第22話 繫夢
ドラムの王国の国王バラガが死んでから、チスガが国を率いることになった。それに反対したれんじゅうがいた。
ので。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! お前らを王国サーカス団〈ドラム座〉に任命します! 喜べ! 喜べ! ここで新潟県あるある言わせてもらいます! なんか、米とか生えてる! 道端に!! あとは‥‥‥えっと‥‥‥バングラディシュとかある」
「なんたこいつ!?」
「ボス! こいつ王子ですよ! バンガです!」
「あのいい子ちゃんがこんなイカれた本性隠してるわけねぇだろ!!」
ニイガタケンってなんだよ、とテロリストたちは考える。
しかし、厄介な事にバラガ・ガム・ドラムはやたらと魔術の腕がいいので、抵抗しようにも勝ち目がない。十六歳のガキに勝てないテロリスト。大人としての矜持が消えていく。
「じゃ、君ブランコ。ブランコできる?」
「やったことねぇよ。出来るわけねぇだろ」
「やりもしないで出来ないって言うなッッッ!」
「うっせバーカ!」
「ちくちく言葉だーっ!! きゃーっ!! 助けて母上!」
「なんだこいつッッッ!! 殺すぞ!」
「無敵のバリア! 防御結界を構築します。アハン♡」
こうしてテロリストたちはサーカス団〈ドラム座〉になり、八ヶ月の特訓の結果、ちょっとショボいサーカスを魅せるようになった。
「興行の収益が五〇万ベサを超えたね。ちなみに一ベサ三十五円なので、五〇万ベサは日本円になおすと一七五〇万円です」
「ニホンエンってなんだよ‥‥‥」
「最強の魔術です。正しくは『五〇〇万円ください』です」
「五〇〇万円ください! 五〇〇万円ください!」
バカ笑い。
「乞食っすか」
「殺すぞ!!」
こうして〈ドラム座〉が有名になると、バンガ王子の魔術にも目を向けるものが多く現れた。それが世界魔術師協会のれんじゅうである。彼らは、バンガやばくね、となったのだ。バンガの起姿解醒「霊場神宴輾縁庭」は魔術を奪う魔術で副次的な能力として、魔術の習得速度がヤバいことで知られる。
「賢者」になれる存在である。
こうして、〈ドラム座〉を雑に投げ出したバンガは世界魔術師協会所属の魔術師として隣国ショガノへと旅立った。
「ふーここがショガノかー。海が綺麗すぎますなぁ」
魔術師協会の建物に訪れると、ハイエルフという寿命数千年の種族の女キョーコがやってきて、バンガの師になった。
「ぐふふふ、協会は君を賢者にして明日を担わせようというのだから驚き。君は世界の贄になるんだよ」
「まるでフライドチキンみたいに‥‥‥?」
「‥‥‥? ‥‥‥??? まぁそんな感じ」
「適当吐かすな」
バンガはキョーコの弟子としてそれなりに魔術の成績ものばし千年ほど頑張った。その結果、戦争が始まりかけたドラムとショガノの間を取り持ち、ドラム座の興行は成功に成功を重ね世界が誇る三大サーカス団の一つに加えられるようになり、過去に犯罪歴を持ち、行くあてもない前科者がドラム座に入り更生するということも増えた。
「バンガ! またサーカスか、あんたは」
「二〇八〇年頃に恋に堕ちたいキッズがおるのでその時代にドラム座がなかったらエグい悲しい」
「ヤバい幼女趣味? 賢者がそれでいいわけないだろ。ドラム座を国民に返せ」
騎士団長キズム・ガム・アウィはバンガの幼馴染である。昔はよくドラム座の運営で揉めに揉め、国民を巻き込んだ大論争を巻き起こしたりもしたが、今では賢者とその護衛という立場になっている。
バンガの死は唐突だった。
弟子のボンガと大喧嘩をし雨の日に「千段階段で兎跳び五〇往復、できなかったら今月の給料なし」という対決を仕掛け、両者同時に足を滑らせ転倒して頭を打ち死亡した。
そして、時は過ぎ──二〇六七年。
「えーっ!? 俺魔術使えないのーっ!?」
ケイム・アガルシーが叫ぶ。
「魔力回路が枯れ果ててるんだよ」
前世と前前世と前前前世でやらかしすぎたのかしら、と思案。
「まぁいいや。魔術なんかなくてもこの世界ばり楽しいし。ねえキツキ、サーカス行こうよ」
「またぁ!?」
「俺サーカスすき」
「そりゃあんたは好きだろうけどさ」
キツキはケイムのことがあまり好きではなかった。
ずっとうるさいし、なにもかっこいいところがないし。
「俺おとなになったらサーカスに入ろうかな。そうなったらさ、年一くらいで見に来てよ」
「年一でいいの?」
「だって君あんまり俺に構いたくないじゃ〜ん。ういうい〜」
「‥‥‥‥‥‥」
その宣言の通り、数年後のケイムはドラム座に入団し、初登場の場でブランコをしながらピストルで高速移動する風船を狙い撃ちし、紙吹雪を舞い散らせるスーパープレイを見せつけ、人気団員の第四位に舞い上がった。
「それにしても何でサーカスなの?」
短い休憩時間、問いかける。
「俺、みんなの笑顔を見るのが好きなんだ。大昔の人が守った笑顔‥‥‥つまり、誰かの夢を俺も繋げてると思うと、とても嬉しい」
ケイムは笑顔を浮かべて、キツキに語った。
「俺、だからサーカスなんだ! この大陸で一番歴史の深い笑顔の守り手だぜ!! 俺の誇りだ」
遠くで、「アガルシー、出番だよ」と相方に呼ばれる。
「ふぅん」
ケイムは旅をする芸人だから、会えるのは、本当に年に数度。
会う度に身体つきが、変わっていて、男らしくなっていく。
「なんか最近よくラブレター貰っちゃう」
彼はやっぱり女の子にモテた。
「嬉しいけど、俺昔から好きな人いるからなぁ」
「いるんだ」
「うん」
もやっ、と。
十五歳になると、キツキはケイムのことを目で追うようになった。ドラム座の記事はいつも新聞にあって、その記事を集めて。
ケイムの両親ともいつも話す。「あのおバカちゃんに天職があってよかった」と。でもやっぱり、いつも一緒にいられるわけではないので、自分といない間何をしているのかと考える。
いったいどこで、いったい誰と、いったい何を?
そう考える。
十六歳になった。
いいことばかり聞く。行く先々でケイムは色々な問題を解決しているらしい。助けられた人たちが抑えられなくなって、新聞社に漏らしたらしい。すると、あちらこちらで、「おれも助けられた」という声が湧き上がった。
どうやらやくざと戦っているらしい。
立場の弱い家庭に巣食うれんじゅうと戦い、救って、口止めをして、あちらこちらを転々としているのだとか。
ある夏が来る。
「くたびれたーっ」
実家に帰ってきたらしい。あんまり大々的にやりすぎたので、ドラム座の座長から「しばらく実家に帰ってなさい」と言われたらしい。
それからケイムは畑仕事を手伝うようになっていた。
キツキは顔を合わせるのも恥ずかしい。
帰ってきてから三日が経った。ようやく会いに行くと、領主の一人娘がケイムに飛び蹴りを食らわせていた。
「あんたバンガだろ!!」
「そういう君の蹴りは‥‥‥キズム!? なんだ君、意外と近くにいたなぁ! 懐かしいなぁ〜!」
「魔術は!?」
「使えない」
「ざまぁみろ」
ふたりはとても親密らしかった。
声はかけられない。
それから四日が過ぎた。
「シミュ様とはうまくいってんの?」
たまたま顔を合わせる機会があったので、会話をした。なんだか顔を合わせるのも嫌だ。
「え? うんまぁ、最近はよく喧嘩してる」
「倦怠期?」
「ひどい冗談だなあ」
「仲いいんだ」
「仲いいっていうか。‥‥‥君、なんだか勘違いしてないか?」
「してないよ。何の勘違いもない」
「してるじゃない。俺は別にあいつとはなんともないよ」
「あんなに仲いいのに? 昔から好きな人はいたんだろ」
「だから、それは‥‥‥」
「なに?」
「それは、君だ」
夏だった気がする。あつくて、腋も背中も、風が当たるたびに冷たく感じる。木々も風を浴びている。
「ずっと前から、ずっと前から、好きだったのは君だ」
「えっ? えっ、なんで‥‥‥」
「俺が人を守りたいと思うきっかけは、君なんだ。君を見て、君を知って‥‥‥この心に生まれた俺が誰であろうとも自分の犯した過ちを理解したきっかけは、君だ」
しばらく、沈黙が続く。
「あっ‥‥‥俺、古代語が得意でね。大昔の言葉で、ケイムキツキってのがあって。あっ、それはまたあとで話すけど。つまり、そういうことなんだけど、あの。あとでまた改めて言うから‥‥‥」
気まずい。
「ちゃんと、積み重ねてから言いたい」
「あっ‥‥‥あー‥‥‥。‥‥‥うん」
気まずかった。




