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嘘つきはなんちゃらの始まり。だからと言って嘘もなんちゃらだからなー。……ところで、なんちゃらって何?


どもども。

最近まで『専』という漢字の右上に点があると思っていたアホ作者です。


なんやかんやでこの小説も第十七話でございます。この『覗き盗撮事件』ですが、今回のも含め、後3・4話はあるのではないかと思われます。


今回のお話はヘドバン少年を捕まえましょーかね、といった内容です。それと同時にヘドバン少年の正体も明かされます。と言っても全てではないですが…。


今回のお話を三言で言うと、突っ込みます、飛び跳ねます、落ちます。



では、どぞー




第十七話




「風間 隼 (かざま しゅん)。1年B組。体力測定での50m走記録、5.87秒」


「………は?」


お昼休み。いつものように、保健室の一角のベッドを陣取り弁当を食べていると、1人もくもくと食べていたテルが突然意味のわからないことをしゃべり始めた。それには、紙パックのイチゴ牛乳を飲もうとしたオレの手は止まり、ワンテンポ遅れて聞き返した。


「風間隼。1年B組。体力そ」


「待て待て待てっ、それは聞こえてんだよ。何が言いたいかだけ、言ってくれよ」


絶対こいつ(わざ)とだ。相変わらずあまり変化のない表情のテル。なんとなく笑ってる気がする。勘で。


「すまぬ、ジャパニーズジョークだ。何が言いたいかっていうと、この学校で今最速の男はこの風間隼というやつだ」


「…へ、へぇー………、で?」


「覗き犯はコイツの可能性がある」


「…はっ!!?? おぉうあぶねっ」


突然のテルの爆弾発言に左手に持っていたイチゴ牛乳を危うく落とすところだった。こいつはいっつも突然すぎる。何かしら前置きが欲しいくらいだ。まぁ直接本人に言ったとしても、直るとは思わないが。


「覗き犯って…、お前昨日何もわからないって言ってたじゃん。…家帰った後にわかったのか?」


確か昨日、テルと言い争いをする前に事件について何かわかったか聞いたとき、「いや全く」とテルは言っていたはずだ。嘘、だったのか?


「ごめん、俺は嘘をついていた。昨日の時点でだいたいこのことはわかってた」


「そっか…」


嘘。嘘もなんちゃら。


「…もし昨日、風間隼のことを話したらお前ら絶対捕まえるって言うだろ? だから嘘をついた。生徒会長に報告するつもりでもあった…」


少しうつむき加減に喋るテルの顔がチラッと見えた。ばつが悪そうな顔をしていた。

間違ってない。テルの言っていることは間違ってない。そんな顔、する必要はないはずだ。


「いいってことよっ、そんな顔すんなよ」


オレはそうテルに笑いかけるように言った。そして、手に持っていたいちご牛乳をズズズとストローで吸って、話の軸を元に戻した。


「…そんで? その風間隼が犯人だと?」


「そうだ、だが確定じゃない。確かに犯人の可能性は十分にあるが、まだ仮定の段階だ。だから、今日本人に話を聞きに行こう」


「話をねぇー…、絶対逃げるぞアイツ。自慢の足で」


「…まぁ確かに、ありえるな」


「だったら、捕まえてから話を聞こうぜ」


「いやでも、それは」


「その話、乗ったぁーっ!!!!」


テルの言葉を遮るように、タイミング良く保健室の扉を勢いよく開け現れたのは、今日一時間目の授業中に遅刻してきたカズ。右手には焼きそばパンとクリームパン、左手には紙パックの飲むヨーグルトが握られている。

カズの両親は共働きで、たまに朝早くから出勤でそういう日は弁当は作らないのだ。その場合は今日みたいに購買で昼飯を買っている。


カズが1時間目や2時間目の途中で遅刻してくるなんてのは、全くもって珍しい光景じゃない。でも今回は珍しい事に、


「ボクも乗ったぁーっ!!!」


マコも遅刻してきたのだ。


カズの後ろからひょいと現れたマコの手にも今日の昼飯だろう、苺クリームパンと紙パックのオレンジジュースが握られていた。


一年に一回あるかないかぐらい珍しいマコの遅刻だが、授業と授業の間の休憩時間に理由を聞いてみると「眠れなかったぁ~」と目の下に少し隈を作り、欠伸をしながら机に突っ伏してしまった。それでも授業の始まりの鐘が鳴ると、バッと頭を上げ、板書された事をせっせとノートに写していた。


とりあえずだ、『風間隼捕獲作戦』、多数決で可決。


「決まりだな」


目線をカズとマコ2人から再びテルに戻すと、意外にもテルの顔は笑っていた。もっとこう、無表情かと思っていたんだが。


「そうだな、その答えを解答用紙に書くとするか」


オレ達4人の答えは一緒。この答えが合っていても外れていても、行きつく場所は一緒だ。


「おーい、カズとマコ。早くこっちこいよっ、昼飯食べながら作戦考えようぜっ」


「ほいさー今行くぜっ」


「タッちゃん、ちょっと弁当のおかずちょーだいっ」


4人全員が集合したところで、ベッドのカーテンを閉めた。よしっ、これが即席会議室。正直、外部に情報だだ漏れだけど…。




作戦会議中。




  *




キーンコーンカーンコーン



6時間目の授業の始まりの鐘が、学校中に響きわたり、全校生徒にそれを伝える。体育の授業の生徒はグラウンドや体育館に移動し、理科の実験をする生徒は理科室に集まり、情報の授業の生徒はパソコン室でパソコンに向かい合い、それ以外の生徒のほとんどは各自の教室で先生達の退屈な授業の始まりに溜め息。

そんな中、オレ達4人はある教室の前にいた。


「この教室だよな?」


「あぁそうだ」


1年B組。風間隼が在籍する教室。その教室の前にオレ達は腰を低くし声を潜めて、何とも言えない緊迫感の中、話し合っていた。


「テルやんやー、なんで6時間目にしたの? 別に5時間目でもよかったのにー」


「それがな、この1年B組の今日の5時間目の授業が日程で国語になってるんだよ」


「…あっ、まさか……あの人ですかい?」


「そのまさかだ」


昼休みに保健室で作戦を考えてその勢いで5時間目に1年B組に突っ込むつもりでオレはいたのだが、参謀家テルは何故か作戦決行を6時間目の始まりにしたのだ。しかし今、『国語』という教科がテルの話に出てきて納得した。その『国語』の担当の教師は多分…。


「石垣だ」


やっぱりな。テルから発せられたその名字はオレが頭ん中で思っているのと同じ人物だった。

あの全身筋肉ムキムキプロテイン野郎か。


「石垣かぁ~、だったら6時間目にして正解ですな。また捕まるのいやだしねー」


カズの言う通りまた捕まるのはごめんだ。過去、ヤツに何度捕まったかわからない。クジ高に入学してすぐ、イタズラばかりやっていたオレ達は当たり前だが、生徒指導の石垣に目をつけられてしまっていた。この前の『教頭カツラ強奪作戦』の時もヤツに捕まったんだよな。そして、そのまま生徒会室に連行。


「…いつかアイツにも何かするか」


「タっちゃんタっちゃんっ、何かって何するのぉ?」


フッと出てきたオレの提案に、朝遅刻してきて髪を整える時間がなかったのか、ピョンと一つ可愛らしくはねた寝癖がついたマコが食い付いてきた。


「……えーっと、例えばアイツの好きなプロテインをプレゼントするとか。……ただし、中身を何か違う薬と入れ替えて」


「あはははっ、それいいねぇ~。やろやろぉっ」


結構乗り気な寝癖マコ。ここまで乗り気なのはこれまた珍しい。マコはいつも「えぇ~やめた方がいいよぉ~」と否定的なのだが、今回は否定も何もなく最初っから乗っかっている。


「珍しいな。やめよーとか言わないのか?」


「言わないよ、タっちゃん。何故ならボクは、………石ガッキーが嫌いだからね」


ストレーーーーーートっ!!!


「……そ、…そうですかマコさん」


「そうなのですよぉタクさん」


綺麗すぎるくらい全く曲がりのない真っ直ぐな一言に、言葉を引きずる。誰にでも笑顔で優しいマコが、こんだけ人を嫌うっていうのはなかなか無い。rare。


「よし、みんな聞いてくれ」


石垣話にひと段落着いたところで、テルの声が耳に入った。オレとカズとマコの視線がテルに集まる。テルはオレ達3人を一度見渡し、そしてまた話始めた。


「…この『覗き盗撮事件』は俺達だけで解決するって決めたんだ。だったら、もうやるしかない」


テルの決意を感じる。


「おうよー、やるしかないぜー」


カズの決意を感じる。


「トモちゃんを救うぞぉー」


マコの決意を感じる。


オレの決意はどうだ…?

そんなのいちいち自問しなくたって答えはもうすでに出てる。大丈夫だ。やれる。この4人なら…。


「よし、行くか」


オレの声を合図にテルとカズは教室の後ろ側の扉に、オレとマコは前の扉に移動。そして、待機。

作戦はこうだ。テルの合図でオレとカズが教室に突っ込む。テルとマコは教室の出入り口に待機して、もし風間がオレとカズを振り切って逃走しようとした場合、逃げ道を塞いで取り押さえる。そこをすかさず挟み撃ち、といった感じだ。窓からの逃走はさすがにないだろう。なんせここは3階だからな。


「ぅしっ」


一つ気合いを入れ、視線をテルに向ける。テルは全員の視線を確認し、指を3本ぴんと伸ばしてそれを全員が見える位置に持ってきた。カウントの始まりだ。



3…



2…



1…



「行けっ」


『風間隼捕獲作戦』開始っ!!!



「たのもぉーーっ!!!!」


テルの合図と共にオレとカズは扉を思いっきり開け、教室に侵入。扉の勢いよく開く音といちいち(やかま)しいカズの声に教室内の生徒、そして、一生懸命黒板に授業内容を板書していた先生の驚きと困惑の視線が同時にオレ達に向いた。


「……なななんだね、ききき君たちはぁぁっ!!!」


ちょっとした沈黙からやっと状況を読み込めたのか、白いチョークから手を離し、粉まみれの指先をオレ達の方に向け、先生は有りがちなセリフを一言絶叫。それを合図に黙ってポカーンとしていた1年B組の生徒の面々がざわざわとし始めた。


「はいはーい、先生は黙っててください。用はこの教室の可愛い後輩達にありますから」


教卓から先生をほいほいっと追い出し、今度はオレが教卓に立ち、1年B組を見渡した。

今思い出したが、風間隼の顔をあんまり覚えていない。輪郭と体格ぐらいしか…。ここは聞くしかないか。


「こん中に風間隼っていうやついるかー?」


オレの質問に教室中はさらにざわざわとうるさくなり、そして皆の視線は一つへ…。教室の窓際の後ろから2番目の席へ視線は集まった。

オレもその視線を辿って見ると、見たことあるような輪郭と体格のやつが一人。


「カズっ!!!」


「おうよっ!!!」


オレの声にカズは風間隼に向かって走り出した。…っておいおいっ、何やってんだアイツはっ!!! 走り出したと思ったら、可愛い後輩への格好付けのためか、机の上を乗って颯爽(さっそう)と走って行くカズ。全然かっこよくもないし、ものすごい迷惑だあのアホっ!!!!!

机に乗られた女子生徒達は「きゃっ」と小さく悲鳴を上げ、男子生徒達は「なんだこいつ」といった視線をカズに向ける。

男子生徒達よ…、わかるよ、その気持ち。オレも「なんだこの金髪」って思ってるからね。「どうしようもないアホだこいつ」って思ってるからね。


ぴょんぴょんと跳ねるように机の上を走り、ついに風間隼の机に到着したカズは、一度風間の顔に眼を飛ばしたあと、そいつの肩に手を伸ばした。が、


「はい捕かくぉっ、ぃだっ!!!」


自分に向かって伸ばされた手を風間はスッと体を退かしかわした。突然かわされバランスを崩したカズは、そのまま前へ倒れていき、椅子の背もたれの上の部分にデコを強打。もの凄い痛がっているカズだが、今はほっといておこう。それよりもアイツはなんなんだ。風間の全く無駄の無い動きに目が見開く。


「あんのバカっ」


デコを押さえ「いでぇーっ、じんじんくるー」と周りから何とも言えない哀れな視線を集めているカズを一瞥し、オレは風間に向かって走り出した。オレが走り出すと風間もこの状況がやっと分かってきたのか、教室の後ろの扉の方に走り始めた。大丈夫だ、そこにはテルがいる。


「テル行ったぞっ」


「わかってる」


「…ちっ」


一度は走り出すも、逃げ場がないことに気が付いたか、諦めるように一つ舌打ちをして風間は自慢の足を止めた。「やっと観念したか」そう呟きながらオレは、下を俯く風間に近づいていく。


「…ん?」


近づくにつれて、遠くからでは見えなかった口元が見えてきた。そして気付いた。…あいつ、…笑ってやがる。


「…ふぅー……」


なんだ? 何をやろうとしてる? 一つ深呼吸して風間は顔を上げた。その顔は何かをやろうとしているような顔だった。

やっと見えたそいつの目は、マコほどではないが丸くて可愛らしい。全体的に童顔。体はガッチリしたタイプではない。いわゆる草食系男子というやつか?


「っ!?」


オレが風間を勝手に分析していると、その本人が突然窓側に向かって走り始めた。その『突然』がオレの予想を上回るスピードで、オレはただただ目を見開くしかない。そしてそのままのスピードで、


「とうっ」


空気の入れ替えのために開けていたのかはわからない。全開に開けられていた窓から風間はどこかのアクションスターのように飛び下りた。この……3階の教室から…。


この教室にいる全ての人が自分の目を見開き疑った。それと同時に体が硬直し、声も出ない。だってそんな3階から飛び下りたら……、足なんて折れるんじゃないのか…? しかし、下から風間の悲痛悲鳴なんかは全く聞こえない。


「…いててー、……あれみんなどうしたん、そんな固まってー?」


それとは逆にあまりのデコの痛さにずっとうずくまって悲鳴を上げていたカズが、やっと痛みが引いてきたデコをさすりながら顔を上げた、そして周りの何ともいえない緊迫した空気とは裏腹に呑気な声が教室内に無駄に響いた。それを合図に、


「きゃーっ!!!」


「あいつ大丈夫か!?」


「自殺か!!??」


教室内が一瞬にして朝の通勤ラッシュのように騒々しく、そして窓際に1年B組の面々が一斉に集まって行った。その際、床に座ってデコをさすっていたカズがもみくちゃに踏まれて、半泣き状態になっていたがそれは見なかった事ということでスルー。生徒の中には別に興味が無く、席にずっと座っているヤツもいる。

ある女子生徒は目の前で見た飛び降りに悲鳴を上げ、ある男子生徒は風間を気遣い、ある気持ち悪そうな生徒は『自殺』に反応。一人一人考える事が違う。ふとそう思った。


「あれ!? 風間いないぞ!?」


「ホントだ、…いない。あいつ大丈夫だったのか!?」


窓から身を乗り出して周りを見ていた男子生徒2人の会話が聞こえてきた。どうやら風間はいないらしい。「足の骨が折れてあまりの痛さにうずくまっている」とそう不吉ながらも少し願っていたが、どうやら天高々とオレ達人間を偉そうに見下す神には届かなかったみたいだ。


「はぁ…」


ため息が出てきた。


つまりあれだね。




また逃げられたーっ!!!!!






いやいや。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


ということで…、

逃げられましたっ!!!ww


いやぁ最初は教室突っ込んだ時点で捕まえる予定だったのですが…。


今回のお話は風間がどんだけ運動神経いいねんというのがわかる内容になりました。コイツは個人的にこの『覗き盗撮事件』が終わったあともちょくちょく出そうかなと思ってます。


では、今回の後書きは『どうでもいい裏設定』を紹介して終わりにしたいと思います。


今回の話で、拓斗達が教室に突っ込んだ時に授業をしていた先生の名前は、洒藤(さかふじ) 碓志(うすし)です。



では、またー




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