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4人5脚。前も後ろも右も左も、行くところはいつも一緒。


どもども。

最近、授業中にジャンプを机の下で読んでいたら、近づいてきた先生に気づかず没収されたメダショウです。

お久しぶりです。




なんやかんやで第十六話目になります。

今回の話は濡れます。登ります。怒ります。いろいろです。


では、



どぞー




第十六話




『深刻な方向に…』


テルが重々しくも口から発したその言葉は、オレの体を硬直させるだけじゃなく、周りの空気までもを容赦なく硬直させた。

がちっと固まったその空気は、今度は重力に従うようにオレの身体を地面に押しつける。



重い。


空気が重いとはこのことをいうのか。



今オレの手のひらに置かれた物によって、静まり返ったこの女子更衣室。それとは逆にオレの心の中では、沸々とわき上がってくるものがあった。


なんだろ?


始めこれを見つけたとき、怒りなんかが来る前に先に『困惑』が頭の中を(めぐ)った。


え?

ナニコレ?

どゆこと?


そして、これが何かを頭でハッキリしてくると『困惑』は薄れていき、ついに怒りが前へ出てきた。しかし、ここで怒りを前に出したって何も変わらないし何も起こらない。だから、怒りを全力で内側へ戻すことにした。自分なりの大人。


そんな他人にはどうでもいいことを頭で考えながら、おれはとりあえず、手のひらをひっくり返した。

落下していく物体X。

それを目で追い、地面に落下した瞬間、



「ふんっ!!!」



踏み潰した。



「た、拓斗っ!!! なにしてんだっ!!!」


「…タっちゃん………」


オレの行動にテルは声を張り上げ、マコは目を見開き声を漏らしただけ。友美ちゃんは、………泣きそうだった…。


オレの頭ん中、心ん中、そして身体全体が、怒ってる。そんなの怒りを内側に戻すなんて無理に決まってんじゃん。『自分なりの大人』なんてそんな地味にカッコいい事サラッと言ってる場合じゃない。


「拓斗っ!!! お前自分が何踏んだか、わかってんのか!?」


「わーてるよ、…カメラだろ?」


突然のオレの行動に少しお怒り気味のテルに、返事は素っ気なく返した。


オレが見つけた物体Xは、手のひらにちょこんと乗るサイズで黒いボディに一枚の小さなレンズ。それは紛れもなく、カメラ。そして、流れ着く先は盗撮。


盗み撮る。


つまり、友美ちゃんは着替えを…。


「はぁー……とりあえず拓斗、そこから足どけろ」


「ほいよ」


テルの言われた通り足をどけると、ぺしゃんこになったカメラが姿を現した。


「うわぁー……、タっちゃんやっぱり脚力すごいねぇー」


「ありがとマコ」


「誉めてる場合かアホ」


「あいたっ」


テルがつまみ上げたぺしゃんこカメラを見たマコは、何か知らんが誉めてくれた。そんなマコにテルがすかさずカメラを持っていない逆の手でマコの頭にチョップ。もちろん、軽くだが。


「とにかく!!! この覗き事件だが、……ややこしい事になってきた」


「というと?」


「今日は帰ろう」


「…はぃ?」


おいおい。話が噛み合ってないぞ、テルや。


オレの声はテルの耳に届いているのか、それか(わざ)とスルーしているのか定かではないが、テルは1人更衣室からささっと出ていってしまった。


「おいテルっ」


「テっちゃん待ってぇー」


マコもテルの後ろをついていき、更衣室から出て行った。


「………」


「………」


「………」


いきなり2人きりになると何を話していいかわからなくなるだろーが。今思えば、なんかこう、女の子と2人きりになるのってこれが初めてかもしれない。柚葉抜きで。


「…あーえーっと、…ごめんな、アイツさぁたまに周りに何も説明せずに一人でいきなり行動したりするんだよ」


とりあえず、テルの事を謝っておいた。


「…………」


「…友美ちゃん?」


「…………」


「…だ、大丈夫?」


な、訳がない。

自分で聞いておいて思った。

大丈夫な訳がない。着替えを覗きされていると思ったら、今度は盗撮。全く笑えない。


「…え、えーっと……とりあえず友美ちゃん、制服に着替えてよ。外で待ってるからさ」


今日は友美ちゃんを駅まで送るってことになっている。流石に水着のままでは帰れないのでオレは友美ちゃんに着替えを促しながら更衣室から出ようと歩きだした。が、


「ま、待ってくださいっ///」


突然、友美ちゃんが後ろから抱きついてきたことによって、オレの足はピタッと止まった。それと同時に心臓の鼓動が急加速。


「どどどどどどうしししたたの?」


やべーっ!!!

舌完全に回ってねぇーよ!!!


突然の出来事にオレの舌は、いや…舌だけじゃなく頭もパニクってる。


「…あの……その………///」


「…う、うん…何?」


いや…。

え? なんだ?

なんだこれ?

この感じ…。

いやそれよりっ、背中に何か柔らかい物が当たってるんですけど友美さんっ!!??


「…えーと……そのぉ………」


「…うん」


いやいやいや…。

マジでなんだよこれっ!!??

友美ちゃんの声がものすごい色っぽいんですけどっ!!!


「…だからそのぉ……一緒に……いてください…」


その声が、その言葉がオレの耳に入ってきた瞬間、「あっ」と思った。


そうだ。

なに一人で舞い上がってんだよオレ。

この更衣室でカメラが見つかったんだ。しかも、完全に盗撮に特化したやつ。

怖いはずだ。

出来るだけ、一人で着替えなんてしたくないよなそりゃ…。


オレの頭がこのいきなりのイベントから冷静さを取り戻していくにつれてわかったのが、背中に張り付く友美ちゃんの身体は(わず)かだが震えていた。そして、オレの体の前へ回された手も…。


「…わかった。じゃあいる」


「…はい」


そう弱々しく返事をした友美ちゃんは、オレのひろーい背中(自称)から離れて自分のロッカーに向かった。ロッカーを開け、着替える制服を取り出したところで友美ちゃんの動きがピタリと止まった。


「……あ、あのぉ///」


「ん? 何?」


「……着替えたいんで、後ろ向いててもらえますか?///」


「あぁーごめんっ!!!」


やばいやばいっ。

ずっと友美ちゃん見てた。


オレは友美ちゃんに言われた通り、後ろをクルッと向いた。


「見ないでくださいよっ」


「ミナイデスミナイデス」


何ですか?

これはアレですか?

実は見てくださいっていうフリですか?


「なんか片言になってますけど…」


「キノセイデス」


「…本当ですか?」


そう疑いながらも結局友美ちゃんは着替え始めた。


水着を脱ぐ音が聞こえる。

今考えれば、水着の下は裸じゃないかっ!!!


「んっ」


んってなんだ?

あぁもしかして、あの大きな胸がやっぱり水着に引っかかるのかな?

でも、あれだよ。そんな色っぽい声は出さないでください。


「んしょっ」


うわぁ…。絶対今裸だよ。水着が脱げたような音したもん。あぁやばい…。


後ろを振り向く勇気を下さい。


そんな事を頭ん中で考えているうちに、結局友美ちゃんは制服にサラッと着替えてしまった。



はぁ…。




  *




「「ぶぅえっくしょん!!!」」


オレとカズのくしゃみが同時に(ほとばし)る。



お着替えシーンというまさかのイベントに出会したオレは、いろいろな葛藤がありながらも『紳士的』にその場を凌いだ。のはよかったのだが、友美ちゃんが着替えた後更衣室から一緒に出ると突然カズが体当たりしてきた。そしてまたプールにどぼーん。落とした理由はまぁなんていうか友美ちゃんのお着替えが何やらだそうだ。

そして今、制服に着替えた友美ちゃんを駅まで送り、我が家に向かっているところだ。



「2人とも明日は風邪じゃない?」


「あぁそうだなマコ。こりゃ風邪だわ、どっかのアホがプールに二回も落としてくれたからな」


「うっせーやいっ!!! それはタクやんが悪いんだろっ。友美ちゃんのお着替え見たからっ」


「見てねーつってんだろっ!!! 」


「嘘だねっ!!!」


「嘘じゃねーよっ!!!」


「はいはいはいはい。近所迷惑だ、静かにしろ」


オレとカズが喧嘩勃発しかけたところで、テルが華麗に真ん中に入り、仲裁した。


「ぶぅえっくしょんっ!!! ……んで? 友美ちゃん下着何色だった?」


「しつけーよっ!!!」


「いだっ!!!」


あまりにもしつこかったのでドロップキックをかましておきました。


「カっちゃんってほんとしつこいよね」


「マコやんがブラジャー見してくれるなら、おれもう何もしません」


「ホントかそれ? マコっ、ちょっとブラジャー見せてやれ」


「あ、うん、わかった。まずこのブレザー脱ぎでー、そんでネクタイ外してー、さらにワイシャツのボタン外しってちょっと待ったぁーー!!! ボク、ブラジャーなんて着けてないってぇ!!!」


おぉ、初めてマコのノリツッコミを見た。


ノリツッコミをしたのが恥ずかしかったのか、マコの頬が少し赤くなっている。

それにちょっと萌えた…。


「ということだ、残念だったなカズ」


「……おれは諦めない」


「いやいやいや、諦めないとかじゃなくて根本的にマコはブラジャーつけてないから」


すごいカッコいいセリフを言っているのは間違いないのだが、頭ん中がピンク色じゃ全部台無しだわこりゃ。


「うっせーっ!!! マコやんが好きなのっ!!! 好きで好きでしょうがないのっ!!!」


でたよ。でましたよ。また告白ですよこれ。毎度毎度、ホントにこいつは…。『好きな人にフられてもまたアタックする』、こういうところは尊敬するよ。でもまぁこれはまたフられ


「………考えとくぅ…」


なかった…?。


「はいぃぃぃっ!!??」


「なんやてぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!!!!!?????」


小さくてハッキリは聞こえなかったけど、今マコは『考えとく』って言ったか!?


あまりの驚きに近所迷惑とかそんなの気にせず叫んでしまった。告白した本人が一番叫んでるし、なにやら絶叫しながら踊り始めた。


「……え、えーっと、…だから、………考えとく…って……」


「うおぉぉぉぉっ!!!」


「いや大丈夫大丈夫、それは耳に届いてるって。…マコ本気で言ってんのか?」


「……えーと、…うん…」


「うおぉぉぉぉぉっ!!!!」


「よーく考えろ、カズは男、マコも男。わかるか? 同性なんだぞ」


「さすがにわかるよ、それくらい。でもさぁ、なんかいっつもすぐ『ごめんなさい』って言ってるから、ちょっと変えようかなと思って」


「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」


「うっせぇよお前はっ!!!! ……いやでもさ、あんま期待させないほうがいいと思うぞ。見てみろあいつ、変な踊りしてると思ったら電柱に登り始めたぞ」


先ほどから「うおぉぉぉっ」と叫びながら気持ち悪い踊りをしていたカズは、今度は電柱に登り始めやがった。

それより、さっきから一言もしゃべらず黙っているテルが気になる。何かヘドバン少年について、盗撮についてわかったのだろうか。


「おぉーカっちゃんってすごいよねー」


「すごいっていうか、ただのアホだろ」


「そんなことないよ。カっちゃんは、…すごいよ……」


電柱の天辺ちょっと手前まで登って雄叫びをあげるキングコング(カズ)を見ながら、マコは言った。

マコはカズのことを結構信頼してる。それはいつも見てればわかる。


「…ほんと仲いいよな、お前ら2人」


「え? そーかなぁー?」


「オレは思うぞ。…なんていうか、付き合っても付き合わなくても何も変わんないかもな」


『この小説をBL小説にしないでくれ』と言いたいが、なんだかんだで満更でもないマコの顔を見たら何も言えない。


「変わると思うよ。…例えば、カっちゃんがものすごいベタベタしてくるとかぁー」


「いつもの事じゃん」


「あと、ボクの部屋に頻繁に来るようになるでしょー」


「いつもの事じゃん」


「それに毎日来るかもしんないじゃん」


「ほぼいつもの事じゃん」


「……Hな事してくるかもしんないよぉ」


「はぁー…いつもの事ばっかじゃんかよ…」


結論。

なんも変わらん。


「わかんないよ、タっちゃんとテっちゃんの前でチュウするかもしんないよ」


「別にそこまで変わ」


「ボクも同意で」


「大分変わったなおい」


今までカズが一方的にマコにしかけることは多いが、マコも同意はなかなかの変化だ。


『完全にビーとエルの物語になってきたぞおいっ!!!!』なんてのは、流石に言えない。

でも、よくよく考えればマコってものすごい可愛いから別に男とカウントしなくて女でもOKなんじゃないか?


「しかもそのままエッチするかも…///」


「マジで勘弁してくれ」


「えへへーっ、ジョーダンですよっ。それにボク、『考えとく』とは言ったけど結局フるよ」


「まぁそれはわかってる。言い方を変えるだけだろ?」


さっきマコは、「いっつもすぐ『ごめんなさい』って言ってるから、ちょっと変えようかなと思って」と言っていた。つまりは、ただ言い方を変えるだけ。最終地点の『フる』というのは変わってないわけだ。


「そうそう、そうなのですよぉー」


「なかなか残酷なことするな、マコって」


「ありがとぉー」


「誉めてないけどな」


脳天気に「あははぁー」と笑うマコの横顔を見る。

なかなかこいつも小悪魔だな。またフられたら、カズ落ち込むだろうな。まぁすぐ復活すると思うけど。


「おーいカズー、いいかげん降りてこいよー。帰ろーぜーっ」


マコからいまだに電柱に登ってキングコングのマネをしているカズに視線を移して、声をかけるが全く聞こえてないみたいだ。


「ったく、あいつ置いて帰るか」


「えぇー流石にそれは可哀相だってぇー」


「まぁ…確かにな」


今日1日を思い出せば、猫耳はつけさせられるわ、女子更衣室に1人だけ入れさせてもらえなかったわで、結構辛い1日を送っていたカズ。さらに今、カズを置いて帰ろうとしている。流石のオレもほんのちょっとだが、可哀相に思えてきた。


「しゃーねぇーなぁ、待っといてやるか」


「おぉ、イケメンですなぁ拓斗さん」


「いえいえそれほどでも。誠さんの方がイケメンですよ」


「いやいやそんなことは。拓斗さんにはかないませんよぉ」


「またまたぁ、謙遜しちゃってー」


これはなんのやりとりだ。

誰かツッコんでくれないと止め時がわからないじゃないか。

なぁそこの誰かさん?


「ツッコんでくれ」とテルに視線を向けるが、まだ何かを考えてやがる。どんだけ悩んどんねや。まず、アイツは何について考えてんだ。…まさかアレか、…アレですか!? 「はぁ、今日告白されたんだよな。どうやって柔らかくフればいいんだ?」的なアレですか!? このやろーっ!!! お前なぁ、モテないやつらの気持ちを考えろーっ!!! …なんていう冗談は置いといて、と。


「テルよぉー」


「…ん? あぁ拓斗、どうした?」


「お前さっきから何ずっと考えてんだよ」


「いやまぁ、『覗き盗撮事件』についてちょっとな」


テルの口から出てきた事件名に『盗撮』という最悪な2文字が追加されていた。

今日、更衣室の調査をしなかったら……、友美ちゃんはずっと着替えを盗撮されていただろう。そう思うと、更衣室の調査を行うことになったキッカケのカズに少しだけ感謝だな。まぁそのキッカケが、最悪だったが。


「何かわかったか?」


「いや全く」


「……なんじゃそりゃ」


全く間髪入れず、真顔でサラッと言い放ったテルに少し呆れ、声を漏らした。しかし、それはテルなら何かわかると勝手に期待していたオレが悪いようなものだ。


オレも何か考えないといけない。テルにいつも頼ってないで。


「ただ……深刻…にはなってる」


「……しん…こく」


テルの発した『深刻』という単語が、やはり頭から離れていない。更衣室辺りからずっとだ。名の通り、頭に深く刻まれたみたいだ。


「はっきり言うと、この事件はもう深くまで入らない方がいい。生徒会長とか教師に話して、解決した方が」


「ふざけんなっ」


テルが何を言おうとしていたか、頭でわかった途端、喉の奥から普段出ないような声が勝手に出てきた。でも、それは出てきて正解だった。

テルの言いたいことはわかる、それに何一つ間違ってない。覗きをしようとしたヘドバン少年が出てきた時点で、これはもう生徒会長か教師かに報告するのが良いだろう。しかも、覗きの次は盗撮と来た。確かに今オレ達が出来ることは生徒会長か教師に報告することかもしれない。……でも、それでいいのか?


「…今更後ろに下がるなんて無理だろっ。無理に決まってんだろっ。オレ達はもう後戻り出来ないくらい、この事件に頭突っ込んでんだっ。深くまで入らない方がいい? 何言ってんだよっ。もうオレ達は奥深くまで入り込んでんだっ。だったら、答えは一つ。前に行くしかないだろっ!!!」


ヘドバン少年を逃がしてしまったことに責任を感じているのかもしれない。いや違う、別にそんな責任が無くったってオレはここから逃げない。逃げたりしない。友美ちゃんが、覗き事件の詳細を食堂で話してくれたときに流した涙を思い出したら、尚更だ。


「ふ」


「何がおかしいんだよっ、てめぇーはよぉ!!!」


オレが言いたいことを早口でまくし立てると、テルは軽く鼻で笑った。それには、心がひろーいで有名なオレ(自称)もキレる一歩手前だ。テルの胸ぐらを掴み、強引に引き寄せた。視界の隅でマコがものすごいオドオドしているのが見えた。


「お前はいつも突っ走ってる。この事件はもう俺達の手に負えないとこまで来てんだ。しょうがないだろ。頼むからわかってくれ」


胸ぐらを掴まれても全く動じる様子がないテルは、いつもの冷静な口調で口を開いた。その声が耳に届くと、テルの胸ぐらを掴む手が突然力を無くしたようにストンと落ちた。


頼むからわかってくれ?


わかってる。

そんなのわかってる。

100も承知だ。


でも、そんなんでいいのか?


…いいわけねーよな。


「…うっせぇ!!!」


オレは一度は離したこの手をまたテルの胸ぐらへと勢いよく戻した。それを見たマコがまたオドオドとし始めた。


「お前はいっつもうるせーんだよ!!! お前の答えは世間的に見たら100点かもしんないっ。でも、それより大事なもんがあるだろっ!!!」


「………」


「なんか言えよっ!!!」


さっきより激しく胸ぐらを掴んで前後に揺らすが、テルのむかつくほどイケメンの顔は全く変わらない。冷静すぎる。ちょっとぐらい変われや。


「…ススストぉーップ!!! ストップ!!! ストップ!!! ストップぅ~!!!」


真っ正面に向き合い対立するオレとテルの間を、マコは「ストップ」を連呼しながらスルスルっと入り、本当に男か?と思わせるほど華奢なその腕で強引に引き離した。


「どーしたのさ2人ともぉ!? ケンカなんて珍しいなぁ、仲良く行こうよ仲良くぅー……」


「「………」」


「…………」


オレとテルの間に強引に入ったマコは、オレ達2人の顔を交互に見ながら仲を取り持とうとする。しかし黙ったまま睨み合うオレ達2人に、ついにはマコまでもが口を閉じてしまった。

3人とも黙ってしまったのが原因か、未だに電柱の天辺で雄叫びを上げているカズの声がよく聞こえる。




…帰ろ。




「…え? あっ、タっちゃんちょっと待ってよっ、どこ行くの?」


「家」


「…家ってそんなぁ、ちょっとタっちゃんっ!!! テっちゃんと仲直りしてよぉっ!!!」


背中に当たるマコの声をオレは受け入れず、そのまま歩くのをやめなかった。ここから家まではそう遠くない。ほんの5分くらいで到着だ。家に帰ったら、とりあえずすぐ風呂に入ろう。制服が冷たすぎて風邪をひきそうだ。


柚葉怒ってるかな…。一応「遅くなる」とは言っておいたけど予想以上に遅くなった。アイツのことだ、夕飯作ったはいいけどまだ食べてないはず。


「待たなくていいって言ってるんだけどな」


何度か帰りが遅くなることがあった。その度に「夕飯先に食べてていいぞ」と言うのだが、家に帰るとそこにはリビングのイスに座り、じっとオレを待つ柚葉が…。何故先に食べないのかと聞いたら、「兄さんと一緒に食べたいから」だそうだ。………。



あっ。



「オレがいなかったら、柚葉一人だ…」


オレが家にいないと柚葉は一人。つまり、一人で夕飯。そんな夕飯美味しくないよな。だから、オレと一緒に食べたいと柚葉は言っていたのか。あぁーくそ、今気がついた。


「…ん?」


何かが頭に落ちてきた感触。空を見ると、ポツポツと雨が落ちてきていた。せっかく乾いてきた制服がまた濡れちまう。そう思ったオレは、あと少しで着く我が家に向かって走り始めた。しかし、途端の大雨に結局オレの制服は再びびしょ濡れになるのだった…。




ついてないな。




  *




「………」


次の日の朝。


「あっ、兄さんおはよー」


目覚まし時計にやかましく起こされたオレは、寝起きの全く回転しない頭をフラフラ揺らしながら、一階に下りてリビングに入った。すると、そこに…。


「よっ」


イケメンメガネがいた。


「……よ、よぉー」


昨日、言い争いやら何やらあった手前、まさか家に来るとは思ってもみなかったオレは、返事がぎこちなくなってしまった。

ずっとリビングの入り口に立ったままはあれだと思ったオレは、とりあえず座ることにした。この気まずい空気から逃げちゃダメだと頭の中で0.03秒で考え、コーヒーを飲んでいるテルの前に挑戦的に座った。


「…何しに来たんだ、お前?」


「まぁただ朝食を食べにきたって感じかな」


「だから『感じかな』ってなんだよ。ここはファミレスじゃねーつってんだろ」


お前もこんな感じの会話あった気がする。なんだこいつ、普通過ぎるだろ。昨日あんなことがあったのにも関わらず、普通なテルに調子が狂う。


「………」


「………」


「…俺さぁ」


「お、おう。なんだ?」


「100点取るのやめるわ」


「…は?」


意味がわからない。いきなり「100点取るのやめるわ」と言われても、何の事だか全く検討がつかないだろーが。中間テストはまだだろ? あっ、もしかして今日の英語の小テストのことか?


「これから50~70点ぐらいでやっていくことにした」


「いや50~70って…、お前そんなんじゃ成績に響くぞ」


「選択問題でAとBとCがあったら、Dを選ぶことにした」


「いやいや、それ間違いだろ。選択肢増やしてどうすんだよ」


昨日の言い争いが尾を引いているのかわからないが、表情の変わらないテルの頭の中は予想以上におかしなことになっている…のか?


「…つまりだ、……俺の出した答えは50点とか60点とか70点で100点みたいに完璧じゃない。だから、みんなの答えも聞かせてほしい。そうすれば、選択肢増えるだろ?」


「…………。テルの今の選択肢はどんだけあるんだよ?」


「AとBの2つだな。ちなみに俺は、解答用紙に『B』と書いた」


『B』。

その答えがあっていてもあっていなくても、時間がきたらそこで解答時間は終了だ。後は、あっていると祈るだけ。答えはもう変えられない。


「その答えに自信あんのか?」


「…わからない。俺は最初『A』だと思った。でも、『B』だと気づかされた。それに……、やってみる価値はある」


「ちなみに、…その『B』の内容は?」


ここで「生徒会長か教師に報告」とテルが言うもんなら、もうオレだけで事件を解決すると心に決めた。でも、次のテルの声が聞こえた時にはそんな決意は必要ないものになっていた。杞憂(きゆう)


「友美ちゃんを俺達の手で助ける」


「…オレも一緒だ」


お互いの解答が同じだと確認すると、オレかテルかどちらからかわからないが不意にニヤニヤと笑いだした。端から見たら、すごい気持ち悪い光景だ。


内心すごくほっとしてる。テルがいるといないとでは安心感と安定感が全く違う。いや、テルだけじゃなくカズもマコも同じだ。1人が欠けるとぐらぐらする。4人だとフィットする。シンメトリー。


昨日と今日で気づかされた。


4人揃ってやっと安心するんだ。

4人揃ってやっと安定するんだ。




4人揃っての『タカテマ』なんだ。






最後まで読んでくださってありがとうございます。


どうだったでしょうか?



ということで、

今回は珍しく拓斗と輝貴が喧嘩っぽい感じになる話になりました。

正直今回の話、ぐちゃぐちゃだったと思います。拓斗が見つけたカメラがすごい薄い感じになってしまいましたし、数哉のキングコングとか「どういうことやねん」といろいろツッコミどころが満載な感じになってしまいました。つくづく自分の文才の無さに涙してます。


そんなわけで、次回第十七話でまた会いましょう。



ではー




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