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陰気でつまらないと婚約破棄されました。……では、もう喋らなくていいんですね?

作者: 月白ふゆ
掲載日:2026/08/13

学院を卒業した若者たちを招いた、小さな晩餐会だった。


会場は伯爵家の屋敷。

招かれたのも、親しい家の子女が三十人ほど。


その壁際で、ミリア・クロウ公爵令嬢は婚約者から声をかけられた。


「ミリア。婚約を解消したい」


レイン公爵家次男、エドガー。


クロウ公爵家の一人娘であり、次期当主であるミリアへ婿入りする予定の男だった。


「……はい」


黒髪はきっちり結い上げられ、ドレスも首元まで詰まっている。

視線は伏せがち。笑顔も少ない。


「君は悪い女性じゃない。だが、一緒にいても会話が続かないんだ。何を聞いても二言三言で終わるし、こういう席でもずっと隅にいるだろう?」

「……そうですね」

「僕はもっと明るくて、よく笑って、話していて楽しい女性と暮らしたい」


少し離れたところには、先ほどまでエドガーと楽しそうに話していた令嬢がいる。


「……わかりました」

「怒らないのか?」

「……怒ると、たくさん喋らないといけないので」


エドガーは黙った。


「では、婚約はこれで終わりということで?」

「ああ」


ミリアは少し考え、それから、ほっと息を吐いた。


「……では、もうエドガー様と喋らなくていいんですね?」


「…………」


その顔が、その晩いちばん明るかった。



ミリアは一礼して会場を出た。


扉が閉まり、人の視線がなくなった途端、肩から力が抜ける。


「……つかれた」


低く、少し掠れた気怠い声。


ミリアは首元へ指をかけた。

ひとつ、ふたつと留め具を外す。


詰められていた襟が緩み、白い喉から鎖骨までが柔らかな灯りの下へ現れた。


「……苦しかった」


今度は髪へ手を伸ばす。


一本、もう一本。

ピンを抜くたび、固くまとめられていた黒髪がほどけていく。


最後の一本を抜くと、艶のある髪が肩を滑り、背中へ一気に落ちた。


頭を軽く振れば、黒髪がふわりと揺れる。


さらに長手袋へ指をかけ、ゆっくり引き抜いた。

指先から手首、細い腕へと白い肌が現れる。


「……やっと帰れる」


伏せていた目を上げた。


「馬車まで送ろうか」


横から声がした。


ミリアの肩が跳ねる。


ヴァイス侯爵家三男、レオン。


彼もまた、晩餐会ではだいたい壁際にいる男だった。


「……いつからいました?」

「苦しかった、のあたりから」

「……忘れてください」

「努力する」


そう言いながら、レオンは一度だけ視線を逸らした。


「馬車まで送ろうか」

「……会話、しなくてもいいなら」

「構わない」

「では、お願いします」


二人は黙って歩いた。

それが驚くほど心地よかった。


馬車の前でレオンが手を差し出す。

ミリアはその手を取った。


そして、離さなかった。


「……ミリア嬢」

「はい」

「手」


ミリアは彼を見上げる。


近い。


人前ではろくに目も合わせられない女が、二人きりになると妙に真っ直ぐ見つめてくる。


「嫌ですか」

「……いや」

「では問題ありません」



半年後。


ヴァイス侯爵家三男レオンは、クロウ公爵家へ婿入りした。


新婚家庭は、とても静かだった。


夫も無口。

妻はもっと無口。


「会話のない夫婦で大丈夫なのか」


そんな心配をする親族もいたという。


そして一年後。

クロウ公爵家に、元気な女児が生まれた。

夫婦仲を心配する声は、それきり消えた。


どうやら次期クロウ公爵ミリア。

会話は陰キャだったが。

肉体言語は、かなり陽キャだったらしい。

例によって、夜勤明けです。


首が痛い。

腰も痛い。

眠い。


なのに、なぜかこんな話を書きました。


……何らかの欲求不満でしょうか。


自分でもよく分かりません。


とりあえず、会話は陰キャでも肉体言語は陽キャらしいです。


では、昼のビールを飲みます。

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― 新着の感想 ―
必要最低限の会話さえ成立すれば、後はお互い自由にしてようねって思ってる私には羨ましい生活だな(*'▽'*)
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