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第33話

今回はちょっと書き方を変えてみました。

『ちくしょう!次こそは勝ってみせるからな!』


『ふむ、期待しないで待ってやろう』



荒れ地のど真ん中に二人の人物が居た。片方は黒に近い灰色の髪をした十代半ばに見える少年、もう片方は長い白髪の青年である。つい先程まで戦っていたようだ。


少年は傷だらけのボロボロといった様子で悔しそうに青年を睨み付ける。対して青年は目立った外傷も無く、少年の睨みにも全く動じる気配は無い。



『今日の修行はここま……うぐっ!?』


『親父!大丈夫か!?』



急に苦しみ出して地面に膝をつく青年。少年が心配して駆け寄ると、やはり青年の顔色は悪い。



『……奴の呪いは確実に私の体を蝕んでいる。もうあまり長くは生きられまい。だが安心しろ。お前に私の全てを教え込むまでは絶対に死なん』


『親父……』



痛みをこらえながら語りかける青年からは、この世の何よりも固い決意が感じられる。そしてそれは確かに少年の心に伝わっていた。



−−−−−−−−−−−−



「……寝ちまってたか」



パチリと目を開くとすぐに周囲を見渡して状況を確認する。目の前には既に見慣れた庭、そして自分は廊下の上で胡座をかいている。


空を見上げれば太陽の穏やかな光が降り注いでおり、これに眠気を誘われたらしい。



「それにしても懐かしい夢だったな」



確かあの頃は親父にとことんしごかれたものだ。あまりに厳しい修行で、死にかけたのも一度や二度ではない。だが、それでも充実した日々を過ごしていたと思っている。


親父は最後まで俺の為に命を燃やした。■■■■の呪いで寿命を削られていたにも関わらず……。



「そんな真剣な顔をして、何か考えごとか?」



突然声を掛けられた為、思考を中断する。顔を向けると、そこには穏やかな笑顔の藍が腕を組みながら立っていた。どこがとは言わないが、相変わらずのでかさだ。



「何でもねえ。それより俺に用か?」


「妹紅が呼んでいたぞ。準備が出来たから、屋敷の入り口まで来て欲しいそうだ」



藍に用件を聞くと、どうやら妹紅からの伝言を伝えに来てくれたようだ。


そうだった、今日は妹紅と一緒に輝夜を連れて都の中を歩いて回る約束をしていたんだった。


眠気に負け、懐かしい夢を見たせいで危うく忘れかけてしまっていた。



「分かった。わざわざありがとな」



礼を言うと、藍は気にするなと言うように優しく微笑む。



「それにしても、妹紅があのかぐや姫と友達だったとはな。初めて聞いた時は驚いたものだ」


「まあ、世の中誰と誰が知り合いかなんて分からねえからな。それじゃあ、とりあえず行ってくるぜ」



最後に藍と少し会話をしてからゆっくりと動き出し、自分を待っている妹紅のところへ向かった。



屋敷の入り口では伝言通りに妹紅が待っていたが、若干不機嫌そうな顔をしている。待たせ過ぎてしまったみたいだ。



「遅いですよ流零さん。何やってたんですか?」


「悪い悪い。ちょっと寝ちまってた」



遅れた理由を聞かれたので後頭部をかきながら苦笑混じりに話して謝ると、妹紅はため息を一つついて少し呆れた顔になる。



「確かに良い天気だから眠たくなるのは分かりますけど、女の子を待たせるのはどうかと思います」


「ははは……すまん」



正直返す言葉が無いため笑って誤魔化すものの、ジト目で見てくる妹紅の視線が妙に痛く感じる。



「……悪気は無かったようですから、今回はこれで許します。それに輝夜まで待たせる訳にはいきませんしね。行きましょう、流零さん」


「おう」



妹紅はここで長引かせても今度は輝夜を待たせてしまうと思ったらしく、割と早めに許してもらえた。


彼女の表情が普段のものに戻って一安心したところで、輝夜の屋敷へ向かって歩き出す。


そして輝夜の屋敷の裏口までやってくると、そこには見張りが一名と庶民的な服装に身を包んだ輝夜の姿があった。



「ごめんね、待たせちゃった?」


「ううん、さっき出てきたばかりだから大丈夫よ。それよりも早速出発といきましょう」



妹紅が謝ると輝夜は別段気にしていない様子を見せ、早く出掛けようと促す。やはりこの二人は仲が良い。



「流零殿。後はよろしくお願いします」


「ああ、護衛の方は任せときな……って、居ねえし!?」



見張りから二人のことを任せられて自信満々に答えるが、ふと見ると二人の姿が消えているではないか。



「何ボサっとしてるの流零!置いてくわよ!」


「流零さん!早く!」



声に気が付くといつの間にか二人はだいぶ離れた場所まで進んでいた。前言撤回、ある意味妖怪退治より疲れそうだ。



「お前ら!勝手に行くな!」



二人に聞こえるように大きな声を出しながら、駆け足で近付いて合流する。全く、何のための護衛だと思ってるんだか。



「護衛を置いていく奴があるか!」


「置いてかれる方が悪いのよ。それに私達から目を離さないようにするのも護衛の仕事でしょ?」


「流零さん、頑張ってください!」



合流してすぐに注意するが、輝夜は悪びれる様子もない。俺か?俺が悪いのか?というか妹紅、お前は味方だと思っていたのに!頑張ってくださいじゃねーよ!



「分かった分かった。ったく、手間の掛かるお嬢様達だぜ」


「一言余計よ。それじゃあ、まずはどこから行こうかしら」



青年&少女二人行動中……



「この髪飾り可愛いわね。妹紅に似合いそう」


「そ、そんなことないよ」


「……」



出発してから様々な店や場所を巡ってきた俺達は、現在装飾品を売っている店に来ている。


輝夜と妹紅は商品を見て会話が弾み、とても楽しそうだ。それは良いことなのだが、こういうのに興味が無い自分としては退屈極まりない。


今まで藍達と買い物をしていた時はそれぞれ好きに動き回れたので、退屈することはほとんど無かったのだ。



「なぁ、そろそろ違う場所に「「まだよ(です)」」……へいへい」



移動するように催促してもこれである。それほど夢中になっているということなのだろうが、男である自分にはいまいち理解出来ない。


しばらくここから動かないであろう女子二人は、本人達の気が済むまで放っておくことにして周囲を見渡す。すると、近くに茶屋を発見した。


ちょうど小腹も空いているし、団子でも食べながら時間を潰すのもいいだろう。



「ちょっとそこの茶屋で休憩してるから、終わったら声掛けろよ」


「うん」


「はい」



一応二人に伝えると素っ気ない返事が返ってきた。何だこの疎外感は。そんなことを考えながら茶屋に行くと、女性の店員が茶屋の中から出てきた。



「いらっしゃいませ」


「団子を三つ貰おうか」



席に座りつつ、笑顔で応対する店員に早速注文する。かしこまりました、と店員が茶屋の中へ戻るのを見てから妹紅達の居る店に目を向ける。


まだはしゃいでいるのが離れていても分かった。よく飽きないものだ。そう思っていると、さっきの店員が茶屋の中から団子を持ってきた。



「お待たせしました。ご注文の品です」


「おう、ありがとよ」



団子を受け取り、まず一口食べてみる。団子の素朴な甘さが口一杯に広がって何とも言えない。


一個、もう一個とゆっくり美味さを噛みしめながら団子を食していく。気付けば残り一個となっていた。


最後の一個を口に運ぼうとしたところで、妹紅達の声が聞こえた。そちらを見ると、男二人組が妹紅達に何やら話しかけているではないか。


周りの音で何を喋っているのか上手く聞き取れないが、護衛としてとりあえずは行くべきだろう。


最後の団子を食べ、スッと立ち上がって近くに居た店員に代金を渡す。これは忘れてはいけない。



「ごちそうさん。美味かったぜ」


「ありがとうございました」



店員の声を背中越しに聞きながら妹紅達のところへ向かうと、会話の内容が分かってきた。



「ちょっとだけでいいからさ。俺達と遊ぼうよ」


「嫌です!離してください!」


「離しなさいよ!嫌がってるでしょ!」


どうやらナンパだったようだ。しかも妹紅の手を引いて無理矢理連れていこうし始めている。悪質な方であることが確定した。



「そこまでにして貰おうか」


「流零さん!」


「な、何だよあんた!」



間に割って入り、妹紅を掴んでいた手を離す。すると二人組がこちらを睨み付けてきた。



「こいつらは俺の連れなんだ。嫌がってんだから、ここは大人しく引き下がってくれや……痛い目は見たくないだろ?」


「「ひっ!?ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!!」」



さっさとお引き取り願う為、少し殺気を込めてドスの利いた声を出す。恐怖で一気に顔を青くした二人組は、あっという間にその場から逃げていった。



「ふん、情けねえ奴らだ」


「もうちょっと早く来てくれても良かったんじゃないの?」



逃げていく男二人にそう吐き捨てると、輝夜が不満そうにこちらを見る。



「面目ねえ。だが、気付いた時にはもう絡まれてたんだよ」


「それに、私も特に怪我とかしなかったからいいんじゃない?ね?」



とりあえず謝ると、妹紅が擁護する発言をしてくれた。やはりこういう優しいところが彼女の魅力なのだろう。



「むー、分かったわ。妹紅がそう言うならいいことにする」


「ありがとう、輝夜」



輝夜も納得してくれたようで、この件に関してはこれで一件落着だ。密かに心の中でため息をつく。



「さて、次はどこに行こうかしらねぇ」


「あ!あっちに面白そうなお店がある!輝夜、行ってみよう!」


「おいおい!まだ見て歩くのか!?」



そろそろお開きかと思いきや、次なる場所へ行こうとする二人の少女。さっきの店で結構な時間を使ったはずなのに、まだ他の店に行くと言うのだから大したものである。



「当たり前よ!まだ日は高いんだから、今日はとことん楽しむわよ!」


「おー!」


「……勘弁してくれ」



ノリノリの二人に対して自分の心はどんどん沈んでいく。結局、この後は夕方まで二人の買い物に付き合わされたのだった。

流零視点な感じでお送りしましたが、いかがでしょうか?

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