ウォーターコントローラ
pm21:20
「…雨?」
「少年」はそうつぶやき、また歩き出した。
ニュースでは雨なんて言ってなかった気がする。
周りを見れば傘を刺す女の人や、カバンで頭を隠し走るサラリーマン風の男性。
対して彼、水野青葉は手ぶらで悠然と歩いていた。
「皆大変だなぁ…。」
水量が半端ない。
多分今がピークなんだろうけど、この雨はちょっと凄い。
安物のビニール傘なら折れてしまうんじゃないかという程の威力
2m先も見えない雨量。
ゲリラ豪雨と呼んでもいいんじゃないかと思えてくる。
しかし青葉は気にも止めず、パーカーにジーンズ、スニーカーというラフな格好で目的地に向け普段と変わらない速度、歩幅で歩く。
周りでは突然の豪雨に雨宿りする人がちらほら。
どうせすぐ止むだろうって考えなんだろうけど、この雨は朝まで止まないよ。
湿気とか雲の動き、何より雨そのものが告げてくれてるのに。
「観察不足。」
そう言って青葉は目的地、
「イナズマセブンイレブン」
というコンビニに入った。
中にいるのはたいてい雨から逃れてやってきた若者達。
その中には雑誌コーナーで陣を組んで座っている不良達も数名いた。
大人数で幅を取り、好き勝手騒ぎ、あきらかに周りに迷惑をかけている。
見ていて気持ちのいいものではない。
店側も注意するかと思いきや、レジにいるのは気の弱そうなバイトが一人。
まぁだからあんなに堂々と座り込めるのだろうが。
しばらく見ていると、その中の一人が店内だと言うのにタバコを取り出し、火を点けようとしだした。
いくら店員や客から何も言われないにしてもこれは…
「非常識だなぁ。」
青葉は会計中、不良達のあまりにもの常識はずれの行動につい口が出てしまった。
「あ?」
当然聞き逃してくれる筈も無く、青葉は見事不良達に囲まれてしまった。
「ねえ君さー、今俺達になんか言った?」
「あ、おにぎりはあっためて下さい。」
「非常識とか聞こえたんだけどさー…」
「あ、青汁にストローはつけなくていいです。」
「シカトしてんじゃねえぞてめえ!!」
不良の一人が青葉のレジ袋を奪い取り、床にたたき付けた。
「あーあ、青汁中身出ちゃったねー」
「うはお前やるぅ!
おら店員おもしれーなら笑っていいんだぞ」
不良達はへらへらと薄ら笑いを浮かべている。
そして店員も自分に火の粉が降りかからないよう、言われるがままに引き攣った笑顔を作ろうとしている。
はー…めんどくさいことになったな…。
「おいお前ら…「お前らいい加減にしろよ!」
…誰?
俺が文句を言う前に客の中の一人が間に入ってきた。
「あァ?何だてめぇ?」
「だからいい加減にしろっつってんだよ!!」
こいつが誰かは知らないけど、勇気のあるやつだと思った。
相手は5人以上いる不良。
中には結構ガタイがいいやつもいる。
対してこの男はたった一人でわざわざ自分から俺を助けに入ってきた。
勇気があって正義感もある。
もし立場が逆だったら俺は助けに入っただろうか。
いや、多分面倒臭いという理由で素通りしてただろう。
見上げたもんだ…俺も今度からこいつを見習って「早く会計すませろっつってんだよ!!」
「「え?」」
「いつまでもレジ前でぐだぐだやってんじゃねえ!」
な
なんだコイツ…。
「お前ら」って俺達全員のことだったのか…。
正義感とかそういうの関係無くて
ただ自分の「会計」が遅れたことだけに怒ってたのか…。
「何て自己チューなやつ…。」
コイツを見習おうとした俺が恥ずかしいわ。
「はいはいどいたどいた!」
目の前の自己チュー男はそう言いながら俺達を手で邪魔物の如く押しどけ、レジにいちごオレの山ほど入ったカゴを置いた。
「Suicaで頼むわ。」
「じゃねーだろ!!」
何事も無く会計済ませようとする目の前の男に、不良の一人から怒号が飛んだ。
そりゃそーだろ…俺も突っ込みそうになったわ。
この男…自由過ぎる。
「てめーどこ高だ?」
「調子こいてんじゃねーぞ?」
「うるせーなカス共…店員さん、話聞いてないで早く包んでくださいよ!!」
会計の間終始不良が何か言っていたがこの男は我関せずと言う風に徹底して無視だった。
なんなんだこの男…この態度のでかさは。
見たところそんな強そうには見えない…ただの危険知らずの馬鹿か?
背丈は俺と同じ170そこそこ。
中肉中背で黒目黒髪。
髪型は長くもなく短くもないツンツンした髪を全て後ろに流している。
「に…2100円になります…」
「だからSuicaだっつーの」
「だからシカトしてんじゃねーよ!」
痺れを切らした不良の中の一人が、男の20本のいちごオレの入った袋を床にたたき付けた。
なんでこいつらは人の飲み物を落としたがるんだ…。