第5話 喪家
桁並外れた優れた魔術や、魔術から昇華された魔王術および勇者力。これらは使用の際に「身体保護のための強化皮膚」の生成が行われる。生成された強化皮膚は「神皮」ともいい、強化皮膚の生成=術の使用を「起姿解醒」と言う。
「──きみは、まだこの神皮がない状態だ。勇者力の神皮を発効できるようになるには、一度命の危機に瀕さなければならない。君の先祖がそうだった」
「なんでわかるの?」
「その話はあとで」
ケイムとフレイは魔王軍第八基地にやってきていた。
それは塔である。かつて魔王バンガが「母の墓」として建造した一〇六五階建ての塔。壁のすべてに、母へ宛てた弔文が掘られる超塔。
「複雑な気分だな。ここが戦場になるのは‥‥‥」
「え?」
「いこう。ここでの目的はふたつ。一つは君の起姿解醒。もうひとつは、最頂部についてからゆっくり説明しよう」
「うん!」
ケイムは二本の短刀を鞘から抜いて、フレイは赤い剣身の剣を抜いた。魔族はすぐに来訪を察知し、巨大な魔力の砲を放つ。
「魔法質量兵器だ!!」
「一度俺たちの肉体を反転させる」
それは、「ケイムとしての魂」に刻まれた優れた魔術。質量を通す魔力回路を保護する為に質量を通さない霊体への肉体の反転。
魔法質量兵器の黄色の光が目前に迫る。
起姿解醒「光業」
──使用──
電磁気を帯びた魔法の粒子が体をすり抜けていく。
「肉体反転は五秒しかもたない。走れ!」
「うっ、うん!!」
ふたりが走り出し、魔法質量兵器の光の尾を抜けると、霊体から戻る。その瞬間、ケイムは飛び上がり、魔族の首に短刀を突き刺した。魔族は火炎の球体を放ちケイムを焼こうとするが、彼は即座に身体を捻り火球を避けてしまうと、短刀を投げ、魔族の頭部を破壊した。
「すっご‥‥‥」
負けていられないと意気込んで、フレイも魔族を斬りつける。
火球がとんでくると、フレイは防御結界を構築しそれを防ぎ、防御結界ごと魔族を力任せに潰すように斬りつけた。
魔王軍第八基地にいる魔族は炎系統魔術を得意としているんだろうな、と細目で分析すると、フレイは笑みを浮かべた。
フレイは水系統魔法が得意である。
「男の方はあの変な魔術しか使えんらしいな」
先天的な魔術なのだろうか。
魔族のひとり、ビムガが細目で分析。
「なら俺が出る。全員女の方を積極的に殺しにいけ」
「魔術をひとつしかつかえない雑魚なら俺らにも相手をできますよ」
「バカを言うな。ああいう気持ちの悪い魔術を使えるのは、魂に曰くがある者だけだ。どうせ転生体だ。なら俺が出る」
ビムガは起姿解醒に至っている。
「作戦は決まったろう。全員一斉に場に出ろ! 圧し潰せ!」
魔族が増えた!
ケイムは腹を殴られた衝撃で口のなかに血を溜めながら、突如増えた魔族を睨みつけた。短刀を構えなおして、魔族の首に突き刺す。
魔術の準備をしている者がいるので、その顔面に向けて口の中の血まじりの吐瀉物を吐きつけ、目を潰し、間合いを詰め、股間から胸にかけて鯉が滝を昇るように斬りつける。
飛び散った血が魔力を帯びている。短刀同士を叩き合わせ、火花が散る。魔法質量兵器を使用する者は身体を保護しなければならない。魔族であればそれはなおのこと。魔力回路が暴走するだけでなく、詳しい理屈を省略して結果、血液が可燃性になる。
火花が血に触れる。
「なんだ!?」
ケイムがいるところで、爆発が起こったのでフレイは驚いて魔族と一緒にそのほうを向いた。
「アガルシーくん大丈夫!?」
ケイムは空に飛び上がり短刀から火花を散らしながら叫ぶ。
「ここのれんじゅうは俺がやるから君は先に進みなさい」
「なんで!? みんなここにいるでしょ!?」
「塔の最頂部に勇者にしかひらけない箱がある! その中にあるものはすべて君のものだ!」
「えっ!? えっ!?」
「早く行きなさい!!」
次の瞬間、ケイムの小さな傷口から血が剣のように噴き上がった。




