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人を信用するのに時間は必要なのだろうか?


どうもどうも。

最近、ある友達に恋愛占いをやってもらったら、「あなたは一生彼女できないでしょう」と言われたメダショウこと目玉焼きは醤油派です。

ほんんんんんんんんとにお久しぶりです。完全なるプロット不足でございます。ほんとにすいません。皆さんには見えないと思いますが、今土下座しながらこれ書いてます。


えーっと、まぁ、なんやかんやで第十九話です。

今回は一番長いです。半分以上が駄文の塊で読みにくいですが…。


では、


どぞー




第十九話




「じゃあ、覗きについて詳し」



「ちょっと待て」



友美ちゃんの事で頭がいっぱいだったんだろうな…、自分の手足が縛られているのを忘れて、立ち上がって歩き出そうとした風間は前のめりに倒れて、見事に顔面強打。もちろん鼻血も出る。マコから貰ったポケットティッシュを鼻に詰め込んだ、そんな痛々しい風間をいつもの保健室のベッドに連れてきたオレは、早速『水泳部室覗き盗撮事件』の詳細を…と、思ったのだがイケメンメガネが止めに入ってきた。


「んだよー」


「はっきり言うが、俺はまだ風間が犯人だと疑っている」


止めに入ってきた時点である程度予想はしていたが、やっぱりか。テルはまだ風間を疑ってる。しかも、疑っているのはテルだけではなかった…。


「ほいほ~いっ!!! おれも同じでーすっ!!!」


「うっせぇ!!! お前は絨毯に寝てただけだろっ!!!」


「ふっふっふっ、甘いなタクやんっ。アレは話に全く興味がないと見せかけて、実はめっちゃ興味があってこっそり聞いてるっていう、作戦だったのだよっ」


「…はいそうですか……。じゃあ話を進めよう」


全く意味の分からない事を言い放ったカズを華麗にスルーして話を続けることにした。スルーされたカズは、またさっきの生徒会室の時のように不貞腐れ、保健室の床にだらんと寝た状態でコロコロと転がり始めた。


「なんでテルは、まだ風間を犯人だと思ってるんだ?」


「逆に何故拓斗は、風間を犯人じゃないと言い切れる?」


オレの質問にまた質問でテルは返してきやがった。チラッと風間を見るとすごく肩身が狭そうだ。当たり前か。こんな話、本人の目の前でするようなことじゃない。


「言い切れるぞ。そんなのこいつを見てればわかる」


そう言って、体操座りで限界まで体を縮こまらせて、俯く風間の頭にポンと手を乗せた。

見てればわかる。そのまんまの意味だ。風間を見てれば、犯人じゃないとわかる。それには確かに確実な証拠や何やらがあるわけじゃない。でも、そんな物を必要としないほど、風間は友美ちゃんに真っ直ぐで、その気持ちがこっちにも伝わってくる。そんな奴が覗きなんかするわけがない。


「俺は見ててもわからなかった」


「個人差はあります」


「なんでそこで、どっかの通販番組の端っこに書かれてるような言葉が出てくるんだよ」


「用法・用量お守りください」


「なんの用法と用量だよこら、真面目にやれ」


ライオンに食べられる寸前のうさぎのように縮こまって、何も言葉を発しない風間を見て、どうにか顔だけでも上げてほしかったオレは、ちょっとふざけてみた。テルに怒られちゃったけど。

オレとテルのツーマントークばかりで話に入ってきていないマコを見ると、何やらさっきからずっとベッドの上に立ち、両手を天井に挙げ、「うぅ~」とよくわからないが『気』を溜めている……のか?。そして今、両手に集まったその『気』を手で包み込むようにしてぎゅっと固め、まさかの…。


「どーんっ!!!」


かけ声と共に小動物風間に両手を、まさしく「どーん」という感じで突きはなった。


突然の衝撃とびっくりに風間は「うわぁっ」とベッドから転げ落ちた。びっくりしたのは風間だけじゃなく、オレもテルも目を見開いて、何故かドヤ顔で決めポーズをとるマコに視線を向ける。


「…えーっと、……あっ、え? どうゆうことですか、マコさん?」


「…いてて。…なにするんですか、徳寺先輩っ!」


ベッドから転落した風間は、その際打った頭をさすりながら、未だにベッドの上に立ってドヤ顔のマコを見上げて、今までで見てきて一番強い口調で怒鳴った。


マコという人間は、今保健室の床でコロコロ転がって人間掃除機とかしているカズと同じように、突然何かを仕出す。それに意味があるのかわからないが、とりあえず、アレだ。マコのドヤ顔が可愛いっ!!!!


「…き、聞いてるんですか?」


怒鳴っても、ドヤ顔から全く表情が変わらないマコに、風間は怒りよりも若干呆れ気味になってきている。

風間よ、悪いがマコはそういう人間だ。


「隼君」


「は、はい」


満足したんだろうな…、ドヤ顔と決めポーズをやっと止めたマコは、風間の顔を見て名前を呼んだ。そしていきなり、ビシッと人差し指を風間に差して、さっきのドヤ顔とは真逆のような真剣な顔で口を開いた。


「そんな黙ったままで良いの? トモちゃんのこと好きなんでしょ? テっちゃんにはそれがまだ伝わってないみたいだよ。だったら伝えるしかないんじゃない?」


「…………」


いつもみたいにあの独特のふわふわしたような喋り方ではなく、ハキハキとした喋り。初めて見た。中二からずっと一緒にいたが、ほんとに初めてだ。ふわふわとハキハキのギャップからか、テル並の説得力。


マコがこんなにもキレた原因は明白だ。風間はずっと体操座りで下を俯き、テルに反論……、顔を上げる動きすらしなかった。そんな風間を見て、マコはキレたんだ。キレ方がまた何というか、意味がよくわからなかったが…。


「……わかりました」


微かに風間の声が聞こえた。風間の方を見ると、痛みの引いてきた頭をさするのをやめて、立ち上がるところだった。

立ち上がった風間の顔は、とてもいい顔をしている。そこでコロコロ転がり続けるのに疲れたのか、涎を垂らして床に眠り始めたカズよりは数千倍良い顔だ。その輝く顔をテルに向け、伝えるために口を開いた。


「テル先輩っ!!!」


「伝わった」


「「早っ!!!」」


あっ、え? 早くね? 伝わるの早くね?

まだ「テル先輩」と名前を呼ばれただけで、何が伝わったのだろうか…。そんなテルにすぐさま、マコと一緒にツッコんだ。


「早くないすかテルさん。伝わるの早くないすか」


「いや、大丈夫だ」


何が大丈夫なんだ…。


「伝わった」


「伝わったって、テル…。まだ風間は名前しか言ってないぞ」


「伝わったんだよ、いろいろとな」


「いろいろって…」


伝わった。そう言い切るテルは、メガネを一度クイッと上げて、生徒会室からここに戻るついでに買ってきた『マイむと』を一口飲んだ。

いろいろってなんだ。風間の事の他に何が伝わったんだ。


「とにかくだ、俺から話をずらしてしまって悪いんだが、軌道を戻すとしよう」


軌道修正。


「…まぁ伝わったならいいけど……。…んじゃ、話を戻すとしますか」


オレはそう言って、いちご牛乳を一口飲み、風間に事件の詳細を話し始めた。




  *




「会長、よかったんですか? ヤツらを行かせてしまって」


あのアホ4人組が出て行った後の扉を見つめ、凛と黙る会長に、俺は口を開いた。のが、今から5分ほど前の事だ。5分経った今でも会長は黙ったままだ。一切、扉から目を離さず、口を開かない。何を考えているのか、それすら分からない。ただ言えるのは、今日も会長の横顔は綺麗だっ!!!!! いや、横顔だけじゃなく、すべてが綺麗だっ!!!!!

そうだ、今日、この場を借りて言わせて頂きたいことがある。別に初の俺の視点だからとかそんなことで舞い上がってるわけじゃないが、一言だけ言いたい。


俺、明日野條は、朧月霞が好きだっ!!!


この気持ちはもうどうしようもなく、止められないほどに膨れ上がって、今、こうやって会長の隣にいるだけで破裂しそうだ。いや、もう何か内臓の一つは破裂しているのかもしれない。腹がちょっと痛い…。


「明日野ぉー」


「……あっ、はいっ!!! 何でしょうっ!?」


突然の会長の声に俺の頭はコンマ数秒遅れてしまった。会長の方を見ると、いつものように机に頬杖をついて、頭をこちらに向けていた。

綺麗すぎる。顔のパーツ一つ一つが完璧すぎる。会長の若干鋭い目が俺はすごい好きだ。目を見ていると、スススーとなにか吸い込まれてしまいそうになる。


「おい明日野、私の顔に何かついているのか?」


「…え? あっ、すすいませんっ!!! 少しぼーっとしてましたっ」


しまった!!! 会長の綺麗すぎる姿にまた固まってしまっていた。


「ぼーっとしてた? 何か考え事か?」


「いえ、大丈夫ですよ。それより会長、何かご用だったのでは?」


話を逸らす。


「あぁそうだった。ちょっと明日野に聞きたいことがあってな」


「聞きたいこと、ですか?」


「うむ、まぁ大したことじゃないんだけど」


会長はそう言って、コーヒーを一口スッと飲み、また続けた。


「明日野は今知り合った人間を信用できるか?」


「…? 会長すいません。どういうことでしょう?」


?。クエスチョンマークが頭の中を侵略してきた。


「いやだから、うーんそんな難しい事言ってないと思うんだが。例えばだ、私と明日野が今この場で初めて会ったとする」


「はい」


「明日野は私の事を信用できるか?」


「そんなの当たり前じゃないですか。信用できますよ」


「それは何故だ?」


「会長だからですよ」


「アホー。いや、だからな……、あーもういいや。明日野に聞いた私がアホだった」


???。クエスチョンマークに完全に頭を支配されてしまった。どういうことだ? 俺は間違った事を言っただろうか? いやそんな事はない。会長に「私を信用しているか?」と聞かれ、「信用しています」と俺は言った。これに間違いは一つも無い。


「凛に聞くことにしよう」


会長はそう言って、俺から顔を凛さんの方に向けてしまった。今見えるのは会長の髪、もっと綺麗な顔を見ていたかった。


「凛は今初めて知り合った人間を信用できるか?」


「…………」


凛さんはいつものように黙ったまま、頭の動きで返答する。今のは頭を左右に振ったから、否定の意だろう。ん? ちょっと待て、否定ということは凛さんは会長を信用していないということかっ!?


「ちょっと待ってくれ。凛さん、あなたは会長を信用していないのかっ!?」


「明日野、お前はちょっと静かにしてろ」


「はいすいません」


黙ります。


「私も凛と同じだ。初めて会ったようなやつをすぐには信用できない。…あんな風にな」


あんな風に。『あんな』とは多分だが、さっきまでここにいた佐伯達のことを言っているのだろうか。ただ言えるのは、今も机に頬杖をつく会長の目は、何か俺にいつも向けるものとはどこか違う。何だろう? 自問しても自答まで行けない。答えが出てこない。……もしくは、答えを出したくないのかもしれない。


「凛、あのプリントをくれないか?」


「…………」


俺が自問不自答していると、会長が突然左手を凛さんの方に差し出した。もちろん、いつものように右手は頬杖に。

会長に呼ばれた凛さんは、いつも大事そうに胸に抱えるように持っている3つのファイルの内1つから、素早い動きで紙を一枚取り出した。そして、それを会長デスクにすっと置いた。


「ん、ありがとう」


断言する。現段階でこの学校で会長に最も近い人物は梅生凛‐彼女だろう。今もそうだが、会長の『あのプリント』というなんとも適当な説明でもどのプリントか分かってしまうほど、凛さんは会長の事を知っている。流石小学校からずっと会長のそばに居ただけはある。しかし、いつか必ず、会長の隣という最高のポジションを俺は獲得してみせる。

俺はそう、もう何度目か分からない決意を胸の中に秘め、会長にプリントについて問いかける。


「会長、そのプリントは何ですか?」


「あぁこれか? これはアレだ。一昨日、タカテマに渡した水泳部員のリストだ」


会長はそう言って頬杖を解き、リストに目を走らせていく。

確かあのリストは、会長がタカテマ達に水泳部室の覗き真偽調査の話をする前に、会長に頼まれ俺が職員室まで出向き、水泳部顧問の伊藤先生に確認をしてコピーをしてきたものだ。何故いちいち確認なんてものを取らないといけないのか。それは生徒の個人情報をコピーする訳だ、流石にそれは生徒会だけで行動に移すのは難しい。だから、確認が必要になる。


「そのリストがどうかしたんですか?」


「んー、…なんだろうな?」


「…………」


ずっと水泳部員リストに目をやる会長に俺はクエスチョンマークを投げかけた。しかし、会長から返ってきたのはまたしてもクエスチョンマーク。それには、どうまた投げ返したらいいのか分からず、俺の口は閉じたまま開かない。


「ただ、あれだな」


「はい何でしょう?」


「このリストに載ってるのがすべてじゃない。それだけだ」


そうサラッと呟くように言った会長は、またコーヒーカップに手をかけた。


『すべてじゃない』『それだけだ』。

……? 会長の言っていることは、いつもよくわからない。数歩先を行った事を言うもんだから、いつも俺の頭の中はぐるぐるだ。だが、そんな会長が好きだ。

俺は、数歩先を行く会長に一歩でも近づきたくて、リストを手に取り、凝視する。




なるほど、わからない。




  *




「オレはフライドポテトを1つ」


「じゃあーボクはこの『こってりとろとろ煮込んで煮込んで煮込みまくったカレーライス』を1つぅー」


「俺はブレンドコーヒーをください」


「コーラを1つ」


「そんじゃあおれは、この『めちゃくちゃ激辛スパイシーハンバーグ』に『和食豚汁セット』を付けて、さらに『枝豆』と『とかげの唐揚げ』と『鳥ナンコツ』くださーい」


「カズっ、お前どんだけ食うんだよっ!!! てか、今のカズの注文で1つ変なのがあった気がするんだけど…」


九志羅駅から歩いて5分のところに、夕方近くになるとクジ高からの帰りの生徒でいつも賑やかになる、ここ九志羅町唯一のファミリーレストラン『Benny's』がある。なんか名前に物凄い違和感というか、どこかで聞いたことあるような気もするがそれはスルーで。

そんな若干パクり疑惑のあるファミレスにオレ達4人は風間を連れてやってきた。


「カっちゃんカっちゃんっ、さすがに『とかげの唐揚げ』はないんじゃなーい?」


「いやいやマコやんよ、この店の事だからあるんじゃね?」


この事は一部の人しか知らないが、このファミレス、メニューに無い物も材料があれば作ってくれるのだ。しかも、やたらと材料が豊富で正直何でも作れる。いやでも、そうだとしても流石に『とかげ』はないだろ………。ちょっと先輩に聞いてみようかな。


「あのすいません、キッチンに柏倉さんいますか?」


「あっ、はい。いますよー」


「ちょっと呼んできてもらってもいいですかね?」


「はい、少々お待ちくださーい」


オレは注文を聞いていた店員さんにそうお願いした。そして、店員さんはテテテとキッチンの方に歩いていった。

『柏倉さん』とは、オレ達の2個上のクジ高を卒業した先輩。ニックネームは『カシクラ』。オレ達が一年生の時に当時三年生だったカシクラ先輩に色々とお世話になったのだ。容姿はスラッとした高身長のごっつイケメン。さらにめちゃくちゃ料理が上手くて、なんていうか、こう、柚葉と違って『男ーっ!!!』みたいな感じで料理が上手い。だから、このファミレスでもキッチンを仕切っているらしい。今は確か威琉華町の大学に通いながら、ここのファミレスで夕方バイトしてるんだったかな。

いやまぁ、でも流石にカシクラ先輩でも『とかげの唐揚げ』は無理だろー…。どんだけ料理が上手くても材料が無ければどうしようもないからな。流石にとかげなんてストックされてないだろう……。



 ・


 ・


 ・


 ・


 ・



「あぁ『とかげの唐揚げ』な、あるよ」


「あるんすかっ!!??」


まさかのあるらしい。ホントになんでもあるんだな、このファミレスは…。それよりカシクラ先輩、茶髪に染めてさらにイケメンになってる。


「俺が今日の朝、大学に行く前に草むらで捕まえたとかげが3匹あるぞ」


「「「…え、えぇー………」」」


いいのそれっ!? そんなの店の商品として出しちゃっていいのっ!!??

真顔で言うカシクラ先輩にオレとマコとカズは、声をちょっと引き気味に漏らした。


「そんな心配そうな顔すんなってー、まかせろよ。一応、一回は作ってるからさ」


「カシクラカシクラー、一回作ったってことは、カっちゃんの他に誰か頼んできた人いるのぉー?」


マコはカシクラ先輩をいつも呼び捨てで呼んでいる。結構慕っていてみたいで、マコにとってはなんていうか兄貴みたいなもんなのかな。


「おぉいたぞ、何故だか知らんが下はスカートなのに上はジャージ姿、ボーイッシュな感じの多分クジ高の女の子だったかな」


『とかげの唐揚げ』を注文するなんて、変わったやつもいるもんだな。下はスカートで上はジャージ……。あぁー…、クジ高にそんなやつが一名いた…ような。


「まぁその話はいいや。それよりお前ら、今日は4人じゃないんだな。新メンバーか?」


カシクラ先輩は風間を見ながらそう言った。

風間の事は忘れていた……わけではない。覗き事件の詳しい話をしてから、風間はずっと頭を下げ、黙ったまま。注文の時に一瞬だけ喋ったくらいだ。『好きな人が盗撮されている』、そんな事実を知ったらこうなってしまうのは必然なのか。とにかく今は、『彼女』が来るまでそのままにしておこうとオレが勝手に胸の内でそう決めた。まぁでもそのままにしておこうと言ったって、多分だがカズとかマコが風間に話しかけると思う。この2人は良くも悪くも、元気のない人がいたら少しでも元気になってほしいと声をかけるのだ。


「こいつは風間隼っていって、今年入った一年生なんですよ」


「おぉそうかー、俺とは入れ違いか。柏倉亮介ってんだ、皆からは『カシクラ』って呼ばれてる。よろしくな」


「あっ、はい。風間隼です。よろしくお願いします」


風間は一度は頭を上げてカシクラ先輩を見るも、すぐにまたカクッと重そうな頭を下げた。多分今の風間の頭の中は、いろんな言葉が入り乱れて大分重いはずだ。それを綺麗にすることができるのは、今こちらに向かっているであろう『彼女』だけだ。


「んじゃまぁ、俺はキッチンに戻るわー。料理は少し増量しといてやるからな」


カシクラ先輩はそう言って、キッチンに戻っていった。

先輩は、オレ達が来るといつも色々とサービスをしてくれるのだ。このファミレスの店長にも何故だか知らんが許されているらしい。そういえば、このファミレスの店長見たことないな…。



「…ヴぁー」


背もたれにもたれ掛かり、天井のぉー………、えーっと何だっけ? あのクルクル回るデカい扇風機みたいなやつ。…まぁいいや、それを見ながら変な声を漏らす。


「……ヴぁー」


今の声はオレじゃない。顔を上に向けた状態で目線をデカい扇風機から隣に座っているカズに移すと、ヤツがオレと全く同じ事をしていた。


「おいカズ、真似すんなよー」


「んだよタクやん、別にいいだろー。何かこれやってみたら結構良い感じなんだよ」


良い感じってなんだ…。

カズはそう言って「ヴぁ~」と今度はビブラートまで付けてきやがった。


「おいだから真似すんなって。言っとくけど、これ特許取ってるからな。あんま真似すると罰金が発生するぞー」


「残念だったなタクやん、今のはビブラート付きだから罰金は無いぞ。ちなみにビブラートはおれが特許持ってるからな。タクやん、これやったら罰金1億円だからなー」


「ヴぁ~」


「はい1億えーん」


「ヴぁ~」


「はい2億えーん」


「ヴぁ~」


「はい3億えーん」


「…………」


「はい4億えーん」


「何で今の無言がカウントされるんだよっ」


「いやーそういう流れかなーと思って」


「……………」


「……………」


ヤバい、なんだろ…。無性に悲しくなってきた……。


「そういえばさぁー、なんで隼君ってトモちゃんの事好きになったのぉー?」


「…え? そ、それは…」


やはりマコは風間に話しかけた。話しかけられた風間はずっと下を向いていた顔を上げて、言葉を濁した。


「あっ、それおれも聞いてみたかったんだよねー」


カズもオレの真似をやめて、マコと風間の話に入っていった。テルはカシクラ先輩がキッチンに戻っていた辺りからずっと読書をしている。


「たまたま…」


風間は顔を少しずつ赤くしていきながら、口を開けた。


「…たまたま、見たんです」


「友美ちゃんの裸を?」


「ち、違いますよっ!!!」


カズのアホが炸裂しやがった。少しずつ赤くなっていた風間の顔も、今のカズのアホ発言には一瞬にして真っ赤になった。


「カっちゃんは黙っててぇ。ごめんね隼君、カっちゃんいっつもこんなんだからさぁー」


「そ、そうなんですか…」


あー軽蔑してるよ。カズのこと軽蔑してるよ。オレは正直、こういうカズのアホ言動には慣れた。幼少から一緒だと流石に慣れるか。


「………。僕陸上部に所属してるんですけど、部活が終わった後も残ってトレーニングしてるんです」


風間は一呼吸入れて、話し始めた。

脚が速ければ、それを生かして陸上部に入るってのは別に普通の話。まぁオレは部活には興味無かったからどこにも入らなかったけど。


「そのトレーニングで校舎周りをランニングしてる時に、プールの前を通ったんですよ。ふと『そういえばこの学校入学してから一度もプールに行ってないな』と思ったんで、興味本位で中に入ったんです。そこでたまたま見たのが水島先輩でした。水島先輩も僕と同じで残って練習してました」


そう話す風間の顔は、いつの間にかさっきまでの暗い顔とは違い、どこか嬉しそうだ。多分それは、オレ達に話をしながら、自分の頭の中でその場面を思い出しているからだろう。


「……泳いでる姿が、すごく綺麗で、…何度も見てるうちに……好きになったんです。水島先輩の事を」


顔を真っ赤にして話す風間にマコは「なるほどぉなるほどぉ」と連呼しながら、腕を組んで首を縦に振る。


『泳いでる姿がすごく綺麗』、風間が友美ちゃんを好きになった理由はこれだった。

人を好きになるのに理由は様々。顔とか性格とかほんのちょっとした仕草でも好きになってしまう事とかあると思う。中には理由なんて無いよって言う人もいるかもしれないが。


「実は先輩たちにお話したいことがあるんですけど、いいですか?」


「いぃよー、じゃんじゃんいぃよー、この高城数哉先輩に何でも言っちゃいなよー」


「おぉさすがカっちゃん先輩、心が広いですねぇー」


「そやろそやろ、やっぱり可愛い後輩の話はしっかり聞かんとなー」


風間に軽蔑されてからしょげてたカズだが、やっと復活したらしい。

「しっかり聞かないと」と言うカズだが、実際本当によく後輩の話もとい相談を聞いている。その後輩への面倒見の良さから、カズのことを結構慕ってる後輩は多い。ついには、「カズ先輩がいるから」とこの高校に今年入学してきた奴もいるらしい。


「風間、話をする前にちょっといいか?」


「あっ、はい。何ですか?」


読んでいた小説にしおりをはさみながら、テルは風間に問う。


「プールには何度か行ってるんだろ? その時、何か怪しいやつとかいなかったか?」


「え!? …何でその事を」


多分この風間の驚きは、「あのプールに犯人が!?」という驚きではなく、「何でプールに何度も行ってるのを知ってるんだ!?」といった驚き。…でも風間よ、さっき自分で何度も行ってるって言っちゃってるからね。


「…えーっと、…怪しい人はいなかったです」


「そうか」


「でも…」


「でも何だ?」


「僕がプールに行く時、いつも更衣室に人がいました」


「人…が?」


友美ちゃんは、部活が終わって皆が帰った後から自主トレを始めていると、昨日駅に送るまでにオレ達にそう話していた。つまり更衣室に人がいるのはおかしい。さらに一回や二回ではなく、『いつも』いたわけだ。怪しすぎる…。

テルを見る。テルもやはり気づいたらしくこちらを見ていた。マコを見る。マコも違和感があるのか「おかしいなぁー」と首を右に左にと傾げていた。カズを見る。さっきと同じようにデカい扇風機みたいなやつを見上げながら「ヴぁ~」とやっていた…。こいつアホだ…。


「風間ぁ、それは間違いないのか? 見間違いとかじゃなくて?」


アホのカズはほっといて、風間にオレは問う。


「間違いないです。更衣室の扉の半透明のガラス越しに人が動いているのが何度も見えましたから…。…もしかして、その人が犯人…ですか?」


「犯人とは確定していないが、怪しすぎる」


「うんうん、ボクもそう思うよテっちゃん。怪しいよねぇ~」


オレも怪しいと思う。マコが首を縦に振るのに合わせて、オレも首を縦に振る。みんな思ってることは一緒だ。カズはわからないが。


「ヴぁ~、ヴぁヴぁヴぁ~」


「通訳するねえ。今カっちゃんは『おれもみんなと同じだぜー』と言っております」


「何でわかるんだよ…」


未だ上を見上げダラッとした状態のカズの通訳を始めるマコ。

しょうがない、ちょっとカズの話を聞いてやるか。


「ヴぁ~ヴぁヴぁ…」


「『とりあえず今は…』と言っております」


「ヴぁヴぁ~、ヴぁ~ヴぁっ」


「『とかげの唐揚げ食べたーい』と言っております」


「全然関係ねーじゃねぇかっ」


しゃべり方はともかく、カズの話を少しでも聞いてやるかと思ったこの矢先。やっぱりカズはカズだった。良い意味でも悪い意味でも。ただ、風間が少し笑った顔をしたのは大きな成果だ。


「テル、どう思う?」


「そうだな、現段階では怪しいとしか言いようがないな。拓斗、ちょっと水泳部員のリストを出してくれないか?」


「あぁアレな、ちょっと待ってくれい」


えーと確か昨日風間がプールに入っていって追いかけるってなったときに制服のポケットに折り畳んで入れたはず。


「ん?」


ポケットに手を入れると何かに触れた。触った感じでわかるのは、ぐしゃぐしゃでカチカチで…。……あー、今思い出した。そういえば昨日、プールにダイブしたんだった。


「…すまんテル。そういえば昨日プールに落ち…じゃなくて、『カズに』落とされたときにリストも一緒に…。……こんな感じになってしまった」


オレは『カズに』の部分を本人を見ながら強調して言った後、固まって折り畳んだ状態から開けなくなった水泳部員リストをポケットから取り出して、テーブルの真ん中に置いた。


「…………」


「…………」


「…………」


「…ヴぁ~」


「…………」


テルもプールに落ちたのを忘れていたのか、変わり果てた水泳部員リストを見て無言になった。

店のエアコンに煽られてカサカサと音を鳴らすリスト。そして、カズの何度目かわからない鬱陶しいビブラートが無駄に響く。一瞬沈黙になった。


「あ、あの…、これは何ですか?」


「あぁこれか? これはあの…、あれだ。紙くずだ」


「ちょいちょいちょい、タっちゃん何言ってんのぉー。これは水泳部員全員の名前とクラスと出席番号が書かれたリストでしょー」


見たまんまのことを風間に言ったら、マコに普通に怒られてしまった。


「何に使ったんですか?」


「昨日プールに張り込んで、誰が部活終わって帰ったかをこのリストにレ点を付けて使っていたんだ」


「…なるほど。それでどうだったんですか?」


「『水島友美』の名前の横にはレ点は付かなかったかな」


マコにまた怒られるのもイヤなので、今度はちゃんと風間に説明した。


「つまりだ、プールには友美ちゃん以外誰もいなかったことになる」


テルは眼鏡をクロスで拭きながらそう言った。しかし、即座に否定してきたやつがいた。


「ちょっと待ってください、それはおかしいですよ」


風間だ。


「1人いるじゃないですかっ。いないとおかしい人が…」


「1人? おかしい? …何が?」


1人ってなんだ? おかしいってなんだ? あのプールにはあの時、友美ちゃんしかいなかったぞ。


「だから、あの場に、水島先輩以外みんな帰ったあのプールに、もう1人いないとおかしいじゃないですかっ」


「待て風間っ、お前ホントに言ってるのか?」


声を荒げたのは珍しくテルだった。眼鏡を手に持ったまま掛け忘れている。


「ちょっとちょっとぉー、2人だけで話進めないでよぉー」


「そうだそうだっ、おれはもう何のことだか全くなんですよー」


オレもわからない。友美ちゃん以外帰ったって言ってるのに、風間はもう1人いると言う。でも、実際オレ達がプールに突入した時その場にいたのは、オレ達4人と風間、プールで練習に励む友美ちゃんだけ。他には誰もいなかった。たとえ、風間を追いかけるのに夢中だったとしても、いたら気づくはずだ。


「俺に見落としがあった。すまない。俺はリストに執着しすぎて周りを見れていなかった。確かにあの場にもう1人いないとおかしい。だが、そうなると、この事件さらに深刻になってくる」


さらに深刻に…。昨日深刻になったばかりじゃないか。さらにってなんだよ。あーもう、わかんねーよっ。


「あ~~もうっ!!! 何なの何なの何なのさっ、そんな溜めないでズバッと言っちゃえよテルやんっ!!! ズバッとぉー」


しびれを切らしたカズがテルに叫んだ。掛け忘れていたのか解らないが、ずっと手に持っていた眼鏡をゆっくりと掛け「わかった」とテルが口を開いたその時。


「あっトモちゃんが来たよぉー。あれぇ? なんかもう1人いるぅ」


マコがファミレスの玄関に向かって大きく手を振りながらそう言った。テル以外のみんなの視線が一斉に玄関へ。それと同時にテルの声が耳に入ってきた。



「1人、いないとおかしい人物は…、水泳部顧問…、伊藤先生だ」



目を見開く。耳を疑う。

それは何故か?


ファミレスに入ってきた友美ちゃんの隣に、その伊藤先生がいたからだ。




どうなってやがるんだよ。






どうだったでしょうか?


正直一番長いわりに一番内容がわかりにくいです。あっ、わかりにくいのはいつもでした…。

今回は新キャラクター、柏倉亮介を出してみました。この名字の柏倉は『toe』というインストバンドのドラムさんの名字から頂きました。独特の空気を醸し出すめっちゃカッコいいバンドです。宜しければ是非ご視聴をっ!!!


次回の第二十話は、年内にあげるつもりです。頑張って書きます。


また次回お会いしましょう。



ではー




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