第6話:主人公と敵役
操の身体の周りは緑色の発光した珠に包まれていた。
その光は徐々に弱くなり、球の形を崩して消えた。
箱庭の中のせいで時間感覚が朦朧としてたが、
意外に時間は経っていたらしい。
辺りは暗く、
見渡した感じでは埠頭の廃倉庫の前といった感じだった。
恐らく移動に使われていた車から衛が飛び出してくる。
「カイトてめェ!こっちは会社の方角じゃねェ!
なんでこんなとこに車止めてんだ!」
響く轟音、爆発物の音。
車が爆発したのだ。
「状況が、状況ですからね!
バンが爆発でバァン……フフ……。」
「あァ!?随分余裕だなァオイ!相手は何人だコラ!」
「二人です。
余裕はないですね。こっちも必死に……。」
解斗の足元が爆発する。
「……必死に防御中なんですよ。
盲目モードの貴方を生かすのにどれだけ苦労したと。」
「あァ……もう、分かった分かった。ってかよ。
この固有はまさかよォ……。」
「冗談じゃねェ……。
テメェらの縄張りじゃねェぞここは……!」
赤髪のポニーテール、
ファーのついたコートと中に白いシャツを着ている。
長身の女性が気が付けば操の前に立っていた。
「じゃーん!
どうも山本社長から要請されて飛んできましたぁ!
フロンテラ代表の夕凪茜でーっす!
おやおや、VSCのお二人さん、久しぶりだねぇ~。」
早口で捲し立てるように話を進める茜。
「ってコトで少年?いや青年?お兄さん?
いや、どれでもいいか。立てるかい?」
「あ、はい。って……。」
背を向けて大丈夫なんですか?
そう聞こうとした、その瞬間。
海斗と衛がこちらに魔法を撃ち込んでいた。
「アクア・ストンプ!」
「ジェイル・ストーム!」
頭上に巨大な水の塊、逃げようとしても強風により動けない。
「クソアマが……こんなんで死ぬとは思わねェが……。」
「せめて傷跡ぐらい付けてやりたい……ですね!」
かなりの魔力を消費して放っているのが分かる。
あんな魔法自分では撃てないだろうから。
誘導棒を構え、慌てて臨戦態勢を取る。
片手を地面に魔法を詠唱しようとしたその時。
「あぁ、へーきへーき、
いざという時の為にとっておいていいよ。
あの眼鏡の方が言ってたでしょ?二人って。」
茜と名乗ったその人物がそう言った瞬間、
風の檻の外から何食わぬ顔で、
もう一人の女の子が歩いてきた。
まるで、風が無いかのように。
「マジかよ……あんな奴居たかァ!?」
「いえ、見たことはありません。
ですが、あそこに入るなら好都合です。」
そのまま水の塊が降ってくる、目を覆ったその時。
水は女の子を中心に、
時を止めたかのように球状となって止まっていた。
女の子は可愛い童顔の子だった。
黒髪のマッシュに前髪には白のメッシュカラー。
インナーカラーは青に染めてあるようだ。
フードを被っているのが印象的だった。
「これはこれは……。」
「トンデモねェ固有だな、ありゃァ……。」
衛と海斗が絶句している。
「まだ時間は平気かい?雫?」
歩いてきた子は言葉を発さず頷く。
茜はその返答に満足したのか指を鳴らす。
鳴らした指から一瞬光が走り、
周りの水を飛ばしてしまった。
「それじゃ、反撃開始と行きますか!雫ちゃん!操くん!
あの子達を捕まえちゃうよっ!」
ビシっと指をさして衛と海斗を指さす茜。
……操は迷わなかった。
「はい、分かりました。」
社長の関係者な上、
助けてもらっている以上従っていいだろう。
捕まえる前に…。
「西寺さん、
色々教えてくださりありがとうございました。」
「おゥ、構わねェよ。
できればその恩オレサマを逃がしてくれねェか?」
「いえ、俺の意識を変えてくれたからこそ、
捕まえるという形で恩を返させていただきます。」
礼節というのは大事だ。
仇で返すつもりはない、ただ敵となってしまっただけ。
「ヘッ……いいぜ、そっちの方がおもしれェからよォ!」
西寺は駆けだした。
逃げるのかと思ったが、こちらに向かってくる。
「おい、カイト!クソアマどもなんとかしろ!
オレサマはコイツとケリつける!」
そう言うと風の魔法を詠唱し、
茜と雫の二人と操を分断するように吹き飛ばす。
「はぁ……無理に決まってるじゃないですか……。
道開く大衆。」
茜と雫の吹き飛ばされた先の廃倉庫やコンテナが切り開かれていく。
まるで道を譲っているかのように。
吹き飛ばされた二人は、
「茜さん……アレ、いいんですか?」
「いやぁ~、敵同士の男の友情……。
いいよねぇ~……そそる~。」
「はぁ……。」
お構いなしだった。
ものの数秒で、海斗と二人の姿は見えなくなっていた。
「余所見、すんなァ、よォ!」
足に風の力を纏わせて、
勢い任せに突進して拳をぶつけてくる。
操は誘導棒の硬度を上げて、その拳にぶつける。
「いや、マモルさん相手に油断はしないですよ、もう。」
(コイツ……誘導棒が硬くなった?
んだこの違和感はよォ……。)
「ケッ、まだまだ汚ェ喋り方だな。
どうせ4号の話の時点で相容れなかったんだろ?
まだまだ本音が足りねェ、なァ!」
鉄の硬度に匹敵する誘導棒を殴っているはずなのに、
衛はさらに勢いを増す。
誘導棒と衛の殴り付ける手を見ると、
拳が当たっていないことが視認できた。
(なっ……!)
動揺する操。
「パンッ、てなァ!」
圧縮された風の魔力が、
誘導棒と拳の間を起点に大きく弾けようとしている。
衛自身も完全に捨て身の技。
場慣れしているだけ有り、状況判断が早い。
「冗談……じゃ……ないッ!」
誘導棒を握っていなかった左手で糸を生成し、
衛の足を捕えて掬う。
操もとある訓練で鍛えられているだけあり、
意図を察することが出来た。
「おァッ!?」
圧縮された風の魔力はコントロールを失い、
強風が吹くだけとなった。
「うッ!?」
衛は足を取られて、操は強風により、バランスを崩す。
二人とも膝をついていた。
「もしも、
あんたらがアレを使って何かする気なら、
俺はそっちには絶対につかない。」
身体を立たせながら、操は言う。
「俺は、優しく強くありたい。誰に対しても。
仮にも危機を作るモノに容赦はしない。」
「甘ェ、甘ェ!それが本音かァ!?
急に英雄気取りじゃねぇかァ!空原操ォ!」
同じく体制を立て直しながら衛がこちらを睨む。
「違う、これは自己満足だ。」
それでいい。
「元々自分の人生はどうでもよくて。」
目を覚ませ。
「所詮、配役は脇役だと思って過ごしてきた。」
俺は脇役じゃダメだ。
「ヒーローなんて柄じゃない、
今一時の感情で俺は喋っているし。」
言葉が下手でもいい。
「誰かのために死ぬとかできないし。」
ここから変わればいい。
「なんなら痛いのもごめんだ。」
痛みを知っているから。
「だからこそ。」
だからこそ。
「あんたらが来て。」
操は大きく一呼吸する。
「巻き込まれて。初めて気付いたよ。」
誘導棒を持ってない左手の全ての指から糸を発射する。
糸を廃倉庫へ、電灯へ、コンテナへ巻き付ける。
酷い眩暈が操を襲う。急激に体が冷えていく。
関係ない、今は、今だけはカッコつけなければいけない。
「自分が多少なりとも選ばれた力を持つってんなら
【最初から、俺は主人公をやってみたかった】ってさ!」
巻きつけられた魔力の糸は、
まるでプロレスのリングのように広がっていた。
(んだァ?糸をオレサマ狙いで振ってこねェ……?)
「へっ、面白れェ……。じゃァ、オレサマは最初の敵役って訳だ。
まだ遅くねェだろうよ。
これが最後にならないといいなァ!」
「『個喰らう』…」
「ロック・ウォール!その能力は!」
操と衛の間に岩の壁ができる。
「相手が見えないと捕らえられないんだろ!」
盲目になること、その代償に違和感を感じていた。
眼自体に仕舞っているのであれば、
そもそも見なければ捕らえられないのではないか?
もしも盲目にならないのであれば、
盲目にならずに他の部位にしまうことだってできるはずだ。
正直賭けだった、もしも間違っているのならば、ここで負けるだろう。
「チッ、小賢しい。それが分かったところでよォ!」
舌打ちをしながら、衛が足に風を纏わせる。
(どうやら賭けには勝ったらしい。なら……!)
風切音。
衛はこれを聞き逃した。
「風使ってテメェを視認すりゃいいだけだ……駆けろォ!ウィン……グッ!?」
死角からわき腹を殴られる。
(アイツは岩の裏に居るはず……なんだァ!?)
誘導棒がリング状の糸によって跳ね返り、わき腹に命中していた。
弾力性のある魔力の糸、音もなく誘導棒は反射し、
衛がいる場所へ飛んできたのだ。
(コイツ……!)
誘導棒にも糸が付いており、そのまま操の手元へ戻ってくる。
「棒のライトを付けねェ、警備員がいるかよ……。」
わき腹を押さえながら蹲る衛。
「業務は終了してるからな。
いまはプライベートだ。」
「ハッ……人の能力を皮肉るたァ……言いやがる……。」
「終わりか?」
身体を隠したまま、操は声をかける。
相手の固有魔法がある以上、
迂闊に岩からは出られない。
「いや、TKOには、ちと早ェ……が。」
「ここは大人しく引かせてもらうぜ……。
カイトの方もなんとか逃げ切ったみてェだしな……。」
「逃がすつもりはない……。
……さっきの二人を相手に逃げ切ったのか?」
疑問が浮かび上がる。
あの二人が海斗を逃がすのだろうか。
「アイツ一人なら無理だがなァ……。
そうだ……操ォ……テメェ……。
固有魔法の名前だけでも教えやがれ……。」
質問に答えてくれた人間に対して、俺は筋を通す。
(アンタのおかげで、この能力に名前を付けたんだ。)
「『変幻する鋼魔』……あんたのおかげだ。」
「ハハ……ハハハ!
糸と硬質と正義か!青臭くていいじゃねェか!
……ゼェ……。」
わき腹を押さえて苦しそうに笑う衛。
「そろそろタイムリミットだ。
じゃあ……な、空原操ォ……。次もどうせ敵だろォしな……。
そン時は勝たせてもらうぜ……。」
「そんなボロボロな身体で、何処に行くつもりだよ!」
糸のリングを縮めて一気に衛の拘束を狙う。
その瞬間、突然声が響く。
「熱い喧嘩に水…いや闇を差してすまないね。
うちの大事な役員だ。回収させてもらうよ。」
夜空に浮いていた星が一瞬消え、
声が響いたと思ったその時。
衛は影も形もなく消えていた。
なんともやりきれない気持ちと、
やり切った感の二つに襲われる操。
「はぁ……疲れ……いや勝ち……おえ……眩暈……。」
操は倒れ、気を失う。
操はここから主人公への一歩を踏み出し始めたのだ。




