第2話 苛烈
船が出て二日がした頃だった。
雨が降りそうな雲が出ていた。
甲板に出ていた第四隊と第五隊の隊員たちはみんな一斉に船のなかに戻っていき、そこにはケイムと、もう一人だけがのこった。
腰にさした剣の柄頭を撫でながら「魔王か」とつぶやいた。
ケイムに、男が声をかけた。
レイン・ザップルという第五隊の男だった。
彼は、帽子のつばを掴みながら、「アガルシー、雨が降りそうだから中に戻らないか」とケイムに呼びかけた。ケイムは取ってつけたような笑顔になって、「そうだね」と頷いた。
中に戻る扉を開けて、階段を降りて、「集合室」に入った。
薄ら寒い船の中、誰も彼もが緊張している。
クルネイド島が見えたぞ、と聞こえたのはそれから間もなくしてからだった。隊員たち全体により一層の緊張が満ちた。
ケイムもまた柄頭を撫でていた。
クルネイド島はごくちいさな島だった。
そこに魔王軍の拠点があるという情報を得たのは、捜査部のれんじゅうの犠牲があってこそだった。
クルネイド島に魔王討伐隊が到着すると、魔王軍の小部隊がすぐに嗅ぎつけ、戦闘が起こった。
ケイムはそこで今生はじめて人型の生き物を斬った。殺人鬼がよく戦争で目覚めたとかなんとか言っているけれど、あれは嘘のような気がする。あるいは、もともとそういう素質があったか。ケイムにとって肉のほぐれる感覚は、気持ちのいいものではなかった。
顔についた血を隊服の袖でぬぐって、銃撃班が出てくると、いちど引く。島全体を洗浄にした戦いは、苛烈だった。
クルネイドの戦いが始まって四日目の事だった。
第五隊はレイン・ザップルを含めて七名しか生存せず、第四隊も似たようなものだったので、統合が為された。
「なぁ、アガルシー。俺、英雄になれるつもりで、志願したんだぜ」
「英雄。英雄か」
「気持ち悪いよな。俺、もう嫌になっちゃったんだ」
二人の剣は折れて、短くなっていた。
「俺も嫌だよ。もう剣、振るいたくないよな」
「はは」
「なにかおかしいかな」
「いや、なんにも」
レイン・ザップルはその会話をした次の日の晩に死んだ。
ケイムはレインの剣も携えて、二刀流のつもりで魔族との戦いに挑んだ。魔族は強かった。魔族はとてもつよかった。
ケイムは二刀流になった。
魔族を殺して、殺して、殺し続けた。
第四隊はケイムと一緒になって、魔族を殺し続けた。血を拭う暇もなく、裂いた血肉を縫うこともなく、ただ殺し続けた。
二〇八〇年・八月二日。人類はクルネイド島を奪還した。
クルネイド島の奪還は大して戦局を動かすものではなかった。
「ああ、殺したな……命をいっぱい奪ったな……」
「アガルシー! ここにもう用はないから変えるぞ」
「……まだ、やることはあるでしょ。……ハァ、ハァ……この島、焼こう。ぜんぶぜーんぶ、焼き尽くそう。魔族の死体ぜんぶ燃やして、復活だとか、そういうくだらない事をできないようにしよう」
荒れた呼吸を、整える。
「あったろう、火葬ってやつ。あれやろう」
ほかの誰かも言った。
「隊長。俺、ちゃんと戦い抜きます。一緒に頑張りましょう」




