第15話 出現
彼はたくさん人を殺した。
私の目の前でもたくさんの人が死んだ。
私の中で、彼の笑顔と彼の所業が整合しない。
ゆるせない、と思った。いくら悪人だからといって。
人の命を奪うのならば、それはあなたが許せない人と同じ事をあなた自身がしているんだ、と。
ゆるせなくてしかたがなかった。
止めないとって、おもった。
◆
二〇八〇年。魔王が現れた。
シミュ・ハレイは「また彼か?」と思って驚いた。彼女は意識のなかにある「彼」のことを思い出していたのだ。
しかし、魔王存在発覚からはや二ヶ月──
人類は全然へらない。もし魔王バンガであれば一ヶ月の内に人類の半数が殺されている。実際そうだったから。
新聞を見た。
【勇者フレイ・ガム・アウィとその相棒ケイム・アガルシー、快進撃! 戦闘評論家「この逸材は今までどこに隠れていたのか?」と首を傾げる】
ふぅん、と思った。
ガム。アウィ。前世──キズム・ガム・アウィ。
ああ、勇者の家系。
「ケイム・アガルシー‥‥‥」
「どうしたの?」
新聞を読んでいると、母がやってくる。
母に「この男の人どっかで見たことある」と言ってみると、母は答えを用意してくれた。
「アガルシーさんちの息子さんだね。ほら、毎年おいしいトマト持ってきてくれるでしょ?」
「あっ、あの農家さんかぁ!」
ハレイ家はショガノ王国の南部に領地を持つ子爵家である。
ああ、あの農家の息子さんか。たまに大量に野菜持ってニコニコしてる人だ、と。思い出してみる。
「勇者の付き人になったんだねぇ。あの子、あんまり喧嘩とかするタイプじゃなかったはずだけど‥‥‥」
「実はとっても強かったんだね」
「そうね」
しかし、ともう一度考える。
『今度の魔王は、なんか弱い‥‥‥』
「へぇ、僕弱いんだ」
男の声が響いた。
──魔王が出現した。
という一報は、フレイとケイム、それと同行していたキツキにもすぐに伝わった。キツキは治癒魔術を立ち寄った村の聖職者に教わっており、それにより、右手のひらに術陣が浮かび上がっていた。
「魔王が出た!? ずいぶん早いな」
「魔族はじっくりいたぶるのがすきなはずでは‥‥‥!?」
「どこに出たの?」
少し戸惑うフレイとケイムのふたりにかわって、キツキがたずねる。魔王討伐隊のマーヴィン・シムが「ハレイ領です」と答えると、今度はキツキとケイムのふたりが驚いた。
「ハレイ領?」
「俺たちの故郷だよ、この国の南部にあるんだ」
「ピンポイントでアガルシーくんの故郷を狙ってきた‥‥‥もしかして、アガルシーくん、魔王の生まれ変わりだってバレちゃってんじゃないの?」
「えっ、でもケイム言いふらすような人じゃないよ」
「‥‥‥‥‥‥」
心当たり。
「大昔に自意識過剰な異常性愛者から奪った魔術がある。『キーワード』を設定して、それを含む言葉が発されたり、思考されたりすると、どんなに遠くにいてもそれを感知する‥‥‥」
「なんでそんな魔術奪ったの‥‥‥?」
「それより、もしそれを持っていたとしてだよ」
フレイが下唇を指でつまんだ。カサカサで荒れ果てた唇にビリッと痛みがはしった。それも構わずに思考する。
「その魔術を使っていたとして、なんで今なんだろう? 私たちそろって散々魔王について話したよ」
「ケイムがいるから下手に手を出せなかったんじゃ?」
「それはないね。魔族でありながら『魔王』を自称あるいは他称できるような存在が、今の俺に臆するわけがない」
「ただのなんかキショい魔術もっただけの青年だもんね‥‥‥」
「うん」
「じゃあどういうんたろう?」
「今キショいって言った?」
「なにか琴線に触れたとか?」
「今キショいって言われた‥‥‥」
「先代魔王がこういう性格だから、そのコピーとなると、あり得る話ではあるよね。魔族って、バンガとどのくらい似通ってるの?」
「性格の話かい? なるべく俺には似ないようにしたよ」
「じゃあ違うか」
「あっ、でも最初の魔族第一号は俺を基礎にしたので、もしかしたらありえるよ。例えば‥‥‥そうだな‥‥‥『今の魔王は弱い』とか」




