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exseed  作者: 湯員
4/8

両手に苺



「え?」



一瞬、そして全てが同時だった。



不良が落としたいちごオレ20本入りの袋を咄嗟に右足で受け止め

左手の正拳突きをその不良の顔面に入れ

右手でSuicaを取り出し支払いを済ませる。



その全てをこの男は一度にやってのけた。



急に落とされた袋を受け止める反射神経、動態視力。



そして500mlのいちごオレが20本も入った袋を片足で支える発達した脚の筋肉。



更に脚に神経を集中させている筈なのに、不良の鼻骨を正確に狙った左正拳突き。



「なんだコイツ…?」



この時点で行動が起こってから3秒弱。



周りの不良達といえば、今だに自分達の目の前で何が起きたのか、はっきりと分かっていなかった。



落とした筈の袋が落ちていなくて



仲間の一人が悲痛の声を上げながら床に崩れていて



支払いが終わっている。



その結果しか見えておらず、この男がどう動いたのかすら認識できなかった。



しかしそんな彼らでも、たった一つだけ理解できたことがある。



「自分達とはレベルが違う。」



それだけは、その場にいた全員がわかっていた。



そして男はゆっくりいちごオレ入りの袋をレジに置き、不良達の方を向いた。



それだけで不良達は全員ビクッと体を震わせたが、男は止めを刺すかのように言った。



「おいカス共…

財布とタバコ置いて消えろ!!」



…いやどっちが不良だよ!









「ひーふーみーよ…うおっ!こいつ4万も持ってやがる!!」



「………。」



pm10:40



雨が上がった。



そして俺は今、何故かコイツの家に向かっている。



両手にいちごオレを大量に抱えて。



…どうしてこうなった?



あの後…

…不良達から金を巻き上げたコイツはその金で更にいちごオレを買い始め、最終的に店のいちごオレ(在庫含む)を全て買い占めた。



会計でいちごオレだけで二万の数字を弾き出す奴は恐らく世界にコイツ一人だろう。



しかしあまりにも欲張り過ぎたせいで、袋に一人では確実に運べない量になってしまった。



そこで都合よく近くに残ってた俺が捕まり、家まで運ばされることになったのだ。



「ったく何で俺がこんな目に…。」



「まーまー固いこと言うなって!

絡まれてたの助けてやったろ?」



「……。」



あの程度の数なら、別に助けないでもよかったんだけど…。



「てかお前高校生だろ?

何普通にタバコ吸ってんだよ…。」



「吸うか?」



「いらねーよ…。」



どうやら俺は、さっきの不良なんかよりもっとタチの悪いのに捕まってしまったみたいだ。





「てかマジでタバコはやめとけって

大人になったら体壊すぞ?」



「お前も高校生じゃん。」



「俺は吸ってないもんよ。

俺の親父がそれのせいで肺ガンになっちまったんだよ。



「親父?」



その時この男が肩を少し揺らしたのを、俺は見逃さなかった。



動揺した…?



「そういえばお前の親父ってさ、何してる人?」



「…お前が知ってどうする。

よし!着いたぞ!」



何だかはぐらかされた気もするが、もしかしたら聞いちゃいけなかったかも知れないな。



というより、どうやら着いたらしい。目の前のぼろ…年期のあるマンションがこいつの家らしい。



「3階な」



階段を上りながらそいつはそう言ってきた。俺はそんなことより階段が上る度にギシギシ言うので、少々不安になり重りとなっているいちごオレを投げ捨てたい気持ちでそれどころではなかった。



そして3階に着き、そいつは鍵のかかってないドアを開け、俺を中に招いた。



「無用心だな…。」



「盗られるもんなんてなんもねーからな。」





「さて…お前にいくつか聞きたいことがある。」



俺は持ってきたいちごオレを床に下ろし、出された座布団に座り話を切り出した。



「ん?いちごオレ飲むか?」



「いらん。甘い物は苦手だ。自分の青汁がある。

…そんなことじゃなくて」



「青汁……何だ?」



今の「青汁…」の若干驚いた声と侮辱するような視線に苛立ちを覚えたが、俺は気にしないようにして続けた。



「お前は何者だ?」



「人間。」



そういうことじゃなくて…

いや、今のは俺の質問が悪かったか。



「お前はどういう人間だ?」



「甘党。」



だからそうじゃねえええ!!!



しらばっくれてるようには見えないし…

まさか本当にただの人間であんな運動神経を持ってるのか?



「終わり?

じゃあ俺も質問!」



俺が考え込んでるのを見て、目の前の男は手を挙げて俺に言ってきた。



「…何。」



「さっきお前がコンビニ来た時、よく考えたら傘もカッパも使ってなかったし、その上歩きだったろ?

なのになんで髪の毛一本、濡れてなかったんだ?」


こいつ…気づいてたのか。



あの馬鹿そうな不良達は一切疑問に思ってなかったけど、こいつは見た目と違って少しだけ頭が切れるらしい。



俺はあの時、自分の能力を使って雨を俺に当たらないようにしていた。



「俺が水と認識した物を操作する能力」で。



「…雨が俺を避けたから。」



「…真面目に聞いてんだけど。」



真面目に答えたんだけど…ん?



「お、また降ってきたな。」



俺は窓の外を見て、またさっき程では無いにしろ降りしきる雨を見てそう言った。。



「あちゃー、こりゃ止みそうに無いな…。

どうする?今日は泊まってくか…

ん?」



そして男が窓を見て向き直った時目の前に先程まで自分の家にいた来客の姿は消えていた。



飲み干した青汁だけが机の上に置かれ、その直後帰ってきた妹に聞いても誰ともすれ違わなかったという。



これが赤井太陽と水野青葉の初めての出会い。

そして、赤井太陽の右手から炎が出るという事態が起こる前日だった。




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