第6話 正体
血の剣がひっくり返り、ケイムの腹を貫く。
しかし、寸前で霊体になっていたのでなんとか助かったらしい。
「なるほど、血を操る魔術。起姿解醒かな? ‥‥‥そうして、殺したい相手の血で武器を作って、それを殺せれば自分の損失は幾分かの魔力で済むし、殺せなかったとしても、失血性のショック死を狙えるわけだ。いい魔術じゃないか、君のは‥‥‥」
「そう。俺の起姿解醒『ブラッドルーツ』はそういう術。でも、見ただけでワカっちゃうのつまらなくないか?」
「俺はそこまで格好良くないからな‥‥‥さっさとやろう」
ケイムの起姿解醒「光業」の発動から五秒が経過。魔族ビムガが今が隙だと見て、手のひらをケイムに向けた。
しかし、ビムガの「ブラッドルーツ」は発動しなかった。
ケイムは走り出し、ビムガの顔面に拳を突きおろした。
ビムガは防御結界を展開する。しかし、腕が透け、防御結界の中に入り込まれた。この時点で「光業」発動から十一秒が経過していた。
「嘘をついたな」
「正解。敵を前に大声で自分の能力をバラしちゃうの、良くないと思うから。あの子には悪いけど嘘をついた。でもよく見ていればわかるよ。魔法質量兵器を避けた際にも八秒は経ってた。俺があんまり『五秒』を強調して言うものだから、正確な秒数すら測れなくなってしまって、どうもありがとう」
「まずったかな」
「かなりね」
ケイムは「光業」を解除した。
次に、殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
ビムガの能力上、斬りつけは厄介な事になりそうなので、内出血を狙って、絶妙なパワーで重賞を狙っていく。
「傷はもうある‥‥‥!!」
ビムガが手のひらをケイムの胸に押し付ける。
ケイムはその瞬間、「光業」を発動させ、ビムガを霊体にした。
「ウゥ‥‥‥!?」
「平和な世に、魔族はいらない。‥‥‥作った責任は取る」
「作った‥‥‥責任‥‥‥?」
魔族は魔王バンガが人工的に作り出した人造人間であり、その身体性能は魔王バンガのコピー。
「先天性の気持ち悪い魔術‥‥‥」
目の前のこの気持ちの悪い魔術を使う男が、どうせ何処かの誰かの転生体だろう、という所まではわかっていた。
「あっ」
なんでこの塔の最頂部にある箱のからくりがわかっていたか。
「あーっ! ああーっ!? なんで人間の味方してんだテメェ!! テメェッッッ!! バンガだなーっ!?」
「人間は、この世界の勝者だ」
「宣いなさる‥‥‥! 人間は弱い! 命が弱けりゃ起姿解醒に至る確率の低いゴミ! 魔族はそうじゃない! 魔族は強い! 貴様の肉体を模倣して作り出された生物だからだ!」
「勇者には負けた」
防御結界が崩壊した。
ビムガは転がり、ケイムを睨みつけ、手のひらを向ける。
ケイムはそれをかわした。
「ううううう!?」
「千年前の俺は間違っていたんだ。人間の尊さを信用できず、自分の世界に引きこもった。根暗だったんだ。自分の正しさを理解しない人類を軽蔑して、そしてそんな人類を消してしまおうと思った。そうして魔王になった。魔術を昇華させ、魔王術にした。俺は魔術の才能があったからだ。そこに奴が現れた。裏返った魔王術──勇者力を持つ女‥‥‥アウィだ。勇者は俺を倒したよ。魔族には生き残りがいたんだ。全部消しておけばよかった。あのときは、俺の死を他山の石にでもしてくれると思ったが‥‥‥そうだよな、俺のコピーなんだから、そんなに賢いわけがない」
「死んだら大人しくしとけよ‥‥‥!」
「そのつもりだったさ。君たちがバカなことをしなければ、農家になろうと思った。『なにやってんだ』っての俺の言葉だ。親のばかな死に目に学ばんか! 馬鹿者!」
「ちいいい!」
ビムガが「ブラッドルーツ」を発動させる。しかし、ケイムはそれを短刀で叩き落とした。それは、半透明のごく小さなノミだった。おそらく「血を操る魔術」はビムガのものではなく、ビムガの起姿解醒は「血を操る魔術を使うノミを召喚する魔術」なのだろう。
「命をもらう」
「できるものならさ」
ビムガが戦闘の構えをとった。
「起姿解醒、第二段階」
「‥‥‥‥‥‥。なんだ、それ」
「千年前にはない術さ」




