幕間2:山本警備会社と山本宗次郎
操が山本警備会社に入社した直後に時は遡る。
「皆さん、お集まりくださり、ありがとうねぇ~。」
こぢんまりとした事務所の前で、
恰幅のいい社長が前に立って挨拶をしている。
山本宗次郎、
それがあの社長の名前だ。
山本警備会社に入社しているバイトから
正社員までの一同全員が並べられていた。
「さぁて、皆さん。
警備会社とは何をする仕事か知っていますか~?」
なんとも間の抜けた声で山本は話を続ける。
「あぁ、
別に力を抜いて話を聞いて貰って構わないですよ~。
校長先生の話程度だと思ってください~。」
「業務としては主に、歩行者誘導や道路での車両誘導、
建物の警備も請け負いますが……。」
「稀に『依頼』という形で三の厄災を相手することも
我が社では想定しています。」
その話を始めた時、
心なしか山本社長の眼が鋭くなったように操は感じる。
周りでは息を飲むように、
山本の話を聞き入っている人間もいるようだ。
「うんうん、君たちは随分と優秀なようだ。
あまり場慣れしていないようだけれど、
かと言って浮世離れしているわけでもない。」
「こういう話にちゃんと耳を傾けられるのも、
また才能だろうねぇ~。」
未だに間の抜けた声で喋っているが、
山本の話を誰一人として聞き逃そうとはしていなかった。
トリニスタが絡むのだからそれも当然だ。
要は犯罪者を相手する可能性がある、
と面を向かって言われているのだから。
「案ずるより産むが安し……。
話すより実践の方が分かりやすいかもねぇ~」
山本はそのまま話を続ける。
「今回は……そうだねぇ。
訓練用のヴィスターも魔物も用意してないから、
初日は僕が訓練をしてあげようか~。」
お腹を持ち上げてボンっと下ろす仕草を見せる山本。
(この人が戦うのか……?)
「はーい、ちょっと離れて~。
じゃあ我妻くん、空原くん、三神くん。」
「三人で僕に攻撃しておいで、
魔法も有りだ。殺すつもりで来なさい。」
山本社長の気配が変わったのを感じる。
(ここ数年で魔法が普及したといえ、
こんな殺気を出す人がこの現代の日本にいるのか……?)
魔力自体の感知が出来るのもあり、
山本社長に魔力が集まっているのを感じる。
三人は眼を見合わせ頷き、山本を取り囲むように立つ。
「どっからでも掛かって来なよ。遠慮すると怪我するよ。」
「はあああああっ!」
大声を上げて一番槍を決めたのは我妻と呼ばれた男。
「行くッス!ブレイズショット!」
我妻は山本に突進しながら、
手のひらに炎の魔力を練り発射する。
「うんうん、いいね。その調子だ。」
山本は手を一振りして少量の氷で搔き消した。
「なっ!?」
動揺する我妻。突進に対して回し蹴りをお見舞いし、
文字通り一蹴した。
蹴られた我妻はそのまま身体を地面に叩きつけられて苦しむ声を上げ……なかった。
「ぐっ!……?あれ……あんまり痛くないんスね……。」
痛みは気にならなかったようだが、
山本に踏みつけられて一瞬で顔以外を凍らされていた。
「それはそうさ~。
君たちが来ている警備服には、
特殊な魔法が掛けてあってねぇ。
ま、その服を着ている限りはある程度守ってくれるよ。
まぁ軽い防弾チョッキだと思ってくれればいいさ。」
そんなことをさらっと喋る山本の実力は本物だ。
操と三神は足で凍らされた我妻を見て戦慄していた。
氷魔法の威力と、一瞬で凍らせるその実力。
(警備服だけで安心できるんだったら、
越したことはないんだけどさ……。)
しかし、来いというのだから行くしかない。
操は地面の土を掴んで固める。
(クリエイト・ロック……。)
手のひらに綺麗な立方体の岩が出来上がる。
こういう時の為に、
ゲームやアニメを見ておいてよかったと思う。
いや、タダの趣味なのだが。
魔法の応用を考えるのは数年の中で楽しかった。
だから、全元素魔法を一応使えるようにはなっている。
ある程度の得手不得手はあるので、
実践レベルまで持っていけるかは別の話だが。
(スピニング・ウォーター……。)
立方体の中に空間を作り、水を入れてかき混ぜる。
あっという間に泥入り岩の完成だ。
「シュート・ウィンド!」
操は立方体をまっすぐ山本に飛ばす。
それを見て同時に三神も魔法を使い、駆けだす。
「ライトニング・エンチャント……!ステップ!」
身体に無理やり電気を走らせ、
自分の限界以上の力を引き出す技のようだ。
三神が二度三度を土煙を上げながら山本の周りを駆ける。
「二人とも面白い魔法だ。
空原くんのはその岩を壊すと泥が出てきて、
僕の視界を遮るんだろう?」
(なんで見抜かれて……!)
動揺が顔に出てしまう。
「アイス・ランス。」
山本が左手で槍を作り、岩を突く。
壊された岩からは何も噴出しなかった。
泥ごとは凍らせてしまったのだ。
山本が操に気を取られている間に、
三神が目にも留まらない速さで拳を振っている……、
はずだった。
右手で拳を止められている。
「うん、三人とも合格だ。君たちはもっと強くなれる。
戦うのは好きそうだし、
空原くんは魔法にもっと慣れるといい。」
そのまま、氷の槍が霧散して操の周りに集まる。
「フロストバインド。」
(えっ……!?)
あっという間に霧散していた霧は氷の輪となり、
操を拘束した。
「三神君はもう少し近接戦闘を慣らすといい。
あとエンチャント魔法はしばらく禁止ね。
身体に悪いから。本当に危険な時に使いなさい。」
「それじゃあ、アイシクル・カウンター。」
衝撃を凍らせるエネルギーとして噴出。
逆に相手へ力を倍以上に返す魔法。
「……うがっ!?」
三神は止められた右手から勢いよく吹き飛ばされた。
捕まりながら見ていた操は愕然とする。
科学も理解し、魔法をも理解している。
山本クラスの人間がちゃんとした現代魔法使いなのだ。
むしろこの人以上がいるのだろうかと。
「さ~て、まだまだ続くよ~、
次の三人を指名するからね~。次は~……。」
山本警備会社。
入社式初日の夕暮れの事務所前は死屍累々であった。
その後も度々訓練が行われたが、
山本に土を付けることが出来た人間は誰も居なかった。
操は戦いの方法を学び始めたのであった。




