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第10話

相変わらずのクオリティです。

「いや〜まさかまた兄貴に会えるとは思ってなかったですよ」


「それはこっちの台詞だ」


海に沈んでいたのを流零達に助けられた少年『不知火』は、現在濡れた服を焚き火で乾かしながら話をしている。



「ところで兄貴、こちらの女性は兄貴の彼女さんですか?」


「な、何言ってやがる!藍とは別にそういうのじゃねえよ!」


「そ、そうだぞ!私達はそういう仲ではないぞ!」



顔を赤くして恋仲であることを否定する二人だが、藍の方はまんざらでもなさそうである。



「はあ、そうなんですか。あ!そういえばまだ自己紹介してなかったですね。オイラは不知火って言います。兄貴には以前お世話になってたんです」


「私は藍、九尾の狐だ。今は流零の旅に同行している」


「おい、自己紹介はそこらにしとけ。不知火、そろそろ聞かせてもらうぜ」



自己紹介も程々にすると、今度は流零が真剣な眼差しで不知火を見る。



「どうしてお前が妖力を持ってこの時代まで生きてんだ?最後にお前と会った時、お前は人間だったはずだ」


「この時代?人間だった?流零、一体どういうことだ?」



流零の質問を聞いて藍は話についていけないようで、流零に問いかける。



「不知火は俺が百年以上前に大陸へ向かう前に知り合った人間だ。つまり、本来ならこの場に居るはずがねえんだ」



流零の言葉を聞くと藍は驚いた表情で不知火を見る。当の不知火は真面目な表情をして流零の言葉を聞いていた。



「兄貴、どうしてオイラが生きているのかは今から説明します」



そう言うと不知火は静かに自分に起こったことを話し出す。


不知火は孤児であったが生まれつき高い霊力の持ち主だった。それを見込まれて妖怪退治屋に育てられ、十代にして一人前の退治屋となったのだ。


妖怪退治をしていた時に流零と出会い、短い間ではあったが稽古をつけてもらったりした。


流零と別れてから半年後、不知火はある妖怪を退治する依頼を受けた。


蜘蛛の胴体に牛と鬼を混ぜたような頭を持った巨大な妖怪。『牛鬼』と呼ばれるその妖怪はとても凶暴で、人々に被害が続出していたのだ。


年少ながらも腕利きの退治屋として名の通っていた不知火は、依頼を快諾するとすぐさま牛鬼退治に向かった。


だが牛鬼の力は想像していたよりも強く、苦戦を強いられた。大きな傷を負いながらも牛鬼を倒した不知火だったが、ここで思わぬことが起こる。


倒した牛鬼の死体から黒い霧のようなものが出たかと思うと、それが不知火の体の中に入ってきた。なんとこれは牛鬼の魂で、不知火の体を乗っ取ろうとしたのである。


不知火は自分の全ての霊力で必死に抵抗した。最後には牛鬼の魂に打ち勝ち、その力を取り込んだのだ。


体を乗っ取られずには済んだが、牛鬼の力を取り込んだことで自分が人間ではなくなったことを不知火は本能で理解した。


妖怪となった以上退治屋仲間のところには行けないと思った不知火は、ふと流零の元へ行こうと思い立つ。


流零を探すため大陸へと旅立った不知火だったが、なかなか手掛かりが掴めない。結局断念した不知火は大陸から戻り、各地を転々としていた。そして話は現在に戻るのだ。



「……と、これがオイラの今に至るまでの経緯です」


「なるほどな、大体のことは分かった。今まで大変だったろう。で、海に沈んでたのはなんでだ?」



不知火の話を聞き、事情を把握する流零と藍。流零は次に海に沈んでいた理由を聞く。



「ああ、それは岩場を歩いてたら足を滑らしちゃいましてね。そんで更に頭を思い切りぶつけて気絶して、そのまま落ちたんです」



あっけらかんと答える不知火に今までの真面目な雰囲気は消え去り、流零と藍はガクッと崩れるのだった。



「なんだか彼は精神的に強いんだな。普通はもっと暗い感じになりそうなものだが」


「不知火はとことん前向きな奴だからな。昔と全然変わってねえぜ」


「二人共どうしたんです?」



ほとんど暗さを感じさせない様子の不知火に感心と呆れを抱く流零と藍。



「なんでもねえよ。それより不知火、お前これからどうする?」


「どうするって……なんだ!?」



突然海から不気味な音が鳴ると、沖の方から何か大きな物体が迫ってくる。


不知火はまだ乾ききっていない服と装備品を身に付け、流零と藍も身構える。


臨戦態勢に入っていると、迫ってきた物体は三人の前にその姿を現す。


海面を突き破って現れたのは巨大なウツボだった。ただしその体は黒く、目は真っ赤に輝いている。



「恐らくこのあたりはこいつの縄張りだ。綺麗な海だってのに漁村が見当たらねえのはこいつがいるからか!」


「来るぞ!避けろ!」



藍のかけ声と同時に三人は岩場から飛び退いた。その直後三人がいた場所に巨大ウツボが口から水流を発射する。岩場は水流によって容易く粉砕されてしまった。



「なかなかの威力じゃねえか、面白え!」


「兄貴!ここはオイラに任せてください!」



不知火は今にも巨大ウツボに攻撃しそうな流零を止めると、自分がやると言い出す。



「……分かった。ただし、やるからにはきちんと仕留めろよ」


「お任せあれ!」



元気の良い返事をすると不知火は腰に装備していたものを取り出す。


金属で作られたL字型の物体が二つ。それは現代ではトンファーと呼ばれるものだった。


不知火はトンファーを両手に構えると巨大ウツボに突撃していく。



「ギシャァァァァ!」


「当たらないよっと!」



ウツボは尻尾で不知火を叩き潰そうとするが、簡単に避けられてしまう。



「そらっ!」


「ギシャァァァァ!?」



不知火はトンファーに妖力を集め、刃を形成するとウツボの尻尾を切断する。ウツボは痛みに悶えながら不知火を睨み付け、今度は口から水球を発射する。



「そんなもの!」



トンファーに妖力を集めたまま回転させて水球を防ぐ不知火。防ぎ終わると一気にウツボの頭目掛けて飛び上がる。



「おりゃぁぁぁぁ!!」



トンファーを振りかぶるとウツボを脳天から真っ二つにして、そのまま着地する。


ウツボは大きな音を立てて海に沈んでいき、三人は黙ってそれを見つめているのだった。



「まあまあってとこだな」


「相変わらずの辛口評価ですね、兄貴」


「とりあえず無事に終わってなによりだ」



流零の評価に苦笑する不知火、藍は安堵の表情を浮かべていた。



「そうだ!兄貴、オイラがこれからどうするかって聞いてましたよね?」


「ああ」



思い出したように言う不知火に流零は短く答える。



「オイラ、兄貴と一緒に行きたいんですけど……いいですかね?」


「お前がそうしたいんなら構わないぜ」



不知火の言葉を聞くと流零は笑みを浮かべて了承した。



「いいんですか!?やったあ!これからよろしくお願いします!兄貴に藍の姉御!」


「あ、姉御って……まあいいか」


「ハハハ!意外と似合うんじゃねえか藍!」



こうして流零の旅に新たな仲間が加わるのだった。

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