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バンガ  作者: 蟹谷梅次
15/22

第15話 出現

 彼はたくさん人を殺した。

 私の目の前でもたくさんの人が死んだ。

 私の中で、彼の笑顔と彼の所業が整合しない。

 ゆるせない、と思った。いくら悪人だからといって。

 人の命を奪うのならば、それはあなたが許せない人と同じ事をあなた自身がしているんだ、と。

 ゆるせなくてしかたがなかった。

 止めないとって、おもった。



 ◆



 二〇八〇年。魔王が現れた。

 シミュ・ハレイは「また彼か?」と思って驚いた。彼女は意識のなかにある「彼」のことを思い出していたのだ。

 しかし、魔王存在発覚からはや二ヶ月──

 人類は全然へらない。もし魔王バンガであれば一ヶ月の内に人類の半数が殺されている。実際そうだったから。

 新聞を見た。


【勇者フレイ・ガム・アウィとその相棒ケイム・アガルシー、快進撃! 戦闘評論家「この逸材は今までどこに隠れていたのか?」と首を傾げる】


 ふぅん、と思った。

 ガム。アウィ。前世──キズム・ガム・アウィ。

 ああ、勇者の家系。


「ケイム・アガルシー‥‥‥」

「どうしたの?」


 新聞を読んでいると、母がやってくる。

 母に「この男の人どっかで見たことある」と言ってみると、母は答えを用意してくれた。


「アガルシーさんちの息子さんだね。ほら、毎年おいしいトマト持ってきてくれるでしょ?」

「あっ、あの農家さんかぁ!」


 ハレイ家はショガノ王国の南部に領地を持つ子爵家である。

 ああ、あの農家の息子さんか。たまに大量に野菜持ってニコニコしてる人だ、と。思い出してみる。


「勇者の付き人になったんだねぇ。あの子、あんまり喧嘩とかするタイプじゃなかったはずだけど‥‥‥」

「実はとっても強かったんだね」

「そうね」


 しかし、ともう一度考える。


『今度の魔王は、なんか弱い‥‥‥』

「へぇ、僕弱いんだ」


 男の声が響いた。



 ──魔王が出現した。

 という一報は、フレイとケイム、それと同行していたキツキにもすぐに伝わった。キツキは治癒魔術を立ち寄った村の聖職者に教わっており、それにより、右手のひらに術陣が浮かび上がっていた。


「魔王が出た!? ずいぶん早いな」

「魔族はじっくりいたぶるのがすきなはずでは‥‥‥!?」

「どこに出たの?」


 少し戸惑うフレイとケイムのふたりにかわって、キツキがたずねる。魔王討伐隊のマーヴィン・シムが「ハレイ領です」と答えると、今度はキツキとケイムのふたりが驚いた。


「ハレイ領?」

「俺たちの故郷(くに)だよ、この国の南部にあるんだ」

「ピンポイントでアガルシーくんの故郷を狙ってきた‥‥‥もしかして、アガルシーくん、魔王の生まれ変わりだってバレちゃってんじゃないの?」

「えっ、でもケイム言いふらすような人じゃないよ」

「‥‥‥‥‥‥」


 心当たり。


「大昔に自意識過剰な異常性愛者から奪った魔術がある。『キーワード』を設定して、それを含む言葉が発されたり、思考されたりすると、どんなに遠くにいてもそれを感知する‥‥‥」

「なんでそんな魔術奪ったの‥‥‥?」

「それより、もしそれを持っていたとしてだよ」


 フレイが下唇を指でつまんだ。カサカサで荒れ果てた唇にビリッと痛みがはしった。それも構わずに思考する。


「その魔術を使っていたとして、なんで今なんだろう? 私たちそろって散々魔王について話したよ」

「ケイムがいるから下手に手を出せなかったんじゃ?」

「それはないね。魔族でありながら『魔王』を自称あるいは他称できるような存在が、今の俺に臆するわけがない」

「ただのなんかキショい魔術もっただけの青年だもんね‥‥‥」

「うん」

「じゃあどういうんたろう?」

「今キショいって言った?」

「なにか琴線に触れたとか?」

「今キショいって言われた‥‥‥」

「先代魔王がこういう性格だから、そのコピーとなると、あり得る話ではあるよね。魔族って、バンガとどのくらい似通ってるの?」

「性格の話かい? なるべく俺には似ないようにしたよ」

「じゃあ違うか」

「あっ、でも最初の魔族第一号は俺を基礎にしたので、もしかしたらありえるよ。例えば‥‥‥そうだな‥‥‥『今の魔王は弱い』とか」



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