第18話
今回は内容を考えるのが難しかったです。
不知火と勇儀がイチャイチャ(?)する少し前、藍は流零達と合流するために山の中を移動していた。
「不知火の妖力が大きく膨らんだ後、弾けるように消えたのがこっちの方向から感じられた。無事ならいいが」
不知火の無事を祈りながら慎重に歩を進めていく。敵はいつ来るか分からないのだ。
「それにしても案外大したことはなかったな、天狗というのも。流零と修行したおかげだろうか?」
そう、藍は自分を襲ってきた天狗達を既に倒してしまったのだ。傷一つ負わず、呼吸も乱さずに。
元々九尾の狐として基礎能力の高い藍だが、流零との修行でより強さに磨きがかかったのだろう。
一人言を呟いていると藍は急に周囲に違和感を感じて足を止める。
「これは霧……なのか?いや、妖力を感じるからただの霧ではない!」
突如として藍を囲むように出現した謎の霧。藍はすぐにこれが敵の仕業と判断し、戦闘態勢に入る。
『驚いたね〜、天狗達をもう全員倒すなんて。あれでも腕の立つ連中を集めたんだけどね』
「っ!?何処だ!?出てこい!」
どこからともなく聞こえてくる声に驚きながらも叫ぶ藍。
『まあ、そう慌てなさんな。今出るよ……って言ってももう出てるんだけどね』
なんと謎の声が聞こえた途端、霧が一ヶ所に集まって人の型に変化していくではないか。
藍は驚きを隠せず、目を大きく見開いてその光景を見ていた。
集まった霧が変化したのは鬼の少女だった。長い茶髪に二本の角を生やした頭で、背は藍と比べるとかなり低い。腰に瓢箪をぶら下げ、腕には鎖らしき装飾品がある。
「まさか霧そのものだったとはな」
「まあね。私の能力を使えばこんなことも出来るのさ」
まだ驚きが残った表情の藍に対して、少女は自慢するかのように話す。
「おっと、そういえばまだ名乗ってなかったね。私は鬼の四天王の一人、伊吹萃香。お前と戦いにきたよ。名を聞こうか、九尾の狐」
「私の名は藍だ」
まだ互いに相手の名も知らなかったのを思い出した少女……伊吹萃香は自己紹介し、藍は短く答えるのだった。
「素っ気ないねぇ。まあいいや、お楽しみはこれからなんだから」
「私は別にお前を楽しませるために来たわけではない」
ニカニカと笑みを浮かべてこれから始まる戦いにワクワクしている様子の萃香。鬼らしく好戦的である。
一方藍は無愛想な態度を取りながらも、萃香から強者の風格を感じていた。
見た目に騙されてはいけない、油断すれば負けると本能が警鐘を鳴らすのだ。
「本当に素っ気ないねぇ。それじゃ、そろそろ始めようか!」
「来い!」
藍の態度に苦笑いする萃香。彼女は一呼吸置いて雰囲気を一変させると、一気に距離を詰めてくる。
藍は妖力弾を大量に撃って寄せ付けまいとするが、萃香は妖力弾を避けたり拳ではじくなどしてどんどん近付いてくる。
「流石に四天王を名乗ることはある。連射型の妖力弾ではほとんど効果は無いか。ならば!」
そう言うと藍は妖力弾一発分の威力を上げて再び撃っていく。威力が上がった分連射性は低いが、これなら有効なはず。
「なるほど、そう来たかい。でも甘いよ!」
「何っ!?」
いまだ余裕の萃香は妖力弾が当たる前に体を霧状に変化させると、あっさり避けてしまった。
さらに萃香はそのまま藍に接近して自身の射程内に捉えると、体を元に戻して殴り掛かる。
藍はギリギリのところで横に跳んで避けるとすかさず妖力弾を数発撃ち込む。
これは流石に避ける余裕が無かったのか、萃香は直撃を受けて吹っ飛んでしまった。
「やっと当てられたか。だが、まだ油断は出来ないな」
仮にも四天王を名乗る者がこの程度で倒れるはずがない。そう思い戦闘態勢を続ける藍。
予想通り萃香は両足で着地すると、まだまだ元気な様子だった。しかし体には妖力弾による傷痕が見られるため、ちゃんとダメージはあるようだ。
「やっぱり強い奴と戦うのは面白い!こんなに面白い戦いは久しぶりだ!ここまで楽しませてくれたお前には私の奥の手を見せてあげるよ!」
嬉々とした表情の萃香は自身の妖力を高め出す。
藍は何をするつもりなのかと一層警戒を深めて様子を見る。すると萃香の体がみるみる大きくなっていくではないか。
「巨大化だと!?それにしてもなんて大きさだ!」
「さあ、続けようか!」
萃香の奥の手とは巨大化。その大きさは初めて出会った時の雲山以上であった。その姿を見た藍はただ驚く他になかった。
「それっ!」
「うわっ!?」
巨大化した萃香の拳が藍目掛けて飛んでくる。
藍は地面を大きく蹴って空中に跳ぶことで回避するが、予想外のことが起こってしまう。
萃香の拳が地面に当たった時の衝撃波が凄まじく、空中にいる藍の体勢を崩したのだ。
「もらった!」
「がっ!?」
当然萃香がその隙を見逃すはずがなく、もう片方の拳で藍を攻撃する。
咄嗟に腕を交差させて防御の構えを取るが、無意味だと言わんばかりに萃香の拳は藍を地面に叩きつけた。
口から血を吐き出し、意識が遠のきそうになる藍。体を動かそうとするが痛みで上手く動いてくれない。
その体は地面に少しめり込んでおり、萃香の攻撃の威力を物語っていた。
「おやおや、そんなものかい九尾?それじゃあ次の一撃で終わらせてあげるよ!」
少し残念そうな表情の萃香は拳を振り上げると、こちらをじっと見つめる藍へ無慈悲な一撃を繰り出した。
音の余韻が山に響き渡り土煙が舞う中、萃香は戦いが終わったのを感じて元の大きさに戻る。
「はあ、もう少し楽しめると思ったんだけどな……っ!?これはどういうことだ!?」
満足するまで戦えず落胆する萃香。そうしていると土煙がなくなったので、おもむろに藍の様子を見てみる。するとそこには萃香の攻撃した跡があるだけで、肝心の藍の姿が消えていた。
「馬鹿な!?今の私の一撃を受けて動けるはずは……」
「どこを見ている?私はここだ!」
「何!?」
上から聞こえてきた声に反応して空中を見上げる。
そこには傷を負ってはいるがいまだ健在の藍の姿があった。
「何故そこにいる!?確かに攻撃は当たったはずなのに!」
「気付かなかったか?お前は狐にまんまと化かされたということに」
動揺を隠せずにいる萃香に対して藍はニヤリと笑みを浮かべる。
「化かされただと!?まさか、あの時私を見ていたのは……」
「そう、その時にお前は私の幻術にかけられたのだ。痛む体を無理矢理動かすのはキツかったがな」
謎が解けた萃香は悔しげな表情で苦笑している藍を見上げる。
「だけど、一度幻術にかけたくらいで調子に乗るな!その程度では私には勝てないよ!」
「それはどうかな?幻術はまだ終わっていないぞ!」
あっさり幻術にかかってしまったことが余程悔しかったのか、声を荒らげる萃香。
それに対して藍は不敵な笑みを浮かべながら指をパチンと鳴らす。
次の瞬間、萃香を取り囲むようにして大量の妖力弾と火の玉が出現する。幻術によって隠されていたのだ。
逃げ場など無い程に配置されたそれらはとても色鮮やかで、思わず見とれてしまいそうな美しさだった。
「綺麗……は!?まずい!このままでは!」
その美しさに萃香は一瞬心奪われるも、すぐ我に帰り体を霧状にして脱出しようとする。
「もう遅い!存分に味わうんだな!!」
「うああああああ!?」
判断が遅れたのが運の尽き。萃香は霧になる前に全ての狐火と妖力弾の直撃を受けるのだった。
爆音と土煙が同時に起こり、次第に土煙が消えていく。土煙が完全に消えると、そこには気絶して倒れている萃香の姿があった。
「私はそう簡単に負ける訳にはいかない。いつまでも流零に守られてばかりいるのは嫌だからな」
藍は地上に降りると誰に言うわけでもなく呟く。
確かな決意の込められた言葉を自分自身に言い聞かせるように……。
四天王も残すは二人!