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第15話

やっと出来ました。

紫へのお仕置きを終えた流零は全員の前に立つと、面倒くさそうな表情で口を開く。



「いいかお前ら。屋敷がこんな状態じゃ、とても宴会なんて出来やしねえ。面倒だが大掃除をするぞ」



予想のついていた言葉に落胆する一同だが、一人だけは違う反応だった。



「掃除してくれるのね!?ありがとう!本当に助かるわ!」



今回の元凶である紫は掃除が楽になるため、とても嬉しそうな様子だ。



「元はと言えばお前がちゃんと綺麗にしてりゃ済んだ話じゃねえか!」


「痛い痛い!!私だって忙しいからここにはあまり戻ってこれないし、戻ってきても疲れてクタクタなのよ!しょうがないじゃない!」


紫は再び流零に頭を掴まれ、涙目になりながらも反論する。



「ったく。まあいい、とりあえず担当を決めるぞ。庭の整備は男組で、各部屋の掃除は女組でやる。俺達なら夜までには終わらせられると思うが、頼むぞ!」


「「「「「おーっ!!」」」」」



紫を責めていても仕方ないので、流零は早速担当を決めて皆を動かす。皆が元気に返事をする中、紫は流零に掴まれた頭がまだ痛いらしくさすっていた。





まずは荒れ放題の庭にやってきた男三人。流零と不知火は草刈り用の鎌を持っている。



「雑草は俺と不知火でやるから、雲山は石を片付けてくれ」


「分かった」


「兄貴、いくら体力には自信があるって言ってもこれだけの雑草を二人でやるのはやっぱりキツイですよ」



不知火がそう言うのも無理はない。そもそも庭がとても広い上に、雑草の量も半端ではないのだ。



「馬鹿野郎、こういうのは気合いでどうにかなるんだよ。つべこべ言ってねえでさっさと始めるぞ」



不知火にそれだけ告げると、流零はものすごい勢いで雑草を刈り取っていく。


その様子を見て、流零一人でも大丈夫なんじゃないかと思いながらも作業を開始する不知火だった。





所変わって、部屋の掃除を担当することになった女三人組。


「ここは釜戸があるから調理場か?それにしては随分箱が山積みになっているな」


「調理場というより最早物置ね。蜘蛛の巣も大量に張ってるし」


「食事は大抵外食で済ませちゃうから、ほとんど使ってないのよ」



三人の目に飛び込んできたのは物置と化した調理場だった。埃なども目に見えるほどに溜まっているため、掃除するとなれば骨が折れそうである。



「宴会をするとなればここは必要不可欠だ。ある程度掃除してから邪魔な物を移動させよう」


「力仕事があるなら雲山もこっちに連れてくれば良かったかな?」


「向こうは向こうで忙しいだろうから、とりあえずは私達でやりましょう」



作業方針を決めると三人はすぐさま掃除に取りかかるのだった。







そして時は過ぎ、夕方になろうとしていた。



「あ〜終わった!疲れた!腹減った!もう動けない!」



相当疲れたのか、不知火はそう言うと屋敷の縁側に大の字で寝転ぶ。



「だらしねえな。これくらいで音を上げるなんてよ」



そこに現れたのは流零だった。まだまだだな、といった表情で不知火を見下ろしている。



「その割には足がガクガクしてますよ兄貴」


「う、うるせえ!別に疲れてなんかねえからな!」



不知火にじと目で指摘されて強がる流零だが、体は正直で足の震えが止まらない。張りきり過ぎたようだ。



「しかし、綺麗になりましたよね。最初に来た時とは別物ですよ」


「まあな、それだけ俺達が頑張ったってことだ」


二人は夕焼けに映える庭を感慨深げに眺めていた。


生い茂っていた雑草は全て刈られ、荒れていた地面も綺麗に整備されていた。まさに努力の結果である。



「お前達、藍達が宴会の準備が終わるからそろそろ戻って来いと言っておったぞ」


「ん?もうそんな時間か。分かった、今行く。」


「飯だ!やっと飯が食える!」



声を掛けてきたのは雲山だった。そろそろ宴会が始まるらしい。


流零は今までだれていたのが嘘のように元気になった不知火と共に、宴会の場へ向かうのだった。






「もう食えない……zzzz」


「流零……うふふ……」


「みんな気持ち良さそうに寝てるわね」


「疲れてたみたいだからな。そっとしとけ」



楽しい宴会も終わり、流零と紫以外は全員が眠っている。一輪と雲山は静かに寝ているが不知火と藍は夢でも見ているようだ。


流零と紫は部屋を出ると庭が見える縁側に座る。だいぶ時間が過ぎたようで、外はすっかり暗くなっていた。



「今日は本当にありがとう。屋敷も綺麗になったし、何より楽しかったわ」


「そいつは良かったな」



いつもの胡散臭い笑顔ではなく、心からの笑顔を見せる紫。流零が軽く笑みを浮かべて返すと、今度は急に紫の顔が曇る。流零がどうしたのかと思っていると、紫が口を開く。



「実はね、貴方達を呼んだのはもう一つ理由があるの。本当は、明日皆に伝えるつもりだったんだけどね」


「もう一つの理由?」



紫の言葉に怪訝な顔をする流零。どんな理由だというのだろう。



「貴方達に妖怪の山へ行って欲しいの」


「妖怪の山?なんだそりゃ?」



流零は知らない言葉に疑問が深まるばかりである。



「都からそう遠くない場所に、鬼や天狗を始めとする妖怪達が支配している山があるの。そこが妖怪の山よ」



紫の説明になるほどと頷く流零。何故妖怪の山について知らなかったかというと、今まで都の近辺は通らなかったからである。



「それで、どうしてそこに行って欲しいんだ?」


「ええ、ことの発端は二週間前なんだけど……」



話によると、紫は妖怪の山へ計画への参加を交渉しに行ったのだそうだ。


妖怪の中でも特に大きな勢力である鬼と天狗の協力があれば、計画はほぼ万全と言えるだろう。しかし、無条件で協力してくれるとは思えなかった。


案の定彼らは紫に一つ条件を提示してきたのだが、その条件が『計画の協力者の実力を見極めさせて欲しい』というものであった。


協力者の実力が分かれば、計画に参加するに値するかどうかが判断出来る。そう言われた紫は、準備が出来たら協力者を山に向かわせると伝えてその場を後にした。


「実力を見極める……つまりは……」


「ほぼ確実に戦いになるわ。命の保証も無い」



確認するように言葉を発する流零に、紫は真剣な顔で告げる。



「正直な話、私は迷ったわ。天狗の長『天魔』に鬼の長『鬼神』、どちらも恐怖を覚える程の力を持っているのを肌で感じたからよ。もしあの二人と戦うことになれば、いくら貴方達でも死んでしまうかもしれない。そう思わずにはいられなかったの」


「だが、俺達を向かわせることにしたんだろ?」



話を続ける内に紫の表情はどんどん暗くなっていき、流零はそれを真剣に見つめる。



「そうよ、計画のために彼らの協力は是非とも欲しい。けれども貴方達には死んで欲しくない。本当に勝手ばかりでごめんなさい!」


「別に気にしちゃいねえさ。前にも言ったろ?俺達は荒っぽいことぐらいしか役に立てねえってな。だからそんな顔すんなよ」



遂には涙まで流してしまう紫。だが流零は笑みを浮かべながら、ありのままの気持ちを伝えて励ます。



「ありがとう流零……」


「礼ならいい。それよか、お前はその泣き虫な所をどうにかした方がいいんじゃねえか?」


「なっ!?私は泣き虫じゃないわよ!訂正しなさい!」



涙を拭って礼を言う紫だが、流零にからかわれると一転して怒り出す。流零は悪い悪いと謝りながらもカラカラと笑うのだった。


夜空ではそんな二人を見守るように綺麗な星々が輝いていた。

次回から妖怪の山編に突入!

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