第4話 子孫
野で暇そうにしていた馬を掻っ攫い、勇者が生まれたという王都へ。
到着すると、凱旋もなく、「送り出してやろうぜ!」という気概のある老若男女が街の門の前に集っていた。赤髪の少女が見えると、顔立ちがあまりにもキズムに似ていたので、足が止まった。
膿が溢れ出してくるような感覚。
ずくずく‥‥‥と‥‥‥。
「アウィ‥‥‥」
勇者キズム・デシル・アウィ。その子孫。
思考がままならない。何を考えればいいのかも分からない。
新たな勇者フレイ・ガム・アウィは‥‥‥。
世界は、またアウィに不幸を選ばせたのか。
「どうしよう‥‥‥どうしよう‥‥‥」
どうすればいいのか分からない。
こういう時、アウィならどうしたろうか、と考える。
頭のなかで、頭の片隅で常に光っている記憶を呼び起こす。
そして、身体は動き出した。
このとき、勇者フレイは「仲間集めなきゃなあ」と考えていた。
腕に覚えのあるたいていの戦士は魔王討伐隊に参加し、戦士していた。ゆえに、しばらくの間はひとりで戦わなければならないらしい。
怖くないといえば嘘になる。
正直なところを言ってしまうと、とても怖かった。
たしかに、ずっと剣術の修行はしてきた。
王国の騎士団にはいるのが夢だったからだ。
けれど、ひとりで戦えと言われて、足が竦んだ。あたりまえだ、ひとりで戦うことなんか想像もしていなかった。たくさんの仲間に囲まれて戦うもんだと思っていた。
正直なところ、本当は勇者になるのだって嫌だった。
先祖が勇者だったらしい。その勇者の力が発現したらしい。
「フレイ・ガム・アウィ」
声をかけられた。
もう日が暮れ始め、雲の間から赤い夕陽の渡り鳥。同年代ほどの少年が、傷だらけの体を馬の背に乗せて呼んでいた。
「君のことを新聞で見た。まだアウィの血筋がちゃんと続いていたことに驚いた。千年も経っているのに、ちゃんとアウィとしてのこっていることが、俺はとても嬉しくて仕方がない」
「君は誰?」
「‥‥‥‥‥‥紹介しあってなかったね。俺は、ケイム。ケイム・アガルシーだ。魔王討伐隊の第四隊に所属している」
「クルネイド島で戦ってた人だ」
「そのとおり」
クルネイド島の戦いは田舎で暮らしていたフレイにも届いていた。
二刀流で戦った鬼のような戦士がいるという話。
「俺に君の背中を守らせてくれないか」
「えっ」
「俺はこう見えて戦える。魔族との戦闘経験もじゅうぶんにある。だからさ。君の背中を守るくらいなら、俺の剣でもできる」
「願ってもないことですよ! 頼みたいなぁ」
ケイムは微笑み、「勇者力の使い方も教えられる」と言った。フレイはまた驚いて、「どうして分かるんですか」と返す。
「俺もかつて似たような力を持っていたんだ。勇者というわけじゃないし、説明するととても話が長くなってしまうから、今は言えないけれど、君が死なないで戦いを終わらせる方法なら、俺は幾らでも伝授できる。俺は君に死んで欲しくない。争いのない世界で優しく生きて欲しい。そもそも君は若いのだから」
「それを言ったらあなたもよ」
「それもそうだ」
ケイムはふわふわと微笑みながら、首を傾けた。右頬の、目の下から顎下までかけて伸びた傷跡がぐずぐすとひかりに照らされる。
「不思議な雰囲気の人だな」とフレイは思ったという。




