第16話 所存
主人公の前世のチート能力おひろめ回
シミュは放たれた魔法質量兵器の光線が直撃する前に母の手に触れ、自分は静かに唱えた。
起姿解醒「業光」
──使用──
それは、「シミュとしての魂」に刻まれた優れた魔術。質量を通す魔力回路を保護する為に質量を通さない確固たる物質への肉体の強化。
電磁気を帯びた魔法の粒子が体をすり抜けていく。
「気持ちの悪い魔術‥‥‥転生体か。なるほど、過去にバンガ様をよく知る近しい人の転生か。これは面倒なことになっちゃったね」
「バンガさんがよく使ってた『地獄耳』かな。嬉々として使っているあたりあまり性格がいいとは言えないけれど‥‥‥君は、まさしく現代魔王で合ってるのかな」
「そういう君は何者かな」
母の方を見る。気絶してる。
「先代勇者」
「ああ、仇」
雲のように白い髪に銀色の瞳が輝いた。勇者キズムとしての意識はあるものの、身体は思春期真っ只中に至っていてもおかしくない年齢の少女であるにもかかわらず、シミュは容赦なく光の柱に狙われる。
それをかろうじて回避すると、次に剣がとんでくる。
魔術の複数使用。これ自体は千年前じゃよくある話だが、もし、「千年前の魔王バンガと同じ力」を持っているのだとしたら、自分の現在の力じゃどうしょうもない。
「持ってるよ」
「持ってんのか‥‥‥」
「じゃあ、お見せしよう」
起姿解醒「霊場神宴テンエン庭」
──使用──
屋敷が弾けとんだ。そして曝け出された大地に、十本の塔のように大きな腕が生えた。手のひらには術陣がある。「霊場神宴テンエン庭」は、生え散らかしたこの大腕の示す通りである。
通常の人間であれば、腕は二本。うちの一本に術陣が刻まれる。時折、両手に術陣が刻まれている者もいる。
術陣ひとつ、魔術ひとつ。
術陣ふたつ、魔術ふたつ。
この魔王の術陣は十二。魔術も十二。
「なんだこの腕‥‥‥少ない‥‥‥!? 力をセーブしてらっしゃる!」
「おや、わかったかい。君のレベルにあわせたよ。どうかな。君のレベルに合っていればいいのだけれど。この、この大魔王、この大、大、大、大魔王ボンガが君のようなボンボン盆暗大凡人に合わせてあげていられるといいのだけれどー?? ちなみに起姿解醒から二日が経っている。常人である君は俺のほんの少しの能力顕現に耐えられなかったんだね! 君のお母さんも常人だからまだ寝続けてるし。ここに騎士団も魔王討伐隊も来られないから、可哀想だけどはっきり言って君死ぬよ」
純粋に性格がカス。
「じゃあ、やっちゃおっ──」
次の瞬間、ボンガの扁桃体の辺りを中心に爆発した。反応は魔力。研ぎ澄まされていたりいなかったり、マーブル模様の金色魔力。
「むむむ!」
母の墓塔、最上部。ケイムがハレイ領のほうを向いてにっこり笑みを浮かべた。
「俺の思念パルスが小僧に直撃しました!」
「‥‥‥ケイムゥ‥‥‥?」
「なにかな〜?」
入っちゃいけないスイッチが完全に入っている。魔力回路をせめて前世と同じように、と押し広げるために母の遺骨と遺灰をすべて食らい尽くしたうえでの、身体能力の向上。
「いまなにしたの?」
フレイが訊ねた。
「今の魔王が持ってる魔術を再現したんだ! 魔王討伐隊っていう言葉に反応して感知するっていう魔術なんだけど、どうやら奴がよほど弱かったらしいね! 俺が飛ばした探知用の軽い思念パルスに当てられて脳が爆発した」
「脳が爆発!? なら大勝利じゃん」
「ジョージがどっこい! それは違うね。奴は治癒魔術を持っている。俺が母の遺物を取り込んだのは、俺の遺骨を見つけるためだ。ただいまより!! 感知範囲世界全土!! ちきちき! バンガ・ガム・ドラムの遺骨を探せレースを開催します! パチパチ〜パチパチパチ〜! 出場する選手の紹介です! 前世はバンガ! ケイム・アガルシー!! ‥‥‥頑張ります! バンガを討ち倒した勇者の末裔フレイ・ガム・アウィ!」
「えっ、このノリ私も巻き込まれるの!?」
「そして、治癒魔術の使えるキツキ! 愛してます」
「えっ?」
「キツキ、魔力回路フル回転でやるから、たぶん魔法質量兵器に当てられたみたいになっちゃうんだよね。だから、俺の身体が崩壊した先から直してほしいっチュ♡」
「投げキッスされたぁ‥‥‥重傷だなぁ、これ‥‥‥」
少なくともキツキの知るケイムは投げキッスなどするようなアホではなかった。なんだかこうなったのは自分のせいな気がする。
「じゃあ行くぞ。チンタラしてたらみんな死ぬ」
「まかせろ‥‥‥!」




