第17話 臨戦
ボンガは頭部を治癒すると、「フフフ」「グフフフ」と笑い始めて、大笑いに変わっていった。
「あー‥‥‥こわいな、ほんとうに‥‥‥きみは理解していないようだから言うけれど、どうやら『先代様』を怒らせたらしい。君のよく知る彼だよ。バンガ様だ。彼も君のように現代に人間として転生しているらしいね。手を出そうにも彼を消すのは気が引けた。何故か分かるかな」
「‥‥‥‥‥‥生みの親だから‥‥‥?」
「正ェ解!」
ボンガは笑いながら、額を撫でた。
「そういう情を持ってるとは思わなかったわね」
「殺すに殺せないよ、当たり前だろ! 魔族という選ばれし存在のルーツとなった偉大なるお方だ! 彼が我々を生み出してくださらなければ自分を生んだ偉大なる男を自分の手で殺せるわけがないだろ、どんなシリアルキラーだと思われてるんだ」
シリアルキラーだろ、と舌打ちをしながら、シミュは魔王転生体について考える。バンガもまた転生している。そしてどうやらシミュと同じように自我を保持している。
身体が動かない。
ボンガの魔力にあてられて金縛りになってしまっている。
シミュはムムムッと唸りながら、固唾を飲む。
「ここから君はどうするかな」
「魔術でも体術でも勝てないんでしょ。なら、待つ」
「待つ? 何を?」
「おたすけ」
ところかわって、ショガノ王国東部ドラムの地。
ここは旧ドラム王地で、九七三年前にショガノ王国に吸収された滅んだ国のあと。そこにいるのは、ケイムとキツキ。
フレイはハレイ領に最高速度で急いでいる。
口に懐中電灯をくわえながら、地下の大穴を這っていると、空洞に出る。地面にべちょっと落ちたところで辺りを照らしてみると、どうやら王城らしい。かつての戦いでドラムの王城が大地に隠されたらしい。
「地面に散らばってる骨あるでしょ。ありゃ、俺の腕だ。全部そうだな。誰も後片付けせんかったらしいね。怒っちゃうニャン♪ ぷんぷんハーモニーを奏でます♡」
「錬金術で生成した腕‥‥‥?」
「ミ!」
「ソでしょ」
バンガの母の遺骨を取り込んでから頭がおかしいとしか思えない言動をするようになった。
「この骨を取り込んだらならないの?」
「ダメなんだ、魔術的にその骨は本物じゃない。俺が取り込むべきは、俺の肉体を焼いた時の灰か、俺の身体から摘出した骨なんだ。そういえば俺の血を浴びてしまった狼が人が立ちなったことがあったニャア。懐かしおす」
「さっさと遺骨さがそう」
「ね。なんかそうしたほうがよさそうっぽいぽい」
「そうしに来たんだろ‥‥‥」
そうしているところに、異質な気配。
魔術的な気配の察知に関してはまだ日の浅いキツキですら呼吸ができなくなるような、根源的な恐怖。
何かが近づいてくる。
それは赤い神皮に全身を包み隠した化け物だった。
「俺の遺骨を中心に‥‥‥負の感情が集まって出来上がった‥‥‥一種のゾンビとか、そこら辺のあれかな。ちゃんと火葬しないから‥‥‥」
起姿解醒「光業」
──使用──
ケイムは自分とキツキの肉体を反転させ、霊体になる。
取り敢えずはこれで一安心と思ったのも束の間、赤い拳がケイムの顔面をとらえた。
「えっ!?」
キツキは驚き、吹き飛んだ方向を睨みつける。
頭部が破損している。治癒魔術では治らない。
あれ? ‥‥‥死んでない?
「頭が高い」
赤い声が、どろりと地面に落ちた。
キツキは硬直しながら、化け物に視線を直し、混乱しながら、どうすればいいのかを考えようとして、何も思考はできなかった。
するとら化け物はキツキの両肩を抑え、グンと地面に押し付けるようにして、キツキは片膝をつくようにした。
「背筋は伸ばせ、呼吸を整えろ」
「‥‥‥‥‥‥」
「君 の心根を視ている。余計な思考をするな」
「‥‥‥‥‥‥」
こわい。
こわい。ケイムの前世? それって本当なのかな、と今更ながらに思った。こわすぎたので。
「ケイム・アガルシー。あの子はいけない。自分の行いを良くない事と理解もした気になっているが、本当は何も理解していない‥‥‥‥‥‥ただ魔族を滅ぼせば罪滅ぼしになると思っている情けない奴だ。罪悪感で死にたがっているのがその最たる証拠よ。私も腑抜けになるのだね」
「死にたがってるのかもしれないのは、十四年ほど一緒にいたのでわかります。彼にとっての罪滅ぼし‥‥‥は‥‥‥彼は‥‥‥阿呆なので、それしか、分からんのです」
「生きるべきだ。自分がおこした罪を丸ごと受け入れて、生き地獄を味わうべきだ。悪いことをしたので死のうなんていうのは根暗の考えだ」
「‥‥‥‥‥‥彼は、特大の根暗ですから‥‥‥」




