0話・ある男の語り
俺は、自分で言うのもなんだけどもてる。
老若男女問わず、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群なのに人当たりは良く、面倒見も良い爽やかな俺はもてにもてまくった。
のに。
たった一人、それが効かない存在がいる。
牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡――ちなみに度は入っていない――をかけ、髪は無造作に束ねるだけの同じ年の従姉弟であり幼馴染。
俺の幼馴染だってだけでやっかみをうける存在だけど、本人は気にせず我が道を爆走するだけ。
目立たない、寧ろ地味で存在など俺が居なければ埋没するだけに見える幼馴染の仮面の下は、実は、俺を軽く陵駕する人外だ。あの従姉弟の家系は全員そうだが、俺の幼馴染はそこにあってでさえ最強を誇る。
それを知っているのはある一部だけ。
自分の興味をひかれたモノ以外に関わるのが面倒で面倒で、あえて地味で通す幼馴染。でも、本人は気付いていないけど、結構信者はいたりする。俺のファンをあしらって、というより女なのに俺より男前の所を見せて、惚れたー!って叫ぶヤツが多いらしい。
本人だけが気付いていない所が鈍すぎる。
他は鋭いのに、そういう所だけが計ったかのように鈍いなんて、ある意味詐欺だと声を大にして叫びたい。
ちなみに、これだけ幼馴染の事を俺が言えば勘の良いヤツはわかるだろう。
俺が幼馴染が大好きで惚れまくっているという事に。
そう。
これも、本人だけが知らない事実だ。
まぁ、学校じゃばれてないけどな。面倒だし。
とりあえず一般的には頭脳明晰な頭を存分に活かして、幼馴染と同じ大学に入って同じ就職先を選んで将来的には同じ家に住めたらいいな、と策略している俺の願いは別の意味で叶えられた。
あるようでまったくありえない、何処かの小説に出てきそうな設定。
異世界トリップ。
俺は、その幼馴染とそんなファンタジーな世界へと迷い込んでしまった。
トリップした先で暮らすのは一つ屋根の下。
城だから遠いけどな。
トリップしたからといって、魔王を斃せって事はない。
寧ろ、迷い込んだ先は魔界と国交を結んでる友好国認定だそうだ。
まぁ…別にあれしろこれしろって事はなく、寧ろ就職まで世話してもらってる。
例外なく、異世界人は特殊能力が備わっているそうで、何処の国でも重宝するらしい。そう考えると、就職先を用意したのは逃がさない為なんだろうな。
ぶっちゃけ、俺は幼馴染と一緒に居られたら異世界だろうか魔界だろうか何処でもいいんだが……。
だけど異世界に来た弊害が一つ。
ある意味最低最悪な事が俺の身に降りかかった。
俺の生命を維持する為の重要な事が一つ。
俺は幼馴染程この世界に適応出来ていないらしく、適応させる為に定期的にある事をしてもらわなきゃならない。
そしてそれは、幼馴染しか出来ない事。
「彗。日課」
考え事に没頭する俺の耳に、素っ気無いけど心地良い音が飛び込んでくる。
俺の従姉弟であり幼馴染である雫の声。
「……はい、かがんでー」
ぐいっと胸倉を掴まれ、強制的に前のめりに倒される。
「・・・・・」
「はい、終了」
触れるか触れないか。
勿論触れてるけど、口付けをしてもらって終了。
そう、これが俺の生命維持に欠かせない事。
雫はこれが終わると、直ぐに自分のやりたい事に没頭する為に籠もる。
だから既に姿はないけれど。
けど、これは流石に勘弁してくれと言いたい。
何が悲しくて、好きな子から生命維持の口づけを定期的にしてもらわなきゃならない。
ある意味ラッキーというヤツがいるかもしれない。が、雫に関してはまったく良くは無く、寧ろマイナスだ。
仮に、俺が勢いに任せて告白して無理やりしたとしよう。
するとアイツはこう言うだろう。
そんなにエネルギー欲しかったの?
と、呆れた眼差しで。
本当に勘弁してくれ。
俺は男で、しかも好きな子に口付けしてもらって喜ばないはずないだろう!
そういう意味はないのは心底理解してるけど、やっぱり反応する所もあって。
若くて健全だから当たり前の反応っちゃ反応だけどな。
でも、してもらった後は虚しくて涙が出そうになるのを、ぐぐっと抑えて俺は職場へと向かう。
それが、俺の異世界でのちょっと虚しい日常。




