第20話 凡芽
ボンガが笑う。
「ハハハ」
いままで、この千年とすこしの間の孤独を思い出したのだろう。その恨みつらみだとか、いろいろな感情がフラッシュバックしたのだろう。腹のなかに溜まりに溜まったマイナス感情や、もう一度出会えた喜びを吐き出すように、捨て去るように‥‥‥。
「ハハーッ、アーッハッハハハ!!」
笑う。
「ハハハハハ!! ハハハ!! ワッハッハハ!!」
「本当にねぇ!!」
互いの魔王術が相殺しあい、消滅。
地面に落ちるその一瞬、シミュは落ちる準備のできていなかったキツキを抱き寄せながら、ケイムの背を蹴り、魔王討伐隊のほうに落ちていった。その最中、遠方で魔族を斬りとばし続けていたフレイに叫びつける。
「君もはやくこっちに来い!! 巻き込まれるよ!!」
「えっ‥‥‥!? 何に!?」
「いいから来るの!!」
復活直後だから、あまり魔術に力を入れられそうにない。
それでもやらなければならない。みんな離れたかな‥‥‥キツキはこれを見て幻滅したりしないだろうか、とか。
そういう事を考えながらも、両手のひらにうかびあがった術陣を重ね合わせるように、手をパンと合わせる。
ボンガも同じようにしながら、両者同時に詠唱する。
「〝真なる魔光〟」 「〝愚の骨頂〟」
「〝紅の咆哮〟」 「〝命の失墜〟」
「〝信仰〟」 「〝後悔〟」
「〝性愛〟」 「〝愛情〟」
「〝魔から出で〟」 「〝魔より出で〟」
「〝空に帰る〟」 「〝地に堕ちる〟」
起姿解醒「霊場神宴テンエン庭」
──使用──
ボンガのほうが早かった。彼の全身は白い神皮に包まれた。
腕から伸びた先の手のひらで術陣が光ると、大量の魔術が襲いかかった。それはボンガの全力であるらしい。
その数二百五十本の腕すべてからの魔術の行使。すべての魔族がボンガの怒気にあてられて、消滅した。
もう周りなんか見えていない。目の前にいるこの男を否定してしまいたかった。生んでくれた恩はある。孤独にしてくれた恨みもある。
それら全てをひっくるめた否定の完成。
魔術すべてが当たらない。当たる直前にバンガの吐息にかき消される。当たった直後に、バンガの心臓の鼓動でかき消える。
ボンガは冷や汗を垂らしながら、次の魔術を構える。
その瞬間、バンガの魔王術が発動する。
起姿解醒「霊場神宴輾縁庭」
──顕現──
ケイムの全身が黒い神皮につつまれる。
それと同時にありえない量の腕が地面から生えた。両端に手のある腕が現れると、それはケイムの背後で大きな輪になると、時計回りに回転を始めた。手首の方に術陣が浮かび上がる。
「俺はこの身体に、九兆五〇〇〇万の魔術を保有している。しかし、すべて低威力。千年間高めた君の魔術の数々に比べてみたらどっこいどっこいだね、どっこいどっこい。復活直後だから仕方がない」
「そういうところだ。全部才能でどうにかしようとする。そういうの大嫌いだ。あの時代‥‥‥僕のことなんか見てくれなかったくせに。勇者を倒すのが楽しくって、作り出した魔族に目を向けたことがあったか。いまになって、自分の過ち見つめようったってうまい話パクつくばかりで」
「そのとおりだ」
「だから、僕があなたの後を継いだ。魔王になって、あなたが一度が作ろうとした世界を、叶えようと思った。あなたが褒めてくれると思ったから」
「俺は褒めない」
「でしょうよ。クズ野郎」




