は一瞬何のことか分からなかったが、自分の服を見て状況を理解した。


恐らく化けガニに吹っ飛ばされた時だろう。ただでさえボロボロだった服がさらにボロボロになり、かなり際どい状態になっていたのだ。



「ひゃっ!?み、見るな!見るなぁっ!」



羞恥心で顔を真っ赤に染めた女性は必死に叫ぶ。



「ああもう!適当に何か布持ってくるから待ってろ!」



そう言うと流零はすぐに自分の荷物を取りに行く。そしてあっという間に戻ってくると大陸にいた頃使っていた布を渡す。


女性は引ったくるように布を受け取るとすぐに体を覆い隠す。



「ったく。世話の焼ける女だ」


「悪かったな、世話の焼ける女で」



少し疲れたようにしゃべる流零とむすっとした表情で返す女性。すると流零は何かに気付く。



「お前の妖力……やけに衰弱して乱れてるな。何か体に異常でもあんのか?」


「っ!?確かに私は今毒に侵されているが、何故分かった!?」



自分の状態を見破られて驚く女性。



「昔からそういうのが分かるんだよ。何でかは知らねえがな。それより毒って言ったな?ならこいつを飲め」



流零は荷物から小袋を取り出すと、更にその中から直径5mm程の黒く丸い物体を数個出して女性に差し出す。



「これは?」


「解毒薬だ。親父から作り方を教わってな。色々な毒に効く万能な奴なんだぜ」



初対面の人物から貰うため警戒心があったものの、現状毒を取り除く方法が他に思い付かない女性は解毒薬を受け取り呑み込む。



「何だか、少し体が楽になった気がするな」


「時間が経てば完全に毒は消える。それよりお前に聞きてえことがある」



薬の効果を感じる女性に流零は真剣な顔で話し掛ける。



「見たところお前は九尾の妖怪みたいだが、そんな大妖怪のお前が何であの化けガニに殺されそうになる程弱ってたんだ?」


「……それは」


「まあ言いたくねえなら無理に言わなくていい。ちょっと気になっただけだからよ」



言いづらそうな女性に何か察したようで、穏やかに告げる流零。



「いや、言わせてくれ。見ず知らずの妖怪である私にここまでしてくれたんだ、話すのが筋だろう」



女性はゆっくりと経緯を話し始める。


話をまとめるとこうだ。女性は幼い頃に両親を亡くし、それからしばらく一人で生活していたそうだ。


だが孤独に耐えきれなくなり、人間に化けて各地を転々とするようになった。


そんなある日妖怪であることがバレてしまい、兵隊から追われることになる。


最初こそ持ち前の力で逃げていたものの、激しい追撃で体力は限界となり気を抜いたところに毒の矢を受けて現在に至ったのだ。



「私は一人でいるのが寂しくてとても心細かった。誰かの温もりを感じていたかったんだ」



女性は目に涙を浮かべながら話す。



「私が妖怪だからいけないのか?人間だったら……何だいきなり!?」



いきなり涙を浮かべる女性の頭の上に手を置いてワシャワシャと撫でる流零。



「なーに辛気臭えこと言ってんだよ。確かに世間一般じゃ妖怪への風当たりは強えさ。だがよ、妖怪を受け入れてくれる奴だっている。お前は人間と一緒に居ていいんだよ」


「うう……うぁぁぁぁぁぁ!」



流零の言葉を聞き、今まで溜め込んでいた感情が爆発する女性。流零はそんな彼女にただ黙って胸を貸すのだった。







「もういいのか?」


「グス……ああ、すまないな」



女性に優しく声をかける流零。どうやらもう十分泣いたらしい。



「いいってことよ。そんじゃ俺はそろそろ行かせてもらうぜ」


「待ってくれ!もしかしてお前は旅をしているのか?」



町に戻ろうとする流零を女性が呼び止める。



「ん?ああ、確かに旅をしてるが。それがどうかしたか?」


「その……私をお前の旅に連れて行って欲しい!」



女性の方を振り返る流零。なんと女性は旅に同行したいと言うのだ。



「どうしたんだ?急に連れて行って欲しいなんてよ」


「私は行く宛ても無いし、お前に興味を持ったから……というのは駄目か?」


「フッ、お前も物好きだな。いいぜ、好きにしな」



軽く微笑み女性の申し出を了承する流零。



「本当か!?ありがとう!」


「お、おう」



嬉しそうな女性の笑顔に思わずドキッとする流零。



「一緒に旅をすると決まったからには、自己紹介が必要だな。私の名前は(らん)、種族は妖狐だ。よろしく頼む」


「俺は流零、種族は半人半龍……つまり人間と龍の子だ。よろしくな」


「半龍?随分変わった種族だな」


「まあな。とりあえず近くの町に行くぞ。化けガニ退治の報告に、お前の服も買わないといけねえしな」



互いに自己紹介を終えた二人。流零は新たな旅の仲間、藍を連れて町に戻るのだった。

藍様の名前は元からという設定にさせていただきました。

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